恋を知って、泣く

俺は幼い頃からバスケが好きで、バスケ好きなら黒子や火神、青峰、黄瀬、もちろんうちのエース様にだって劣らない自信がある。小学生の頃にミニバスを始めてから、ずっとバスケ一筋でやってきたのだ。
だから、正直色恋だとかいうものがよく分からない。何故かこんな俺を好きになって告白してくれた女の子もいたのだが、バスケに専念したいからといって全て断ってきた。つまり俺の恋愛経験はゼロだ。

「…恋ってなんだろーな真ちゃん」
「…相変わらずお前は馬鹿みたいな事を聞いてくるな」

昼休み。昼食を食べ終わった俺達は、真ちゃんは読書、俺はグラウンドでやっているサッカーの観戦と、隣にいながらも各々好きなことをやっていた。
無視されること前提で話しかけたのだが、意外にも緑間は手元の小説に目を走らせながらも俺の話に耳を傾けてくれる。無視されていた最初の頃に比べたら随分と優しくなったもんだ。

「うっわひど!しかも相変わらずって何よ」
「お前の質問はいつだってくだらないのだよ」
「だってさーもうすぐバレンタインだぜ、バレンタイン。男子も女子もそわそわし始める時期じゃん。そんな時期だというのに俺達のしてることって朝から晩までバスケバスケバスケ!まったく、バレンタインのバの字も…あっ出てるどうしよう」
「やかましいのだよ」
「痛い!」

バレンタインについて騒ぐ俺の声がよほど耳障りだったのか、緑間からのチョップが俺の脳天にかまされた。身長に合わせて手が大きいからか、緑間のチョップは痛い。

「痛いわー…真ちゃんチョップはないわー…」
「お前が騒がしいのがいけないのだよ、高尾。第一俺達にクリスマスだバレンタインだと浮わついている暇は無いのだよ」
「いやね、そうなんだけどね?それでも男子だったらちょっと浮わついちゃうじゃん?ちょっとわくわくしない?」
「しないのだよ」
「ですよねー」

はい想像通りの答えいただきましたーとからかうように言い、窓に目を向ける。グラウンドでは今どちらかのチームがゴールを決めたところらしく、歓声があがっていた。

「……ていうか、真ちゃんバレンタインのチョコとか貰ったことあんの?」

ふと疑問に思ったことをそのまま口に出した。緑間とバレンタイン。そして今の反応。いまいちバレンタインにチョコを貰う緑間が浮かばなかった。

「…まあ、多少は…」
「まじで!…あ、言っとくけど家族はノーカウントだからな」
「分かっているのだよ」

馬鹿にしているのかとでも言いたげな目が向けられる。しかしまさか貰ったことがあるとは正直思わなかった。いや、しかし黙っていれば緑間はイケメンだし、もしかしたらこの変人っぷりが好きだという女子もいるのかもしれない。

「何個貰ったの?誰?高校の女バスとかだったら知ってるやついるかもしんね」
「…こういうのは口外するものではないと思うのだが」
「いーじゃーん!ね、ちょっとだけ」

ぶりっ子の様に小さく首を傾げる。そんな俺を見て緑間はため息をひとつ。

「…小学生の頃は毎年母から貰うだけだったが…中学に上がってからは桃井がレギュラー全員に配ってくれていたからな。…ああ、あと確かクラスメイトの女子がくれたことも何度かあったのだよ」
「あー、桃井さん、ね。いいなーあんな美人からチョコ貰ったとか!」
「ただの義理チョコなのだよ」
「それでもいーじゃん!なに?本命じゃないとバレンタインチョコって認めないって言うのー?」

贅沢だなー、真ちゃんはー。と茶化すと、緑間は心外だと言うように眉間に皺を寄せた。
「そういう高尾はどうなのだよ」
「えー、真ちゃん俺のバレンタイン事情が気になるのー?どうしよっかなー」
「聞き逃げは卑怯なのだよ」
「分かってるって」

ははっと笑って、今までのバレンタインを思い返してみる。冒頭にも話したように、バスケ一筋だったので好きな女の子に貰ったなどという甘いバレンタインは送っていない。

「俺は毎年母さんと妹ちゃんとー、あー、何回か本命チョコとか貰ったこととかあるけど、全部断ったなー」
「…何故だ」
「え、だって別にその子のこと好きじゃなかったし。ホワイトデーにごめんねって言ってお礼渡しただけ」
「意外だな」
「そう?」
「ああ。この時期によくあるとりあえず付き合ってすぐ破局みたいなことをやっているものだと思っていたのだよ」
「なんかそれ嫌なんだけど」
「…まあ、正直どうでもいいのだよ」

そこまで言うと本当にどうでもよかったのか俺に向けていた視線を本に落とした。相変わらずだなあと思いながらそこからはなんとなく黙っていると、予鈴が鳴った。

「あ、予鈴」
「次は…移動教室なのだよ」
「教科書持ってくるー」

グラウンドでは、上着を脱いだ男子生徒達が校内まで走っている。結局どちらが勝ったのかは分からなかった。



* * *




バレンタインの時期というのは何故かいつも体育は持久走だ。持久走だなんていつも部活でやっている練習に比べたら楽なもんだが、俺や緑間他バスケ部は、監督が体育科に手を回しているのか毎年メニューがきつめである。これも部活のメニューよりは軽いのだが、放課後に部活が待っていると思うと無闇に本気で走るのは憚られた。
ランニング中、文化部の女子がのんびり走っている横を通り抜けようとした時、ふと見知った名前が聞こえてついスピードを下げる。

「…貰ってくれるよー、私緑間くんと中学一緒なんだけど、去年あげたら貰ってくれたよ?」
「え、そうなの?」
「うん。ああ見えて緑間くんって優し…」

それ以上は遠くなってしまって聞こえなかったが、確かに緑間くん、と言っていた。会話のテーマは考えるまでもなくバレンタインのことだろう。意外なところで緑間にチョコをあげた女子が発覚してしまった。
あの女子が言ったように、知られてないだけで真ちゃんは優しい。それに律儀だから貰ったらきちんとお返しもするだろう。

「…んん?」

胸の奥にもやりとしたものが過り、チリチリと痛んだ。それが何を意味するのかが分からなくて、長距離を走ったせいだと誤魔化した。
走り終わり、脈を測るためにタイマーのところまで行くと、トップで走り終えた緑間が脈を測っていた。流石エース様、体育でもトップは譲らない。

「しーんちゃん!お疲れー」
「…高尾か」
「流石だな、真ちゃん。マラソン大会でもトップ狙ってるんだろ?」
「当たり前なのだよ。まあマラソン大会では他のバスケ部員もいるからどうなるかは分からないが、人事は尽くすのだよ」
「まっ、俺も負けないけどねっ」
「体力の無い奴が何を言っているのだよ」
「なんだと!俺だってやればできるんだよ!」

何気ない会話。いつも通りの態度。
それなのに、緑間と一緒にいると苦しいのは何故だろう。さっきの女子たちの会話が頭を巡るのは何故だろう。
突然沸き起こった感情に気付かないまま、問題のバレンタインは刻一刻と迫っていた。










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title by 確かに恋だった様

予想以上に長くなってしまったので、一度切ります。この話をバレンタイン話に繋げようかと。
高尾が真ちゃんに恋する話が書きたくなって、ずっとネタだけはストックしてたんですよね〜
そして初恋高尾ちゃん!可愛い!











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