声をだに聞かばや。

「………もしもし、真ちゃん?」

携帯から聞こえた覚えのある声に少なからず驚いて、つい黙ってしまった。この声は。このいつの間にか定着してしまったふざけた呼び名は。この呼び方をする奴なんて、一人しか。

「……高尾?」
「……うん」

やはり。大学に入って三年、いつの間にやらお互いに連絡を取ることの無くなった高校時代のチームメイト、高尾和成だ。最後に連絡を取ったのはいつだったか…

「久しぶりだね、真ちゃん。いつぶりかなー、もう覚えてねえなあ。元気してるー?」
「………」
「……ちょっと真ちゃん?返事してくださらない?」
「……何の用だ」

言葉が出てこなくて、なんとなく刺々しい言い方になってしまったのを自覚した。電話の向こうで高尾が少し言葉を詰まらせる。

「……用がないと電話しちゃ、駄目だったかな」
「………高尾、」

高尾の声がほんの少し震えた。高尾め、まだ強がる癖が直っていないのか。

「駄目だということはない。…俺だって、動揺くらいするのだよ。なんと言えばいいのか…いきなり、どうしたのだよ」

約三年振りの電話だ。昔、高尾が気紛れにしてきた電話とは訳が違うだろう。何か理由があるに違いない。そう思って言い方を変えて問うと、再び高尾が言葉を詰まらせた。

「……高尾?」
「あ、いや…なんていうか。あの…特に、何が起こった訳でもないんだよ」
「は…?」
「ずっと…連絡取ってなかったじゃん。結構俺、忙しくて。ていうか、俺でさえこんな忙しいんだから医学部行ってる真ちゃんはもっと忙しいんだろうなーって思って連絡してなかったらタイミング失っただけなんだけどさ。えっと、あの、だから」
「待て高尾。纏めてから喋ってくれ。何を言いたいかが分からない」
「あー…えっと」

少しの沈黙が続いた。どう言おうか考えてるのだろうが、そんな言いにくい用件なのだろうか。

「真ちゃん、笑わない?」

ふいにそう高尾が言って、戸惑う。話す内容が分からないのにどう判断しろと言うのだろうか…

「…内容次第だ」
「超不安なんだけど」
「いいから早く言え。待ち飽きたのだよ」

そう返すと、また高尾は少し黙ってやっと口を開いた。

「声、聞きたくなって」

ぽつりと話したその言葉を理解するのに、少しかかった。声、というのはまあ、俺の声なんだろうが…

「……すまない。結構動揺したのだよ」
「ご、ごめん。意味分かんないよな、こんなこと言われても。でもほんと、声聞きたくなっただけなんだ。だから……ごめん、くだらねえ電話で」

気まずそうな声にため息をついた。そのため息が聞こえたのか、高尾な息を飲む音が聞こえてきて、重ねてため息をつきそうになったがこらえる。

「今さらすぎると言うかなんと言うか…相変わらず猫並みに気紛れだなお前は」
「すいませーん…」

俺を気遣って電話を遠慮していた癖に、声が聞きたくなったという気紛れで電話をしてくるなんてお前は何がしたいのだよ。そう言ってやりたかったが高尾には言わずとも伝わっているようで、電話越しに気まずそうな空気が伝わってきた。

「……真ちゃん」
「なんだ」
「もうひとつ、くだらないこと言っていい?」
「……いいだろう」
「……会いたいよ」

泣き出しそうな声だった。ああ、そうか。そうだった。こいつは。

「真ちゃん、俺まだ真ちゃんが好きだよ…」

今まで電話を遠慮するのにどれだけの我慢をしてきたのだろう。今回、電話するのにどれだけの葛藤があったのだろう。今、この言葉を言うのにどれだけの勇気を出したのだろう。

高校時代俺たちは所謂恋人という関係にあって、しかし卒業式の日、それぞれがそれぞれの道に専念出来るようにと、きちんと高尾と話し合った結果別れた。だから、高尾も連絡を遠慮していたのだろう。

「せめて、声だけでも聞きたいって思っただけなんだ。真ちゃんのこと、忘れられなくて。わがままだと思ったけど、どうしても声聞きたくなって。声さえ聞ければもうそれでいいって。…でも、どうしよう、会いたいよ、真ちゃん」

泣き出しそうな…いや、泣いているのかもしれない、掠れた声で溢れ出した様に高尾は言葉を紡ぐ。知らない間に俺はこんなにもお前を傷付けていたのか?

「高尾、」
「な、に」

ひっく。とうとう泣き出したのか、しゃくりあげる声が聞こえた。

「はあ、泣くな高尾。お前が泣いているのは辛いのだよ」
「う…だってえ」
「だってじゃないのだよ。…あのな高尾、俺は今、少し忙しいのだよ」
「へ…?」
「しかし今やっている事が終われば時間を作れる。だから、少し待ってくれないか」
「え?…あれ?どういうこと?」

戸惑った声を上げる高尾。その声を聞きながら、更に柔らかい声で告げる。

「お前に会いに行くと、言っているのだよ」
「え」
「嫌なのか?」
「いや、嫌って言うか…え、なんで!?」
「なんだ、お前が会いたいと言ったのだろう」
「い、言ったけど!」

…迷惑じゃないの?と高尾が呟いた。愚問なのだよ。

「高尾、くだらないことを言うが、俺だってお前に会いたいのだよ」

この三年間、我慢をしていたのは高尾だけではない。俺だって、ずっと我慢をしていたのだ。

「情けないが、動き出すのが遅れてしまったからな。次は、俺の番なのだよ。…まあ、また少し我慢してもらうことになってしまうが」
「……真ちゃん、俺、期待していいの?」

再びの泣き出しそうな声だった。ああ、どっちにしろ俺はお前を泣かせてしまうのだな。

「ああ、高尾。俺もお前がまだ好きなのだよ」










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復縁緑高ちゃん
タイトルの訳は「せめて声だけでも聞きたい」
古文の授業でタイトルの文を訳せって問題があって、訳聞いた瞬間思い付いてしまった作品
どうしても文章がぐちゃぐちゃになりますね…











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