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『――とは言ったものの…』
このままのんびり血盟城で過ごすのは頂けぬよな…。 姫とか祭り上げられて、民から徴収された税金や城の蓄えで、生活を続けるのは――頂けぬ。
眞魔国で眞王を探すにしろ、一か所に留まるのは効率が悪い。
ならば…自立して己の足で、街を転々とした方が善いな。――と、なれば…。
『善は急げ、だ!』
与えられた部屋で悶々と思考していた私は、ぬししっとにんまり笑みを浮かべた。
――手始めに職を探そう!
その為には、この城から抜け出さなければ。
その考えの元に私は、この部屋から唯一出れる扉に耳を寄せて、外を伺う。扉の外には気配が二人。
恐らくオリーヴが、隊長を務める隊の兵士だろう。どちらも彼女の気配とは違った。
『う〜ぬ…』
扉から逃走出来ぬならば――…。私は天井を見、そして室内を見渡して、窓に目を止める。
否しかし……窓からでは外から兵士に見つかってしまうのでは――。そろりとバルコニーに出て階下を覗く。
『…』
これくらいの高さならば飛び降りながら、一階まで行けるな。普通の人間ならば堪えるだろうが――…元死神をナメんなッ!
『――よしッ』
サクラはもう一度部屋を見渡して、行動に移した。
シュッタ、シュッタッっと忍者の様に軽やかに下へ、下へと降りて行く。
然し…高いな血明城。
結構降りて来たと思ったんだが――…私は上を仰いで、窓が開いたままの自室のバルコニーを見つめた。
――まだ抜け出した事はバレておらぬな…。しめしめ。
少し休憩もした事だしと、いそしそ下へ降りようと足をかける。と――…
シャッ
____突然、背後で音がした。
『――!』
そして沈黙。
音を立ててしまったか。ヒタリと冷や汗が、流れるのを感じながら、窓越しに立っておる女性と、視線を交じたまま全身の筋肉が固まる。
沈黙…。
見つめ合っている目の前の女性は、ただただ無表情で、何かを喋り出すようでもなく、悲鳴を上げるでもなく。奇妙な静寂がこの場を包み込んでいた。
真っ赤な長い髪に碧い瞳をした彼女は、何処か見覚えがある。…デジャブ?
何と言っていいのか…明らかに不審者は私であるし…ここで、ひっ捕らえられたりされたら……。
『…ち、違うのだ!否何が違うのかって感じではあるが……ってそうではなくて、だな…決して、怪しい者ではないぞ! …少々、ここから下へと目指しておるだけであるある故……気にしないでくれ』
想像が膨らんで――ゾッとして、慌てて身振り手振りしながら、口を開く。
が…なんか返って怪しさが増したような……。
――莫迦かッ私はッ!
サクラは、己自身に乾いた笑みを浮かべた。
赤い彼女が何か言う前に、ここ去らなければッと、急いで足を手すりにかける。
「――サクラ、私が判らないのですか?」
『…ぇ』
人形のような無表情だった彼女が、やっと口を開いて、振り向けば…やや目尻を吊り上げ、御冠の表情とかち合った。
「……。まぁいいでしょう。――さ、中へお入りなさい」
『――うぬ?』
「聞こえなかったのですか?早く中へお入りなさい」
聞き間違えではなさそうだ。
彼女は窓を開けて、サクラを室内へ入れとジェスチャーしている。
『(下へ降りたかったのだが…)』
困惑しながらも、この赤い彼女に逆らったらダメだと、本能が言っておるので…しぶしぶ従う。
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