音のない声を上げて

テスト三日目。
今日で、テストは終わりである。本来なら、今日から部活が始まるはずなのだが、マー坊…もとい、中谷監督が出張の為ついでに今日まで休みになったのだ。体が鈍って仕方がないと、あのバスケバカな先輩方は文句を言っていたが。

…さて、只今、俺と真ちゃんは絶賛別行動中である。登下校も、学校でも。今は俺はマジバにいて、真ちゃんは…テストも終わったし、自主練だろうか。分からない。どう行動するかさえ無干渉だ。お前ら喧嘩でもしたのかと、先輩方や同級生にしょっちゅう言われるくらい別行動である。やだ、チャリア組超有名。
理由なんて簡単だろう。先日、真ちゃんにキスされて、気まずくなった。それだけだ。

(…うまく躱してたつもりだったのにな)

真ちゃんが近付く分、俺が遠ざかって。何か言いそうな時は、そっと口に手を添えて、駄目だよって。それで、ちゃんと上手く真ちゃんをコントロール出来ていると思っていた。
だけど、あの一瞬、ちょっとボロを出してしまったせいで。

(つーか、なーんでキスとかしちゃうかなーもう誤魔化せねーなー。唯我独尊してこねえから、もう付き合う気とかはないんだと思ってたのになー)


『友達なら、なんで、』


真ちゃんの泣きそうな、もどかしそうなあの時の表情を思い出す。友達なら、なんで。その続きは何だったのだろうと、ずっと考えている。

友達。

真ちゃんは、俺が好きで。
俺も、真ちゃんが好きで。
だから、二人は付き合って。

「いやー、無理っしょ」

口に出すと、より現実を叩きつけるように響いて、空しい。
こんなにも想いが通じあっているのに、こんなにも繋がることが出来ない関係を、俺は初めて知った。
真ちゃんは、頭が良くて、バスケが超上手くて、かっこよくて、将来が約束されているような奴だ。将来にきっと、俺はいない。いてはいけない。
真ちゃんを好きになって、何度女の子になりたいと思っただろうか。女の子になれれば。まだ、俺はほんの少しでも希望を持っていられたかもしれないのに。

「はー…」
「ため息つくと、幸せが逃げますよ」
「…え」

ぶつり、と思考が切断され、目に入ったのは黒子と火神だった。深く考え込んでるときはただでさえホークアイがあまり発動しないから、思い切りふいを突かれた。

「この席は、君と緑間君の指定席なんですか?」
「なんで知ってんの?」
「まあ、少し事情がありまして」
「あ、そう…ていうかなんでここに?」
「ああ、実は明日までテストでして。テスト勉強にとここに来たのですが、暗い顔をしてる君を見かけたので」
「何かあったのか?」
「んー、まーね。てか、座れば?」
「いいのか?」
「いーよ、別に俺のじゃねーし」

じゃあ、遠慮なくと黒子が座り、それに倣って火神が座る。相変わらず、すごい量のハンバーガーがトレイにのっている。

「…火神、その量食べるの?」
「おう。一個いるか?」
「あー、じゃあ。さんきゅ」

貰ったハンバーガーの包みを開ける。火神は、もうひとつ目をリスみたいに頬張って次に移ろうとしている。

「高尾君、元気無いですね」
「え、そう?…や、そーだな。元気出ねーもん」
「…緑間君のこと、とか」
「ブッ」

いきなり核心を突かれ、口に含んだハンバーガーを吹き出してしまった。

「汚いですよ、高尾君」
「いやいやいや!え?なに?黒子って超能力者とかだった?」
「いえ、普通の人間です」
「影薄すぎる人間が普通の人間かどうかは不明だけどな」
「火神君うるさいですよ」

無惨にも散ったハンバーガーをナプキンで拭き取り、黒子に向き直る。こいつは絶対、なんか関わってる。

「真ちゃんと、何か話したでしょ」
「はい。内容は、伏せさせていただきますが」
「いーよ別に、予想つくし」
「まあ、そうですよね」

火神が何のことか分からずに首を傾げている。火神はハンバーガー食べてたらいいからと、手をひらひら振りながら言うとまたリスみたいに食べ始めた。可愛いなこいつ。

「何かされました?緑間君に」
「……なんか癪だなあ、色々知ってる黒子にゆーの」
「色々知ってるから今更ですよ。何かあったんでしょう、その言い方は」
「……………キスされた」
「おや」

黒子が微かに目を見開いた。そこまでは想像してなかったのだろうか。

「それからの展開は?」
「ない。気まずくなってチャリア組解散の危機」
「部活は…」
「今ねーもん。今日までテスト休み。あ、てか黒子たち勉強しなくていーの」
「まあ、休憩がてら君の話を聞き終わったらします」
「…あっそ」
「あの、聞いておきたかったんですが、高尾君は緑間君のことどう思ってるんですか」
「………好きだよ」
「…じゃあ、」
「付き合えって?緑間君も君のこと好きですよって?知ってるよ、そんなの」
「…緑間君も君の気持ち知ってますよ」
「それも知ってる」
「………」

黒子が困った顔をした。困ってんのはこっちだっつーの。

「…何が駄目なんですか」
「何だろ…」
「君たちは、恋人同士になるだけじゃ幸せにはなれませんか…?」
「…今、俺は充分幸せなんだよ。真ちゃんとバスケが出来て、真ちゃんと一緒にいれて。これ以上を望む必要、あんのかな?」
「………ボクには、難しい問いです」

ちょっと失礼。少し考え込んでいた黒子が、そう言って携帯を取りだし操作し始めた。会話の途中で携帯だなんて、黒子にしては珍しい。

「……あのさー」
「ん?なに、火神」
「高尾の話聞いてて思ったんだけど…」

トレイの上のハンバーガーが綺麗に無くなっている。火神は、食べ終えたらしい最後の包み紙を机に置いて、口を開いた。

「お前、そんな寂しそうな顔して幸せとか言うのな」
「…!」
「いやさ?高尾が幸せならいーんだけどさ…確かに、お前緑間といると楽しそうだし、幸せなんだろーなーっつーのはわかんだけどさ。なんか…お前の今の顔、全然幸せそうじゃねーし。お前の言ってる幸せって、ほんとに緑間と高尾にとっての幸せなの?」
「………」
「そうですよ」

黒子が、操作していた携帯をパチンと閉じて、笑う。

「君は、緑間君の幸せを願うあまり、緑間君をちゃんと見なくなってしまっている。君の考える緑間君の幸せは、所詮君の考えであって、緑間君にとっての幸せとは限らないでしょう。そこら辺、ちゃんと話し合って、きっちり話つけた方がいいんじゃないですか?」

ああ、こいつは、本当に余計な事をしてくれる。ホークアイが見付けた緑に、息を飲んだ。

「高尾」
「…真ちゃん」

目の前に、息をきらした真ちゃんが立っている。Tシャツとバスパンにジャージ羽織って、バックも持たないで。どれだけ急いで来たんだよ。

「すいません。もどかしかったんで、呼んじゃいました」
「高尾、話があるのだよ。来い」
「………うん」

黒子、後でマジフルボッコにする。…あと、礼も言わないと。
ちゃんと話した方がいいのだろう。きっと。この中途半端な関係を、はっきりさせなくては。

友達か。
恋人か。

はっきり、させなくてはならないのだろう。









音のない声を上げて



(泣き叫ぶしかないじゃんか)











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