きんいろに輝く

人事を尽くす俺の周りには、いつもキセキが溢れていた。その中でも、とびきりのキセキの話をしようと思う。
それは、俺と高尾の、小さな小さなキセキの話。

高尾と出会ったのは4月。
最初は、なんだこの軽薄そうな男はと、嫌悪感を覚えた。あちらから話しかけてこなければ、たとえ同級生といえども話すことはほとんどなかっただろう。
しかし。

「しーんちゃん。なんで置いていくんだよー」
「…逆になんで付いてくるのだよ」

奴は、あろうことかことあるごとに話しかけてくるわ、付いてくるわ、やたらと俺に構った。最初は鬱陶しくて追い払っていたが、高尾がめげる様子はなかった。いつしか俺は追い払うのを諦めた。
なんせ同じクラスで同じ部活だから、どうしても顔を合わせなければならないのだ。追い払うのも面倒くさい。

「それでな、妹ちゃんがな…」
「…で、そんときあいつなんて言ったと思う?」
「キャプテン練習中めっちゃ怖くね?普段は優しいのにさ。ま、一番こえーのは宮地サンだけど。あ、そーいえばさ…」

高尾はよくしゃべる。俺が何をしていて、どんなに話を聞いてない風でもずっとしゃべっていた。

「…お前、楽しいか」
「へ?」
「俺と話すの、楽しいか」
「楽しいよ?なんで?」
「…そうか」

変な奴だと思ったが、こいつが勝手に付いてくるならまあそれも悪くない。そう思った。



5月。

「あの先生の授業つまんなくね?真ちゃんよく寝ないでいられるね」
「その呼び名はやめろ。確かにあの先生は授業が単調だが教え方は丁寧で分かりやすいのだよ」
「そう?俺は真ちゃんのが分かりやすい」
「俺を頼るな。…俺は数学教諭の方が好かん」
「あーあの人ねー」

会話を、するようになった。話をしているのは圧倒的に高尾の方が多いが、時折相づちを打ったり、会話をしたりする。
高尾の話はなかなか面白い。話上手なのか、テンポが良くてすらすらと紡ぎ出される言葉が心地よい。相づちを打ちながら聞くのも、どこか上の空で聞くのも高尾は全然気にしないから気が楽だった。

「昨日妹がピアノで賞を取ったとかでお祝いにケーキが出てそれが美味かったのだよ」
「ふうん?何のケーキ?」
「苺のショート」
「ブハッ、可愛い真ちゃん!」
「何故だ!苺のショートの美味さなめるなよ!」
「しかも好物かよ!更に可愛いな!」
「何でも定番が一番美味いものだからな」
「そう?俺甘いもの好きじゃねえからあんま食わねーけどモンブランが好き」
「ふん。今度苺のショートの美味さを思い知らせてやるのだよ」
「おー楽しみにしてるわー」

と、自分から話題を出すようにもなった。
高尾とよくカードゲームをしているクラスメートから、「意外と緑間ってしゃべるよな」と言われたくらいだ。確かに、少し前の自分と比べたらずいぶんと口数が多くなったとは思う。まあ、それでも高尾の足下にも及ばないのだが。

まあ、あれだ。なんというか…非常に不本意だが。
高尾と話すのは、悪くない…し、まあ、少し、楽しいと、思ったから。
もっと話がした…もとい、話を聞いてやってもいいかと思ったのだ。



6月。

「高尾、移動教室行くぞ」
「はいよ」

「高尾、部活に行くのだよ」
「あー、ちょっと待って!5秒待って!」
「早くしろ」

「高尾、帰るぞ」
「はーい!じゃあ先輩方失礼します」
「失礼します」
「おー…………………、………緑間今デレ期?」
「さあ…」
「あいつらいつ見ても一緒にいるよな。いつでも一緒とかそこらへんのうざいバカップルか」
「………宮地、お前よく見てるな」
「見てねーよ!轢くぞ!」

……………まあ…確かに、この頃から…高尾がいないと不自然というか、なんとなく違和感というか、………確かに無意識に常に高尾といたような気がする。
別に傍にいないと不安だとか、そういう訳では無かった。しかし、いつでも高尾が付いてきたから、ついどうせ付いてくるのだろうと呼んでしまっていただけなのだよ。それだけなのだよ。
しかし、俺が感じた違和感は、この辺りから加速した。

「真ちゃーん!高尾ちゃん女の子から調理実習で作ったクッキーもらっちゃった!」
「そうか良かったなすごくどうでもいい」
「ノンブレス!」
「クッキーぐらいで羨ましがったりせん。ガキか」
「もー相変わらず真ちゃんは女の子に無関心だなー」
「あえて言うなら俺はバスケが恋人なのだよ」
「ああそうですか」
「………………高尾」
「え、なに真ちゃん」
「……クッキーは、食べるな」
「え。あ、はい」
「………?俺は何を言ってるんだ?」
「それ俺のセリフだね?」

