ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


笑ってもらわなきゃこっちが困る





いちいち泣くな





「おい、アリス。気ぃつけろよ。」

「うん。」

数日後アリス達は、先日ネイバーに壊されたアリスの住んでいた家にやってきた。
現場の保存が終わり、居住者はボーダー隊員の随伴があれば一時的に家に戻ることができる。
風間や柿崎が頑張ったおかげでアリスは早めに家に帰ることができたのだ。

アリスは瓦礫の上をガシャガシャと登り、高いところに立ってかつて自分が住んでいた家を見渡した。
全壊は免れたものの、家は半壊。
主にアリスが居住区として使っていた区画は瓦礫の山と化していた。
アリスはそれを見下ろして何を思っているだろう。
それは諏訪にはわからないことだった。

「アリス、時間もないし。何か優先的に探すものがあれば手伝うぞ。」

「ありがとう、嵐山くん。」

後ろからアリスに声をかけたのは嵐山だった。
今日非番だった嵐山はアリスが家の捜索に行くと聞いて付いてきてくれたのだ。
アリスはヨロヨロとしながら瓦礫の山を降りてくると笑顔を見せた。

「えっとね、まず寝室の辺りから…。」

アリスは嵐山を連れ立って探し物を始めた。

「悪ぃな、忙しいのに。」

それを見ながら諏訪はタバコの煙をはぁと空に吐き出す。

「友達が困ってたら助けますよ、俺も。」

そう言って諏訪の隣で笑ったのは迅だった。
迅がアリスと顔見知りで友達なことは諏訪も知っていた。
だが何かと忙しい迅がアリスの家の捜索に来てくれるのは諏訪からしたら意外だった。

「諏訪さんにさ、謝っときたくてさ。」

「俺に?」

諏訪は不思議そうな顔をして首を傾げる。
迅が何か後ろめたそうな顔をしていたから尚更不思議だった。

「俺、今回予知でアリスちゃんがヤバイの知ってたんだ。」

「!」

「会議でも共有して皆知ってた。でも俺が諏訪さんとアリスちゃんには黙っておこうって言ったんだ。」

「…そうかよ。」

諏訪は迅の告白にそう短く答えただけだった。
迅は続けた。

「アリスちゃんを助ければそれがどんな未来に繋がるかがわからなかった。予知通りアリスちゃんの家のほうにネイバーを誘導できれば他に被害は出ない。だから俺は言ったらアリスちゃんを囮にしたんだ。…友達なのに。」

迅は諏訪のほうを見なかった。
そして諏訪は迅に何も言わなかった。

「怒った?諏訪さん。殴ってもいいよ。それだけのことしたと思ってるし。アリスちゃんにも嫌われちゃうかな。」

迅がそこまで言っても諏訪は何も言わなかった。
そして吸っていたタバコを携帯灰皿に入れてポケットにしまうと手をあげた。
殴られるかと思って迅はキュッと目を閉じる。
だがいつまでたっても拳はこない。
かわりに諏訪の大きな手が頭の上にポスッと降ってきた。

「馬鹿野郎。何で俺が怒んだよ。お前はお前の仕事しただけだろ。んな顔すんな。」

そしてぐりぐりと迅の頭を撫で回す。
あまりの強さでこねくり回されたため、迅のサングラスがずり落ちた。

「そうだとしたらありがとな。どうりで守備配置がアリスの家に近くて、おまけに俺のところだけ柿崎隊とのダブル配置だったわけだな。気ぃ遣ってくれたんだろ?」

なおもわしゃわしゃと撫で回す諏訪に、迅は顔を上げることができなかった。

「1人で抱え込むなよ。結構しんどいサイドエフェクト持ってんだからよ。」

「っ。」

迅は今自分がどんな顔をしているか知っているのだろうか。
泣きそうな、泣いてしまいたそうな顔。
未来が見えるなんて力があるために今までもこうやって苦しんできて、今までもこうやって我慢してきたのだろう。
そんな迅を諏訪が責められるはずがなかった。

「アリスだって怒らねえよ。あいつはそんな器の小せえ女じゃねえんだからよ。」

諏訪はバシッと迅の背中を叩く。
迅はいって!と前によろけた。

「洸ちゃーん!迅くーん!手伝ってー!」

そこへアリスが手を振り2人を呼ぶ。
その顔を見て迅はなんだかホッとしてしまった。





「結局あんまり使えそうなもんなかったな。」

アリスと諏訪は瓦礫の中から掘り出した使えそうなものをまとめた紙袋を数個抱えて家に戻ってきた。
当然だが家電や食器類は壊れて使い物にならないし、服などは泥だらけだったり破れてしまったりでこれまた使い物にならなさそうだ。
結局持って帰ってきたものはアリスの本やアルバムが大半を占めていた。

「うん。嵐山くんと迅くんに悪いことしちゃったな。」

アリスは今日手伝ってくれた嵐山と迅の顔を思い浮かべる。
それに迅のほうは、途中からはそうでもなかったが、なんだか元気がなさそうだった。

「ま、あいつらにはまた何かコーヒーでも奢ってやろうぜ。あ、迅にはぼんち揚プラスな。」

「うん!」

諏訪がそう言うとアリスが笑った。
思ったよりも元気そうで諏訪はそれに安心する。

「じゃあもうこれ片しちまおうぜ。汚れとかは拭いてよ。」

諏訪はリビングのローテーブルに新聞紙を広げて、その上に持ち帰ったものを1つずつ取り出した。
アリスと2人で並んで汚れを丁寧に拭いていく。
あまり数もなかったのでそれはすぐに終わった。

