毎週水曜日の愛

「僕は君が好きだからたくさんの言葉を口にするけど、君は同意するばかりで本心を明かしてくれたことはないね」

 お互いに授業が全休である水曜日。二人してだらだらと過ごしていた時間を打ち切ったのは、僕のその言葉だった。

「……いきなりどうしたの」
「いや…ふと思っただけだけど」

 彼女は読んでいた本から顔をあげ、何かあったのだろうかとこちらの表情を窺っている。相変わらずほとんど表情筋は働いていないようだけど、その表情からかすかに戸惑いを感じた。

「困ってる?」
「うん」
「いきなりこんなこと聞かれても困る?」
「困る」
「だよなあ…」

 もともと彼女は口数が少なく、感情を表に出すこともほとんどない。僕は彼女のそこを好きになったのだけど、さすがに言葉が少なすぎて不安になってしまう。…ってこの前友達に言ったら女々しいと言われたけど…
「まあ、深い意味はないんだけど…こうして僕らが付き合ってるのって、僕が君に告白して、それを君が承諾してくれたからでしょ。なんていうか…無理してないかなとか、考えるんだよ。それに、君が僕を好きかどうかなんて、彼氏として気になるのも当然でしょ?」
「気になるんだ」
「君は気にならないの?」
「聞かなくてもあなたが伝えてくれるから、知ってるんだもん」
「…そうだったね」

 淡々と、まるで他人事のように答える彼女。きっと彼女なりにいろいろ考えてくれているのだろうと思っているけど、感情が読めないから何を考えているかわからない。

「…言葉にするばかりが、愛ではないと思うの」
「えっ?」

 ふと彼女が口を開き、そんなことは珍しいものだから、つい声が大きくなってしまった。彼女は僕の声に驚いたらしく、こちらを怪訝そうな目で見ていた。

「ごめん。なに?」
「だから…例えば私があなたを好きだと言ったとして、それであなたが喜んだとして。確かにそれは恋人として微笑ましいワンシーンだけど、だからといってそれが私の本心だとあなたは分かるの?」
「えっと…つまり?」
「私があなたが喜ぶからとりあえず好きだと言っていたとしたら、あなた嫌でしょう」
「君、意外とすごいこと言うよね」
「そう?」

 ここでやっと僕はのんびりとした午後の時間には似合わないヘ
ビーな話題を提供してしまったことに気が付いた。しかし、今更話題を変えるのも不自然な気がする。

「えっと…じゃあ君は、どうやって愛を伝えるの?」
「伝えたことがないからわかんない」

少しの沈黙。彼女は僕の顔を見て、僕が何も言葉を発さないと分かると、興味を無くしたかのように本に視線を戻し、読書を再開し始めた。
自由奔放な彼女。付き合う前からそうだったけど、僕は未だに彼女がつかめない。それに、こうやって同じ空間に二人きりでいても何を話すわけでもないし、何をするわけでもない。ただただ、彼女は本を読み、僕はそんな彼女を眺めながらレポートを書いたり、読書をしてみたり。それだけ。

「君は…」

 僕が口を開くと、彼女は視線だけをこちらに向ける。読書に集中させてもらえないのが不満なのか、少し迷惑そうな顔をしている気がする。

「この時間は、好き?」
「…この時間?」
「うん。こういう、二人きりの時間。まあ、なにも恋人らしいことはしてないけど…君は、好き?」
「……」

何を言い出したのか理解しようとしているかのように、彼女は目を瞬かせた。

「んー…あなたがどう思ってるかは知らないけど…」
「うん」
「私は、この時間、嫌いじゃないよ。…毎週水曜日は、あなたの日。だから、私は水曜日が…その、一週間で一番楽しみ」
「……」
「……」
「……楽しみなの?」
「……楽しみなの」
「本当に?」
「……あなたのそういうとこ、割と嫌いだわ」
「えっ!?」

 彼女は拗ねたように寝転がり、読書に没頭し始めた。慌てて謝ろうとした時、彼女の耳が真っ赤になっていることに気付く。
 ああ、なんて不器用な彼女の愛。











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