6月のある日、女子からもらったクッキーを高尾が食べようとした時、無意識に止めてしまったことがあった。高尾はその日、結局友達にクッキーをあげてしまったのだが、俺は自分の行動が理解出来ず困ってしまった。
しかもその無意識の行動は続いた。カードゲームに夢中になっている高尾を叩いたり、友達に誘われて席を立とうとする高尾を引き止めたり、ラブレターをもらった高尾を叩いたり、宮地先輩と楽しそうに話している高尾のつむじを押したり、高尾を叩いたりした。最後のは何故叩くのかと怒られた。意味は無かった。
俺と話している高尾の意識が他に向くと、モヤモヤした。話しているとき、高尾に触れたくなった。その感情の意味が、俺には分からなかった。

「…なあ真子、最近つい高尾を叩いたり構ったり触ったりしてしまうのだが、どうしてか分かるか」

と、妹に聞いてみたこともあった。

「お兄ちゃん、それは………。私としては、そうですかごちそうさまですぺロムシャアな感じなのだけど」
「日本語を話せ」
「んー…そのままの、意味よ。構われたいんでしょ?お兄ちゃん。そういうことよ」
「どういうことだ」
「自分で気付かないと意味ないし、正直分かってないお兄ちゃんすごく萌えるわ」
「何を言っているんだお前は」

妹の言っている意味は、よく分からなかった。
しかし、俺に構われる高尾は幸せそうで、モヤモヤは消えなかったが、時間が解決してくれるだろうと気にするのをやめた。



7月。

7月に入ってからというもの、高尾がすごくそわそわしていた。そして、上機嫌だった。

「…高尾、最近落ち着きがないな」
「えっ!……そ、そんなことないよ」
「嘘つけ。明らかにそわそわしてるのだよ」
「…真ちゃん俺のことよく見てるね!」
「言ってろ」

迂闊にもというかもうそんな年でもないからというか、俺はその日をすっかり忘れていた。高尾が上機嫌な理由は分からなかったが、楽しそうな高尾は見ていて楽しかったから深く考えていなかったとも言える。
しかし、モヤモヤはなくならなかった。その上、高尾のスマイル0円2割増がかわ……いや、見ていると体が熱くなって心臓がバクバクいった。

「真子、俺は病気かもしれん…」
「ふうん」
「学校にいる間だけなのだが、しょっちゅう心臓がバクバクいうのだよ」
「……それはもしかして、高尾さんが近くにいると特にそうなるのかしらお兄様」
「ん?ああ…確かにそうだな」
「…本が…薄くなるな…。ごちそうさまです」
「夕飯はとっくに終わったのだよ?」
「今食後のデザートが終わった」
「はあ?」

そんな馬鹿をやっている内に、"その日"は刻一刻と近付いてきていた。
日にちが経つにつれて高尾の笑顔が増えていくことに、今さらながら何故俺はそのことに気付かなかったのだろうと思う。毎日おは朝を見ているのだから、普通気付けるはずなのだが。



そして。

来る、7月7日。

―の、部活終わり。

「真ちゃん!俺ね、真ちゃんにプレゼントがあるんだー!とりあえず、チャリアカーのとこまで来てもらっていい?」
「プレゼント?」
「うん。やっぱりだけど真ちゃん、今日という日に気付いてないでしょ」
「?」

そして、チャリアカーに着いた時。
ああ、そういうことかと気付いた。

「…すごいな、これは」
「でしょ?」

あざやかな黄色が、太陽に煌めいていた。

「事務員のリヤカー貸してくれてるおっちゃんに頼んで用意してもらったんだ。綺麗でしょ?」
「……ああ、とても綺麗だ」

リヤカーを飾る大量のひまわり。それは華やかで、綺麗で、息をするのも忘れそうなくらいだった。

「ありがとう高尾、嬉しいのだよ」
「どういたしまして。…あのね、真ちゃん。もうひとつ、言いたいことがあるの。」
「なんだ?」
「あのね、ひまわりの花言葉、知ってる?」
「…いや、分からない」
「ひまわりの、花言葉はね。…『崇拝』『あこがれ』『熱愛』とか、いろんな意味があるんだけどね、俺が言いたいのは、これ」

「『私の目はあなただけを見つめる』」

高尾が、俺を見た。柔らかく微笑む。

「真ちゃん、好きです。俺と付き合ってください」

ぎゅっ、と。胸が、痛くなった。
いとおしいと言うように俺を見つめる高尾。ひまわりが風にゆらりと揺れる。
高尾はひまわりを一束手に取ると、俺に手渡した。

ぼろり、涙が零れた。

「えっ…ちょ、真ちゃん!?」
「………たかお、」

ああ。そうか。
真子、そういうことなのか。

これは、恋というものか。これが、好きということなのか。

「たかお、ありがとう。うれしい。うれしいのだよ」
「…うん」










「高尾、俺もお前が好きだ」










(これは、俺と高尾のキセキの話。)







Happyberthday! SINTAROU





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途中で文章が半分くらいクラッシュして死にたくなりました/(^o^)\
緑間視点…難しいね…?(^o^)漂う高緑臭…どういうこと…?(^o^)
緑高です。うち緑高サイトですから。緑高です!!!!!
なにはともあれ真ちゃんおめでとう!











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