OTHERS | ナノ


いつから君に恋をしていたのか。

そんなことは自分では全くわからないが、

確かに俺は君に恋をしていた。






君に恋してる




「今夜は謝肉祭だっ!!」

謝肉祭。

俺の国シンドリアの名物の一つ。
南海の恵みに感謝しつつ、夜通し国中のみんなで飲み明かし、踊り明かし、喋り明かす。
俺もこんな日ばかりは息抜きとばかりに羽目を外す。

「シン! シン!!」

俺は両手に持ちきれないほどの花(美女)達を侍らせ、酒を煽る。
最高にいい気分だ!
シンドリアは南国の国だというのもあるのか、女性がみな開放的で実にいいっ!
いい気分で酒を飲んでいると、ジャーファルに袖をぐいと引っ張られた。

「何だよ、ジャーファルー。」

俺は折角いい気分だったのに水を差され、見た目にもわかるほどに不機嫌な顔をして見せた。
だがジャーファルはお構いなく俺に怒鳴る。

「シン! 何もファーストネーム様の前でそのようなことをしなくてもよいのでは!」

そう言われて指さされた方を見ればヤムライハとピスティとともに酒を飲んでいるファーストネームが目に入った。

ファーストネームは先日嫁にした町の娘だった。
つまりはこの国の王妃になる。
俺は妃を娶るつもりはなかったが、何故か先日入った酒場で働いていた娘で、気がつけば何故か嫁に来いと口にしてしまい、
それを聞いていた臣下達によってあれよあれよと結婚式まで済んでしまった。
今では同じ部屋で寝食を共にする夫婦だ。

「いいんだ、今日は謝肉祭だからな!」

「わけわかりません!!」

俺は自分の嫁が見ているにも関わらず両手の花にいろいろとちょっかいを出す。
酒をついでもらい、膝に座らせ、その豊満な胸に顔をうずめたりもした。

「さすがにありゃねぇな、シンドバッド。」

「ファーストネーム様がかわいそうスね。」

近くで飲んでいた他の八人将も若き王妃に同情を寄せる。
一緒に飲んでいたヤムライハだけでなく、ピスティも珍しくご立腹のようだ。

「ちょっとファーストネーム様!王様に何か言ってやったら!?」

「え、あ、えーっと。ま、まあまあ、ピスティ様、ヤムライハ様、良いのでは?」

「よくありません!王妃!」

怒る二人をよそにファーストネームはなんと言ったものかと思い苦笑している。
ほら、見ろ!ファーストネームはお前らと違って寛大なんだ!

「さあ、みんな楽しもうー!」

「キャー!シンドバッド様素敵ー!」

「国王様ー!」

俺はまた花々と酒を飲む。
その様子にジャーファルは大きなため息をつき、
所帯持ちのヒナホホとドラコーンは呆れ返っている。
ピスティとヤムライハはファーストネームと俺の間に座り壁を作るように座った。

「でも・・・。」

そのせいか俺は最後にファーストネームが呟いた言葉を拾うことができなかった。





真夜中。
酔いつぶれた俺はジャーファルとスパルトスに両肩を借りて部屋まで足を引きずって帰った。

「シン。飲み過ぎですよ。」

「国王、少しはお控えください。」

「あぁ? あぁ。」

俺は何を言われても適当な返事しか返さなかった。いや、返せなかった。
それほどまでにこの日は酔っていた。
呂律は完全に回っていないし、足はほぼ自分で力を入れていなかった。

「ほら、部屋につきましたよ。」

「とっとと入ってください。」

部屋の中に突き飛ばされるようにしてよろめき転がるように部屋に入る。
後ろでため息をつきながらとびらが閉められる。
寄っている時の俺に対してあいつら冷たすぎないか?

「あー。」

俺はそのままベッドに倒れこむ。
頭がガンガンする。

「ファーストネームー。すまないが、水をくれないか?」

しんと静まり返った部屋の中から返事はない。
いつもならすぐに持って来てくれるのに。

「? ファーストネームー?」

呼んでもなお返事はない。
もう寝ているのかと倒れこんだベッドの中を弄り温もりを探す。

いない?

「ファーストネーム!」

がばりと起き上がった俺はそのまま部屋を出てまだ近くにいるであろうジャーファル達をすごいスピードで追いかけた。

「ぅわっ!びっくりした。シン、どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたもあるか!ファーストネームがいないんだ!何かあったんじゃ・・・!」

顔を青くして叫ぶ俺にジャーファルは冷たく言い放つ。

「今夜は謝肉祭ですし、王妃もハメを外してるんじゃないですか?あなたのように。」

「そんなわけあるか!ファーストネームだぞ!」

「わけわかりません。」

俺はその場でソワソワと左右に行ったり来たり落ち着かない様子でブツブツと言った。

「え、愛想つかされた?マジで?いや、でもファーストネーム何も言わなかったし、いや今日は確かにちょっとやりすぎたか?いやでも、でも・・・。」

そんな時偶然ヒナホホが通りかかった。

「何だ、うっせぇぞ、シンドバッド。頭に響く。」

酔っているのか顔を少し赤くしたヒナホホががしがしと頭をかく。

「ファーストネーム様ならさっきシャルルカンと一緒だったぞ?」

「なにっ!?」

シャ、シャルルカンとだと・・・?
ま、まさか本当に浮気?!
いや、だがあのファーストネームに限ってまさか!