「なあ、これアルバムって向こうのやつか?」

「あ、うん。それはそうだよ。こっちは洸ちゃんとの写真のやつ。」

諏訪がアルバムを開こうとするのを制するように、アリスは諏訪とのアルバムを上に置いた。
諏訪はそれをすぐさま脇に置く。

「あ、それはいいわ。」

「なんでー!?」

「自分のガキの頃の写真なんか見て楽しいわけねえだろ!」

諏訪はそう言ってアリスがアメリカにいた頃のアルバムをめくった。
そこにはアリスが向こうに行ってからの写真が丁寧に貼られていた。

「周り外人ばっかだな。」

「あたりまえだよ。」

諏訪はパラパラとページをめくっていく。
小さい頃から順番に並べられた写真。
アリスがどのように成長していったかがよくわかる。

(ともかく可愛いな。)

諏訪はたしかなまんぞくにひたりながら、ゆっくりゆっくりとページをめくっていく。
そしてあるページ辺りから眉間にしわを寄せ出す。

(何だよ、こいつら!アリスにくっつきすぎだろっ!!)

中高校生辺りの写真だろうか。
友人に男が現れる頻度も高くなり、しかもアリスにやたらと近い。
肩を組んでいたり、腕を組んでいたり、いろいろだ。
アリスはいろんな人にくっつかれている、男女に関わらずというところが救いだが、諏訪としては何とも気分が悪い。

「洸ちゃん、どうしたの?」

明らかに表情が変化する諏訪にアリスは首を傾げた。
そんなアリスを見てふと諏訪は気がついた。

(あれ、そういえばこいつって彼氏とかいたりしたのか?)

盲点だった。
自分がいるかもと一縷の望みをかけて三門市に帰ってきたアリス。
だが向こうでどういう交友関係だったかなんて知らない。
今現状彼氏がいるならその彼氏を頼るだろうから今はいないと思いたいが、アリスだって19歳、成人一歩手前なんだ。
男の1人や2人と付き合ったことがあっても不思議ではない。
そう思うと余計にモヤモヤしてきた。

(アリスって外人から見ても可愛いのか?どうなんだ?)

自分だって何人かの女性と付き合ったことがあるし、関係も持ったことがある。
自分はそんななのにいざアリスがそうかもしれないと思うとなんだかやりきれない。
アルバムなんか開かなければよかったと、諏訪の眉間にはしわが寄るばかり。

アリスはそんな諏訪を見て、無理矢理アルバムを閉じた。

「あ!」

「ねえ、洸ちゃん!こっち見ようよ!」

そう言ってその上に幼い頃三門市にいた時の写真を収めたアルバムを開いた。

「ほら、これ覚えてる?」

アリスは写真を見ながら当時の思い出を話し出した。
その顔はとても嬉しそうで、幸せそうで。
諏訪は自分の中のモヤモヤが消えていくのを感じた。

アリスの過去が気にならないと言えばそれは嘘だ。
だが今のアリスはここにいて、一緒に生活している。
ただの幼馴染の関係のままだが、今、アリスは目の前にいるのだ。

「あー、これ確かお前がめちゃくちゃ泣いてた時のやつ?」

「なっ!違うってば!」

今この瞬間一緒にいられればいいじゃないか。
諏訪はそう思いなおしてアルバムに視線を落とすのだった。
だがふとあることに気がつく。
整然と並べられたアルバムの中で、歯抜けのように途中の写真がない箇所があった。

「お前、ここさ…。」

「…。」

諏訪が何を言おうとしているのか、アリスにはわかっていた。
そしてすぐには返事をしなかった。

歯抜けになった場所に貼られていた写真はおそらくアリスの両親も一緒に写っていた写真なのだろう。

「なんか持ってこれなくて。置いてきちゃった。」

アリスはその日焼けをしていない、写真が貼られていたであろう場所をなぞりながら小さく言った。

自分の知っている仲の良かった父と母の姿がその写真には写っていただろう。
だが、それが本当なのか芝居なのか、実物を見ていてもわからなかったのに、写真もまた言わんやである。
そう考えるとやはり手元に置いておくのは辛かった。

「っ。」

それでも目を閉じればそこにどんな写真が貼られていたのかはアリスは思い出せた。
ポタリとアルバムの台紙に涙がにじむ。
諏訪はやはりアルバムなんか開かなければと思いながら静かにアリスの肩を抱いた。

「新しい写真撮ろうぜ。」

「え?」

諏訪の言葉にアリスは目に涙を滲ませたまま顔を上げた。

「いちいち泣かれたらたまんねーよ。俺と新しい写真めちゃくちゃ撮ってめちゃくちゃいろんなところに貼っとけ。そんでもって笑えよ。」

諏訪はそう言って首を傾げるようにコトリと自分の頭をアリスの頭の上に置いた。
そこから諏訪の温かさがアリスに伝わる。

「それってすごくいい考えだね、洸ちゃん。」

アリスはそこでようやく笑顔を見せた。










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2019.01.01
諏訪さん連載15話目更新です。
急にヒロインの友達事情が気になる諏訪さん。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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