5




ぐにょっとした感触に体全体が包まれた感覚を感じた。

視界は真っ青で何も見えぬ。暗闇から明るい外へ出たような、眩しさが瞼を襲っておる、覚えのある感覚。

ぐにょっとした――例えるならばスライムみたいなモノに包まれて、激しい衝撃から私を守ってくれておる。

直ぐ側で、金属が鈍い音を立てて落ちていく音が、何度も何度も聞こえて来ていて――…視界ではなく耳だけが頼りなのに、その耳に届くのは身の危険を感じる音だけ。

経験した事もないような事が今起きておる。

極度の緊張から皮膚の表面はヒヤリと冷め、心臓は忙しくドクドク動いていた。鼓動の音が耳の裏で聞こえる。

ただただ身に起きておる事態に、耐えていたらば――…ひょいっとスライム空間から身体が抜き出された。


『――!』


重力に従って落ちていく己の身体――…。

やっと視界に映った景色は、見渡す限りの青い空。雲は浮かんでおらず、快晴で太陽も燦々と輝いている。


――え。空…?

下から勢いよく感じるこの風圧は――。私が落ちてるからなのかー!

やっと己に起きておる危険を飲み込めた私は、バッと下を確認する。


『ぬわー…』


――木とかあったら善かったのにな…。

固い地面ではなく柔らかい泥のクッション地帯だったら、うまく着地出来たかもしれぬのに……。


『なれど』


――私は、元死神なのだー!

元をつけていいのか判らぬが、“元”をつけてみる。

瞬歩の要領で、魔力を足元に込めた。途端、落下は止まる。


『ぬ、ははー』


宙に浮きながら、無事地面と対面し、笑みを浮かべた。



さて、ここは――?

辺りを見て気付いた。私が着地したここは、建物の二階のようだ。二階から下を確認すれば――…窓から窓へ紐が垂らしてあり、それに洗濯物が干してある。

反対側は?と思い、反対側の道を二階から覗くと――幾らか、賑わっておる商店街みたいなお店が連なっておった。

ここは、住民達が家と店を兼用して生活しておるのか。

田舎でよくみられる光景だ。お店を経営する為に、新たに土地を買ったり借りたりするのは、いつの世もお金がかかる。

そこまで、確認してシュッタっと人通りが少ない裏通りに、飛び降りた。


――だが…。

眞魔国では職を紹介しておる役所などないであろうし…何処で職を探そうか。

まあ、何日間か食べなくとも私は生きておれるから、食の心配はしておらぬが……少々、行き当たりばったりだったかな。

繁盛してそうなお店に、働けないか訊きまくろう。








ラザニアと出会った街に似ておる。街を歩きながらそう思った。


『……』


私が歩くのと同時に、チラチラ感じる不躾な視線。歩く度に、お店の店員も、お客もこちらに目を向ける。

何だーと思って見遣れば、そそくさ外される視線。

サクラの眉間に皺が生まれた。

気になって己の格好を確認する。――ひょっとして何か可笑しい所があったのか?

城を出て来る前に、髪も赤く染めて、目も赤いコンタクトを入れて来た。もちろん、心配せぬようにと、ユーリやコンラッド達に置手紙も残して来た。

故に――…双黒ではない私に集まる視線の意味が判らぬ。


然し、


『アニシナ…よくこの格好で私だと判ったなー…完璧な変装であるのに』


もちろんサクラを知っている人物が見れば、すぐ判ってしまう容姿をしておるというのに―――当の本人サクラは知らぬ事であった。


『それに…何故私に眞魔国の文字が書けたのだ?――そう言えば…私が喋っておる言葉も…日本語ではないな』


今更、その事に気付いたサクラ。だが、損をする事はないので――気にしない事にした。








[ prev next ]

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -