苦しいって言えよ

マジバーガーの一角。隅にあるためあまり人が来ないことから、ここを高尾と俺で特等席と呼び頻繁に利用している席を、まさか黒子と座る日が来るなんて思っていなかった。

「ボクだって、君とマジバで対面するなんて思ってなかったですよ」
「…なぜ俺の考えていることが分かったのだよ」
「君は単純ですから」

すました顔でそう言い、俺の奢りであるシェイクを飲んだ。全く、読めない奴だ。

「君が相談事なんて、珍しい…というか、初めてでしょうか。しかもお互いに苦手としているはずのボクに相談するだなんて、よっぽどですね」
「中学時代は専ら赤司にしか相談などしなかったが、今は赤司は京都だからそうそう相談などしていられない。それに、近場にいる黒子、青峰、黄瀬の中でお前を選んだのはちゃんと理由があるのだよ」
「高尾くんのことですか?」
「な、」
「君は、単純ですから」

なぜ。そう言う前に再度先ほどの言葉を繰り返された。何を言いたいか分からない目が、何かを言いたそうに揺らめく。

「ボクは最初高尾君に対峙した時から何かを感じていました。実力はキセキに到底及ばない。しかし、何かしでかしそうな、そんな何か。恋愛に聡い訳ではないですが、これでも人間観察は得意なので、君たちが惹かれ合うのは予想が付いていました。……意外に、まだ付き合ってないみたいですが」
「意外に、か」

高尾についての相談をどう切り出そうか悩んでいたのに、こうも簡単にとんとんと話が進むとは思っていなかった。しかし、こうなれば話は早い。

「…俺は、高尾が好きなのだよ。それについては、否定などする気もない。大切だと思うし、手に入れたいとも思う」
「それにしては、手を出すのが遅いですね」
「下世話な言い方をするな。俺はただ…」
「ただ?」

この先が今回の相談の本題であるのだが、どう言っていいものかと言いよどむ。はっきり言って、こんな話をするなんてキャラじゃないのだ。

「面倒くさいので早く言ってください。シェイク飲み終わっちゃいます」
「基準はシェイクか…」
「当然です。さあ、どうぞ」
「…高尾が、拒絶するのだよ。あの目で」
「拒絶?」
「はっきり拒絶の言葉を聞いたわけではない。しかし、俺が少し距離を縮めると、高尾は少し離れていく。言葉にしようとすると、駄目だと言って、ひらりと躱してしまう。俺の感情に戸惑って困ってしまっているのならいいのだ。でも…」
「ボクが先ほど言ったように、高尾君も緑間君が好きですよね」
「…ああ、きっと、そうなのだろう。高尾から、想いが伝わってくるのだ。気のせいなら、とんだ勘違い野郎だと自分を笑えたのに…」
「高尾君は、君を必要以上に大切にしている節がありますから…でも、ボクはやはり君がまだ高尾君に手を出していない理由が分かりません」
「そうか?」
「君は、高尾君のそんな悩みをくだらないと言い、唯我独尊に告白してしまうようなタイプでしょう。帝光時代三年間自分を貫いていたのは、おそらく君だけでしたし」

黒子が吸っていたストローから、ズズッとシェイクが無くなったことを知らせる音がした。名残惜しげにカップが机に置かれる。

「俺だって、そうしたいのだよ」
「しないんですか?」
「……きっとお前はこんな俺を笑うのだろうが…俺は、高尾の傍にいるとどうしようもなく怖くなるのだよ」
「怖く…」
「こんな想いを抱いたのは高尾が初めてだ。今までは、毎日に人事を尽くせれば、それで良かった。しかし、高尾を好きになってから、日常が変わり始めた。どこにいても常に高尾が傍にいるから、今では、いないと不安になった。少しずつ高尾に合わせることが増えてきたし、何より…俺は、高尾に何もかも依存してしまいそうで怖いのだよ」
「……緑間君」
「俺は、高尾と付き合うことで弱くなってしまうのではないだろうか。そう思うと、高尾の手を掴むことがどうしても出来なくて…」
「…君は、本当にアホですね…」
「は!?」

いつも読めない目が、今は俺にも分かるくらいの憐れみの色に染まっている。真剣に話した相談だったのに、まさかアホなどと言われるとは思っていなかった。

「なんなのだよ!」
「君がなんなのだよですよ。そんなくだらないことで悩んでないでいつもの唯我独尊で早くくっついちゃってください」
「あのなあ…!」
「緑間君」

イラつきを抑えず文句を言おうとする俺を遮って黒子が口を開く。その目に、ぐっと押し黙ってしまった。

「今は分からないかも知れませんが、君が高尾君を諦めてしまえばきっといつか後悔すると思うんです。君たちは運命が引き合わせた二人です。…ボクは、純粋に君たちの友人として、君たちには幸せになってもらいたいです」
「……」
「ボクは、応援していますよ」

そろそろお暇しましょうかと、空になったカップを持って黒子が席を立つ。黒子のシェイクと一緒に買ったアイスティーは、一口も口をつけないまま氷が溶けて薄くなってしまっていた。









苦しいって言えよ



(俺は苦しいよ)











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