「ど、どこにいた?!」

「あー、方角的にはシャルルカンのへやじゃねえか?」

部屋?!?!?

「ファーストネームーー!!」

俺は慌ててその場から駆け出した。





シャルルカンの部屋までが死ぬほど長く感じた。
何故こんな気持ちになるのか。
よくわからないが、ファーストネームがシャルルカンの部屋で2人きりでいるかもという事実を心が受け付けない。

ああ、俺は、俺は・・・

「あ、だ、ダメです、シャルルカン様!」

「ダメって言ってもダメだ。やるからな。」

近づいてきた部屋から漏れる不穏な声。
俺は一層足を早めてノックもせずに扉を開ける。

「ファーストネームー!!」

だがそこで目にした光景は予想していたものとは全くの別物で。

「俺の勝ちだなー、ファーストネーム。」

「また負けました。シャルルカン様・・・。」

「信じらんない、あんた強すぎよ!」

「意外にシャルはこういうのも得意なんだねー。」

ボードゲームを囲んでそれぞれ喜怒哀楽を示す四人を見て俺はいっしゅん固まった。
あれ?ヤムライハとピスティも一緒?

「あ、あれ?!シン様?!」

俺に気がついたファーストネームは慌てて向き直る。
俺ははっとしてファーストネームに近づくとがっと肩を掴んだ。

「部屋にいなかったから心配したぞ!」

「あ、え?も、申し訳ございません。今日は、そのシン様は、・・・他の女性のところへ行って戻らないから気分転換にと・・・。」

「王様。俺らがファーストネーム様誘ったんです、怒らないでもらえますか?」

「だいたいご自分はファーストネーム様に何も言わずに外泊なさるのにファーストネーム様に怒るのはずるいですよ!」

「そうだそうだー!」

途端に投げつけられる部下からの野次。
ファーストネームはというと悪いことをしたというように俺の前でしゅんとうなだれている。
そんな顔を見たくて探してたんじゃないんだ。

「ずーるーい!ずーるーい!」

ああ、俺はそうだ。なんてずるいんだ。
ファーストネームが許してくれるからと、俺はとても酷いことをしてきたじゃないか。

だが部下達の前でそんなに素直に謝れるはずもなく、俺は逃げ出すことにした。

「えぇい!う、うるさいうるさい!!」

俺はファーストネームを抱きかかえると、シャルルカンの部屋の窓から飛び出した。
ここはかなり高い階数だったがそんなことは関係ない。

「全身魔装!」

俺は全身魔装で姿を変えると、一目散に自分の部屋に向かった。
ファーストネームはその間ただ静かに俺にしがみついていた。





バルコニーに降り、自分の部屋に入るとファーストネームの手を引きベッドに座らせた。
その前に膝を着き、許しを乞うように項垂れる。

「ファーストネーム、悪かった。」

「い、いえ、私こそその無断で遊びに行ってしまって申し訳・・・。」

「違う。そんなこと言ってるんじゃないんだ。」

「え?」

俺はそのままファーストネームをゆっくり押し倒した。
突然のことでファーストネームは踏みとどまることができず後ろに倒れこむ。

「俺は今まで好き放題に生きてきた。お前と結婚してからもそれを変えようとせず好きなままに生きてきた。」

でも今日思い知った。
自分がどんなにかわがままだったか、ファーストネームがどんな思いだったか。

「シャルルカンと一緒に部屋に入って行くのを見たとヒナホホから聞いた時、どうしようもなく胸を締め付けられた。」

他の男がファーストネームに触るなど、想像しただけで吐き気がする。
それが忠実な部下の八人将であっても。

この白い肌も、黒い髪も、赤い瞳も。全部俺だけのものだ。

そうだ、俺は君に始めから恋をしていたんだ。

「シン様。ヒナホホ様から私の場所を?」

「そうだが?」

「その時はもうヤムライハ様やピスティ様も一緒でしたが、何も仰っておりませんでしたか?」

「・・・え?」

思い返す。ヒナホホの表情を。
何だかニヤニヤしてた気がする。そういえばジャーファルとスパルトスも。

「その、ヒナホホ様がシン様に私が遊びに行くことを伝えてくださると仰っていましたので・・・。」

・・・・・・・・・。

(はめられたっ!!!)

俺は八人将の顔を思い浮かべる。
あいつら全員グルかよ!!
この遠回しに嫌味な感じ、言い出しっぺはドラコーンだな!くそっ!!

「シン様?お顔が・・・。」

「な、なんでもない。」

俺は怒りなのか羞恥なのかなんだかよくわからないが顔を赤くした。
その姿が情けなく、顔を手で覆う。
あいつら、明日覚えとけ。

「シン様。」

「何だ?」

「さっきシャルルカン様の部屋に飛び込んで来てくださった時、私嬉しかったですよ。」

「っ/////!!」

ふわりと微笑むファーストネームはとんでもなく愛らしく、俺の理性を崩壊させるのには十分だった。

「ファーストネーム、悪いが今夜は寝かせないぞ。」

「えっ?!ふっ。」

そう言って俺はファーストネームの口を塞いだ。
その晩俺はファーストネームに一睡もさせずに付き合ってもらった。





翌朝の朝議で俺は八人将を怒るどころか礼を言うのだった。










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2018.09.17
七海の覇王、シンドバッド様です。
こういうたらし系のキャラクターが実は気づかない内に一途とか。
あ、もちろんただの妄想です。


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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