嘘ばっかりだ

俺たちは、お互いに隠し事をしている。いや、隠し事をしていることを知っているのは、しかもその内容を知っているのは、隠し事をしているとは言わないのだろう。
しかし、二人が頑なにそのことを相手に話そうとしないのだから、やはり俺はそれを隠し事としか呼べないのである。



「…かお、…高尾、起きるのだよ」
「…ん」

降りかかってくる柔らかい声にふと目を開けると、呆れ顔の真ちゃんと目が合った。

「…んー?」
「大丈夫かお前、状況分かってるか?」
「分かんない」
「部活後、俺の自主練を待っている間に寝てしまったのだよ」
「まじで?」

ごめんと言い、目を擦りながら体を起こすと体にかかっていたらしいジャージが重力に即して床に落ちた。

「…誰の?」
「俺のだ」
「真ちゃんの?かけてくれたの?」
「…悪いか」

照れているのか、顔を背けられた。そんな真ちゃんを見てくすりと笑うと、笑うな、と小突かれてしまった。

「ありがと、真ちゃん」
「フン、秀徳のPGに風邪など引いてもらっては困るからかけてやっただけなのだよ」
「やだ、真ちゃんたら照れちゃって〜」
「照れてなどいない!」

からかうと、かみつくように怒られた。その反応がまたおかしくて、今度は声をあげて笑うと、怒ってしまったのか、俺にかけていたジャージをひっつかんで出ていってしまった。慌てて追いかける。

「ごめん真ちゃん!待って待って!」
「せっかくの人の好意を笑う奴なんか待たないのだよ」
「ごめんって〜」

そんなことを言いながら、横に並ぶと歩くスピードを緩め一緒に歩いてくれる。出会った頃に比べたら扱いが天と地の差だ。

「昨日は半袖でいいくらいだったのに、今日さっみーね」
「季節の変わり目だからな。着る服に悩むのだよ…高尾、お前は油断しやすいのだから体調管理にはしっかり気を使うのだよ」
「秀徳のPGを心配してくれんの〜?」
「お前がいなかったら誰がリアカーを漕ぐのだよ」
「そっちかよ!」

ひっでー!と真ちゃんの肩をたたくと、したり顔で邪魔だと頭をおさえられる。くすりと笑った顔に、胸が高鳴った。

「嘘なのだよ。お前には明日もパスを出してもらわなくてはならないからな。しっかり人事を尽くすのだよ」
「……っ、おう…」

赤くなった顔を隠すようにうつむいた。ふいに真ちゃんが立ち止まり、それに伴って俺も歩みを止める。

「真ちゃん?」
「……顔が赤いのだよ、高尾」
「!」

綺麗にテーピングを巻かれた左手が、するりと頬を撫でた。テーピング越しに真ちゃんの体温が伝わってきて、さらに顔を赤くしてしまった。

「高尾…」
「や、やだな…真ちゃん、くすぐったいよ」
「……」
「駄目だよ」
「しかし、高…」
「真ちゃん、離してよ」

うつむいて真ちゃんの体を押した。もう一度真ちゃん、と呼ぶと、名残惜しそうに手が離れていった。

「…すまない」
「いや、」
「…帰ろう」
「うん」

少しの沈黙。明日も寒いかなと聞くと、どうだろうな、と返ってきた。そのまま、俺も真ちゃんも黙って歩いた。
…月が、綺麗な夜だった。











嘘ばっかりだ



(俺もおまえも)











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