ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


(あー、久しぶりにやっちまった。)





気になるものは仕方がねえ





「38.8度。ずばり洸ちゃんの病名は風邪です!」

「わがっでんよ、そんなこと。」

諏訪がある日風邪で倒れた。
昨夜雨に降られて帰ってきたのに、ろくに体も拭かずにいたからだ。
アリスはほら見たことかと、言いながら体温計をしまう。
諏訪はボーッとする頭を抱えて、鼻水と喉の痛みに耐えていた。
こんなにド派手に体調を崩したのは久しぶりだ。

「えっと、薬あったかな…。」

アリスはそう言って諏訪の世話を焼こうとしたが、諏訪はそんなアリスを制した。

「自分ででぎる。早く出かけろ。うづんだろ。」

アリスは今日午前は大学で授業、午後は夕方までボーダーでアルバイトだ。
諏訪は風邪をうつしても悪いしと思い、アリスに早く出かけるように促す。
だがアリスは諏訪が心配でなかなか出かけようとしない。

「でも洸ちゃん…。」

「ガキじゃねえんだがら、平気だ。」

諏訪はそう言って布団を深くかぶり直す。
アリスはそんな諏訪の頭に布団の上から手を置く。

「何かあったら連絡してね。絶対だよ?」

「わーっだよ。」

諏訪は片手を布団から出すと力なく手を振りアリスを送り出した。
アリスは後ろ髪ひかれまくりの様子だったが最終的には出かけていった。
今日は大学ではアリスの好きな歴史の授業、それに昼は月見と橘高とランチ。
午後は楽しくてしょうがないボーダーでの仕事だ。
昨夜今日の予定を一通り聞かされていた諏訪は、全部キャンセルしかねないアリスを思い浮かべた。

(静かだな。)

体調が悪いとどうしてこう物寂しい気持ちになってしまうのだろうか。
こんなに静かに一人で過ごすのは随分と久しぶりのように感じた。

思えばアリスと再会してからと言うもの毎日が騒がしくて仕方がない。
もちろんそれは良い意味でだ。
アリスの家が壊れて一緒に住むようになる前も、夜が遅い時は送って行ったし、そうでなくても電話で話したりといろいろしていた。

『洸ちゃん。』

自分の名前を呼ぶ声がないのがこんなにも静かで寂しいとは。
諏訪はこれ以上弱気になる前に薬を飲んで寝ようと起き上がった。

「ん?」

するとベッド脇に置いてある机に見慣れないノートが置かれていた。
ここは最近主にアリスが勉強や仕事に使っている。
まさか授業で使うノートを忘れて行ったのかと思い、諏訪は何も考えずにノートを取り上げた。

「!これ!」

表紙には日記と書かれていた。
なんてものをなんてタイミングで見つけてしまったのかと諏訪は頭を抱えた。
正直読みたくて仕方がない。
一日中寝ていなくてはならない諏訪にとって我慢ができるはずもなかった。
諏訪はとりあえず日記を机に置いて薬を飲んでくると、その日記を持って布団の中に潜り込んだ。

(読んだってバレなきゃいいんだ、バレなきゃ。)

そう思って諏訪は日記を開いた。
そこにはアリスの可愛らしい文字で日々の出来事が綴られていた。

『20XX年4月8日

今日は三門大学の入学式。
新入生代表の挨拶を免れた、ラッキー!
嵐山くんっていう三門市で有名な人だったんだけど、なんとその人とお友達になっちゃった。
それに柿崎くんに風間先輩に木崎先輩。
不安だった大学生活だったけど、楽しくなりそうで嬉しいなぁ。』

『20XX年4月15日

嵐山くんの紹介でボーダーでアルバイトをすることになった!
語学を活かせそうな仕事で良かった。
根付さんもとても優しい人だし、これからも仕事頑張るぞ。』

『20XX年4月26日

柿崎くんに歴史の授業のノートまた借りちゃった。
あの先生板書多い上に書くのが早いから書き取り追いつかないよー。
でも柿崎くんはそれでもノートきちっと取ってるからすごいな。
ノートはまたお世話になりそう。』

『20XX年5月26日

ずっと気になっていたケーキ屋さんのバイキングで女子会!
ケーキもお話もすごく楽しかった!
連ちゃん、羽矢ちゃん、望美先輩ホントにありがとう!』

『20XX年6月15日

壊れたおじいちゃんの家に行く。
嵐山くんと迅くんも手伝ってくれて使えそうなものを掘り出した。
洋服とか買いに行かなくちゃなぁ。出費が痛い。。』

諏訪は一通り最近の出来事まで読んで日記を閉じる。

(俺のこと一言も書いてねぇ!!!)

入学式の日のことやネイバーに襲われた日のこと。
それにアリスの祖父の家にものを探しにいった日は確実に諏訪もいたはずなのに、アリスの日記には不自然なほど諏訪が登場していなかった。
諏訪はそれにショックを覚え、布団を被り直して目を閉じる。

(マジかよ。ヘコむ…。)

そう思いながら諏訪はいつの間にか日記を抱えたまま眠ってしまっていた。





「洸ちゃん、ただいまー。」

「ん…。」

諏訪はそのまま夕方まで眠っていたようだった。
アリスが玄関の扉を開ける音で諏訪は目を覚ます。
アリスはそのまま寝室の扉を開けてベッドに駆け寄ってきた。

「洸ちゃん、具合どう?」

「んあー、朝よりマシ。」

諏訪がそう答えるとアリスが諏訪の額に手を当てた。
外も暑かったのか、アリスの手も温かく、諏訪は自分の熱がどうなっているのかわからなかった。

「んー?熱は下がってそうかな?何か食べた?」

「ずっと寝てた。」

「おかゆか何か作ってあげる。待っててね。」

そう言ってアリスは出てくと、程なくしてキッチンから食事の香りがしてきた。
何も食べていなかったのでお腹が空いていた諏訪は、おかゆの香りだけで十分満足できた。
しばらくして、アリスが小さな土鍋におかゆを作って持ってきてくれた。
諏訪はそれを寝転がったまま見ていた。

