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「どけ、オプティマス!あたしを行かせろ!」

「ダメだ。バンブルビー、サイドスワイプ。ファーストネームを拘束しろ。」











オプティマスに拘束されてから数日。
何もないこの部屋での時間にもだんだん慣れてきた。

あたしは今NEST基地の中のある一室。
電流が流れる格子がはめられた牢屋のような部屋で、オートボットのあたしが暴れても壊せやしない。
対ディセプティコン用に作っていたんだと思うが、その中にまさか自分が閉じ込められるとは思っていなかった。

「こんなもんまでつけなくてもいいじゃん、別に。」

腕につけていた自慢のガトリング砲は取り上げられた。
その代わりになのかなんなのか知らないが、両手足に罪人を拘束するような枷がはめられた。
部屋の中を動き回ったり暴れたりするのに不便はないが、
まとわりついて鬱陶しいし、動くたびに擦れる音が耳触りで不愉快極まりない。

鉄格子にもたれかけ、億劫気に手首に架せられた手錠を見ながら音を鳴らしていると不意に別の音がした。
カツカツカツとそれは確かに誰かの足音でここ数日久しく聞いてなかったものだった。

「ファーストネーム。」

あたしの部屋の前で立ち止まって名前を呼ぶ声。
振り返らなくてもわかる。
よく耳にする声だった。

「何だよ、レノックス。こんなところに来る暇あんの?」

あたしを訪ねてきたのはレノックス、ウィリアム・レノックス。
NESTの指揮官で階級は大佐。

そして。

「暇を作ってわざわざ来たんだよ。そんな言い方ないだろ。」

アイアンハイドのパートナーだった男。

「頼んでねーよ。」

「・・・相変わらずだな。」

そう言ってレノックスは格子を挟んであたしと背中合わせに座った。
あたしは何も言わなかった。
ちょうど一人で退屈だったから。

「オプティマス達は宇宙へ帰る準備をしている。」

「ふーん。」

興味なかった。あたしには関係ないから。
オプティマス達が帰ろうが帰るまいが関係ない。
あたしにはいくところがある。

「お前はこの部屋ごと乗せて帰るって言ってたぞ。」

「は!?いやだぞ、あたしは帰らない。」

「全員っていう要求だ。」

要求?あいつの?

「そんなの関係ない!
あたしは絶対に帰らない!」

あたしは振り返って鉄格子をつかんでレノックスに怒鳴りつけた。
レノックスは何も言い返さなかった。
それがまた何だか癪に触ってあたしは続けざまに言った。

「ふざけるな!何が要求だ!
そんなもんはいはい聞く前にやることがあるだろ!?
レノックス、ここ開けろ!あたしを行かせろ、あいつのところへ!…センチネルのところへ!!!!」

怒鳴り終わった後、まるでわがままを言う子供のようだと思った。
何だか無性にイライラするのに、どこか自分が冷静でいるのがおかしかった。

そのギャップの意味が分からずまたあたしはイライラしていた。

「オプティマスに止められているだろ。
ダメだ。俺にはここを開けられない。」

「オプティマスなんか関係ない!
あたしが行きたいんだ!」

「ダメだ。今のお前を出すわけにはいかない。」

あたしがどんなに叫んでもレノックスは鉄格子に背を預けたままぽつりぽつりと返事を返すだけだった。
振り返りもしない、こんなに怒鳴っても静かに返事を返すだけ。

あたしはレノックスに何を言っても届かないと思ってまた背中合わせにずるずると座った。
座りながらまた自分がイライラしているのがよくわかった。

「なあ、レノックス。」

「何だよ、ファーストネーム。」

「…イライラするんだ。」

あたしは自分でもよくわかっていないのにレノックスに聞いてみた。

「わかんないんだ。なんかすっごくイライラして、でも何でかわからない。
アイアンハイドがいなくなってからずっとそうだ。」

「…。」

相変わらずレノックスは黙っていた。

「だから彼を殺したセンチネルを殺せばイライラがなくなると思ったんだ。
そう、だからここから出てあいつのところへ行きたいんだ。」

ガシャリと手枷のこすれる音をかき鳴らしながらあたしは地面を叩いた。
静かすぎる二人の空間に甲高い金属音が響き渡る。
そのまま音が消えて静寂に戻ってもあたしとレノックスは何も喋らなかった。

「…。」

幾許か経った頃背中で動く気配を感じた。
首だけ振り返って見ているとレノックスが立ち上がって振り返った。

「これ、やるよ。ファーストネーム。」

レノックスが差し出す手に応えて、あたしは鉄格子の隙間から手を出した。
すると少し重量感のある物が手の上に置かれた。
自分の目前まで手を引っ込めて預けられたそれを見た。

「??…何だよ、これ。」

丸っこくて錆びついた手のひらサイズの小さな鉄くず。

「センチネルの腐蝕銃、結構威力がすごくてな。
彼だとわかるのはそのかけらぐらいだったみたいなんだ。」

「…まさか…。」



アイアンハイド?



そう思った瞬間手の中の鉄くずがずしりと重くなった気がした。
全身に言いようのない感情が走って無意識のうちにそのかけらを握りしめた。

「ファーストネーム。センチネルを殺してもきっとお前のそのイライラは消えないよ。
だってお前は初めからイライラなんかしていない。
お前の抱いているその感情は殺したいとか、
憎いとかそういうんじゃないんだよ。」

塊を握りしめたままのあたしにレノックスは静かに言った。

「そういう感情をな、“悲しい”って言うんだよ。」

そういわれた瞬間、あたしの目からは堰を切ったように涙が溢れた。

「…なんだ、そうだったんだ。」

「…。」

レノックスはそのまま何も言わずに帰って行った。
その後もあたしは泣き続けた。
いろんなことが頭の中を回っていく。

サイバトロンでの出会い。

一緒に戦った戦争。

再会を誓った別れ。

地球での生活。

人間のパートナーとの話。

「馬鹿だな、あたし…。」

もっと一緒にいたかった。
そうだ、好きだったんだ、きっと。

「どうして死んじゃったんだよぉっ!!!!」

センチネルを殺して仇を取ればこの気持ちは消える?

いいや、レノックスの言うとおりきっとこの気持ちは消えない。

でもこの気持ちが消えない限り、あたしがアイアンハイドのことを好きでい続けられるってことだ。





だったらどうかこの悲しみよ、錆びつかないで、消えないで。

あたしはずっとアイアンハイドのことを好きでいたいんだ。










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2018.09.15
パソコン時代の再録です。
トランスフォーマー ダークサイド・ムーンを見た後に書き上げた作品です。
ちなみに現時点では最後の騎士王は見ていませんっ!


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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