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(ついに、ついに、この時が来ちゃったよ!どうしよう!どうしよう……!)

頭からシャワーを浴びながら、レイアは心の中で絶叫していた。
頭の中がオーバーヒート状態で、自分が何を考えているのかも理解らなくなりそうだった。
そのせいで、何時もならシャワーを浴びてから入るはずの湯船に思い切り飛び込んでしまい、全身を冷水に浸してしまった。どうやら、まだ風呂が沸いていなかったらしい。熱暴走を起こしかけていた心には冷却剤の役割になった、と自分を慰めたいところだが、実際には相変わらず頭の中はオーバーヒート状態で、少々の冷水など何の効果もないに等しかった。単純に冷え損である。
冷えた体を温めるために、シャワーの温度を高めようと栓を捻る。ふいに、さっきの出来事が鮮明に頭に浮かんで、体が一気に火照った。慌ててシャワーの温度を落とす。

「もう……もう……!」

唇から飛び出してくる言葉は、現状、何の意味もなさない呻き声に等しくて。
待っている、そう言ってしまったのだから、後はもう覚悟を決めるしかないのだが、あの発言は(というよりも行動自体が)半ば勢いに任せたものだけに、少し時間が経って落ち着いた今の方が恥ずかしさはひとしおだった。
本当は昼間からずっと考えて、覚悟していた事なのに、いざその時を迎えようとすると心臓がはち切れそうになってしまう。

「だって……だって、わたし……本当に、初めてなんだもん」

「好きだ」と言われ、首筋に顔を埋められた時の感覚が蘇る。何時も以上に低く、色香のある声。首筋を撫でる唇の熱っぽさ。また、頬の熱がぶり返しそうになる。

『レイアの初めて、貰ってもいいか?』

そう言われた瞬間心臓が今までになくドキドキし、同時に身体の奥底がぞくぞくした。
アルヴィンはレイアにとって初めての恋人で、キスだってつい最近、やっと妙に体を硬くせずに受け入れられるようなったばかり。そんな恋愛初心者丸出しの状態で、さあ次はセックスに、など簡単に行く筈がない。
レイアだってもう、それなりの年齢になる。恋人関係になる、同棲する、という事にプラトニック以上の意味が含まれているのもちゃんと理解出来ている。ただ、そういった事に免疫が無いから恥ずかしくて仕方ないだけで……。

「でも、もう……待ってるって言っちゃったんだもん。後には引けないよ、わたし!案ずるより産むが易しって言うし、うん!女は度胸だよ!」

色気の無い事を言ってから、同じように色気無く頬を数回パンパンと叩いて気合いを入れると、スポンジにたっぷりとボディソープを盛って(気合いが空回りして盛りすぎた)体を洗い始めた。
何時もより念入りに(三回も)体を洗って、全身がボディソープの香りに包まれる頃には、頭のオーバーヒートも随分と治まっていた(まあ、途中、うっかり色々想像してしまい、一部体を強く擦りすぎて赤くなっているのはご愛嬌だが)。
入れ替わりに訪れた冷静な思考が、壁掛けの鏡に映った体をじっと見詰めた。
それなりに凹凸はあるものの、グラマラスよりは、どちらかというとスレンダーな体。決して貧相ではないが、かといって特別優れている訳でもなく、精々が十人並み。そんな感想を抱いた。
ふいに、羞恥と興奮とは別の何か――不安めいたもの――がレイアの胸を掠める。はっと息を呑んだ。
一瞬、鏡の向こうにトレーネ・フォン・ハウゼンの優れた美貌とプロポーションが見えたような気がしたが、それは、すぐに湯煙の中に隠れ、鏡にはレイアただ一人が映るのみだった。

「わたしとアルヴィンは――」

本当は釣り合わないのかも。
さっきまでの興奮が嘘のように冷たい声が出掛かったのを、ぐっと喉の奥へ押し込むようにして、湯船に身を浸した。
アルヴィンが風呂焚きのスイッチを押してくれたのだろう。今度はほんわりと温かな湯が体を包み込んでくれた。


モドル


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