「洸ちゃん、起きられる?」

「ああ、起きる起きる。」

諏訪はそう言ってからも何だか気だるくてなかなか起き上がれなかった。
なかなか起きてこない諏訪にくすりと笑いながらアリスは机の上にお盆を置いた。

「そういや、今日どうだった?歴史楽しみにしてただろ?」

諏訪はおかゆが少し冷めるまでと、そのままの体制でアリスに尋ねた。

「うん、すごく面白かったよ。」

文系のアリスは歴史の授業が好きだ。
昨日も話したとおり授業を楽しみにしていた。

「ちゃんと柿崎にノート借りたか?」

と、諏訪はつい口を滑らせた。

「ううん、今日はねザキくんは任務でいなくって!それでノート借り…。」

アリスはそこまで言ってはたと気がついた。

「あれ、私ザキくんにいつもノート借りてるって話したことあったっけ?」

「!!」

諏訪はそう言われてやっと自分が口を滑らせたことに気がついた。
アリスが歴史の授業を取っていて楽しみにしているという話は何度かしたが、柿崎も授業が一緒であることやノートを借りていることは話したことはなかった。
それはアリスのみが知っている情報で、またアリスの日記にしか書いていないことだった。

「あ、いや、柿崎が前に言っててよ!」

そう言って諏訪はガバリと起き上がる。


バサリ


すると諏訪が起きたはずみで布団の中から何かが床に落ちた。
それは諏訪が抱えたまま寝てしまっていた、アリスの日記だった。

「あー!!!!」

「やっべ!」

アリスは顔を赤くして慌てて日記のノートを取り上げた。

「洸ちゃん、まさか私の日記勝手に読んだの!?」

「あ、いや、それは…。」

「読んだんだ!信じられない!!」

アリスはそう言うと怒った様子で部屋から出ていこうとした。
諏訪は慌てて追いかけたて、アリスが扉を開けようとしたのを後ろから抑えて止めた。

「わ、悪かったって!机に置かれてて気になっちまって。」

「それで読んじゃったの?」

アリスはじっとりとした視線で諏訪を振り仰いだ。
諏訪はその視線に耐えられず視線を逸らす。

「全部読んだの?」

「あー、えー。」

「はっきりして!」

「読みました。」

「信じられない。」

アリスは怒った様子でフンと鼻を鳴らして正面を向いた。
諏訪からはその表情は見えないがアリスが怒っていることは間違いない。

「悪かった、マジで。何でもするからよ、怒んなよ。な?」

諏訪は熱のことなど忘れてあれやこれやとアリスの機嫌を取ろうとする。
しばらくの沈黙の後、アリスは再び諏訪のことを振り返って見上げた。

「ケーキバイキング一緒に行ってくれる?」

「行く行く、行きます!」

「ごちそうしてくれる?」

「するする。何でも奢ります!」

諏訪は両手を合わせて頭をペコペコ下げる。
アリスは両肩でため息をつくと諏訪に向き直る。

「じゃあ許してあげる。でももう絶対に読まないでよ!」

「はい、反省シテイマス。」

諏訪が心底悪かったというような顔をしたので、アリスは笑った。

「おかゆ食べてもう一回寝なよ。そしたらきっとよくなるよ、洸ちゃん!」

「そうする。」

諏訪はアリスの言う通り、おかゆを食べ終えるともう一度薬を飲んで眠りについた。

(…寝たよね?)

アリスは諏訪が眠ったことを確認すると、机に座り引き出しから諏訪が読んでいた日記とは別のノートを取り出した。
そのノートも日記の様子だったが、表紙には『洸ちゃんとの思い出』とサブタイトルがつけられていた。

(こっちじゃなくてよかったあ。)

アリスはそのノートを開く。

『20XX年4月8日

洸ちゃんに会えた!嬉しい!
すごく大人になっててビックリした。
でもわかるものだなあ、洸ちゃん何も変わってない。』

『20XX年4月15日

アルバイトのことやっぱり洸ちゃんに相談したほうがよかったかな?
でも怒ってはなかったし、一緒に帰ってくれるって言ってたから嬉しいなあ!』

『20XX年4月26日

歴史の授業楽しいなあって洸ちゃんに言ったら鼻で笑われた。
今度英語の勉強教えてあげないんだから!』

『20XX年5月26日

洸ちゃんと望美先輩って仲あまり良くないのかなぁ?
でもちゃんとお別れの挨拶してたし、やっぱり仲良いのかなあ?』

『20XX年6月15日

おじいちゃんの家はなくなっちゃったけど、これからは洸ちゃんといられる。
おじいちゃんには悪いけど、洸ちゃんといられるのは嬉しいなあ。』

そこには諏訪との思い出のことだけが綴られていた。
アリスはクスリと笑って諏訪を見下ろすと日記に今日のことを書き込む。

『20XX年7月3日

洸ちゃんが日記勝手に読んじゃったみたい!
こっちの日記じゃなくてホントに良かったあ。』

アリスはノートを閉じると2冊をしっかりと引き出しにしまって、部屋を出て行った。










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2019.01.07
諏訪さん連載16話目更新です。
諏訪さん、大丈夫。あなた愛されてますよ!

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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