ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


なんだかなー。





幸せすぎか





「そうか、一緒に住むことになったか。」

「はい。だからお家の心配は無用です!」

口にカツカレーをリスの如く詰め込んでいる風間と同じくハムスターのようにカレーを詰め込んでいるアリスが会話をする。
風間は一瞬チラリと諏訪を見た。
それは詰まる所、嵐山と同じようなことを言いたかったのだろうが。
諏訪が何もないぞと表情で訴えたため風間は何も言わなかった。

「風間先輩、昨日はありがとうございました。あと、すみません。その、私昨日ご迷惑かけて。」

アリスの言う昨日というのは諏訪に抱かれて風間達の護衛する救急隊の陣の中で会ったときのことだ。
自分は諏訪から離れず救急隊員の人達を困らせ、風間が諏訪の代わりに現場に行くことになる原因を作った。
アリスは諏訪から離れなくて済みホッとしたが、こうやって冷静になると迷惑をかけてしまったと反省していた。

「気にするな。お前は両親と離れて暮らしているし、あんな状況だ。諏訪なんかで代わりになるならそれでいい。」

何やら失礼な言い方をされたと諏訪は顔を歪ませたが、何も言わなかった。
自分も正直現場での仕事があるとは言え、あんな状態のアリスと離れたくはなかった。
風間のおかげで一緒にいられて、大事な話もできた。
実際風間には感謝をしていた。

「今日現場の記録も終わったから明日自宅に荷物を探しに行ってもいいぞ。」

「本当ですか!」

「早かったな。もうちょいかかると思ってたのに。」

「柿崎のところが手伝ってくれてな。予定していたより早く終わった。また学校で礼を言っとけ。」

今回の侵攻は規模が少し大きく、防衛ラインを突破されたこともあって現場の保存に時間がかかる見込みだった。
だが非番の柿崎隊が現場保存の作業を手伝ってくれたおかげで作業が進み、結果予定していたよりも早く自宅への帰宅が早々に可能になったのだ。

「アイツらにもなんかご馳走してやらねえとな。」

「うん!」

ザキくん、ありがとう。とアリスは祈るように手を組み呟いた。

「ただし倒壊の恐れがあって危険だから現場には1人で行くな。行くならボーダーに連絡して同行できる隊員を探せ。」

そう言われてアリスは諏訪を見上げた。
それに諏訪は首を振る。

「明日はダメだ。午後はみっちり防衛任務だから。」

「そっか。じゃあ明日は先に帰って待ってる。」

まるで夫婦の会話だなと風間は思ったが、先に進めなかった諏訪には酷かと思い何も言わずにカレーを食べ終えた。





翌日、アリスは広報室で仕事、諏訪は午後は夜までみっちりと防衛任務だった。
夕方に仕事が終わったアリスは先に帰ると言い、諏訪を待つことなく帰っていった。
諏訪はというと、任務が終わってから報告書作成、更には先日のネイバー侵攻のときの報告書もまだ確認していなかったのでその作業をしていた。

「あー、遅くなっちまったな。」

諏訪は仕事を終えて帰り道を走っていた。
腕時計を見ると20時過ぎ。
もう少し早く帰れる予定だったが、案外作業に時間がかかってしまった。

(腹減ったな。アリスもう飯食ったかな?)

帰りに夕食を何か買って帰ろうかと思ったがアリスがまだ何も食べずに自分を待っていてくれるような気がして、諏訪はともかく自宅までの道を急いだ。
家が近付くにつれ、辺りは空きっ腹には耐え難い、夕食のいい匂いしていた。
この香りはハンバーグか何かだろうか。
諏訪は安直に夕食はハンバーグでも食べに行こうとアリスに言おうと思って自宅の前まで帰ってきた。
するとどうもこの香りは自分の家の中からしているような気がした。

(まさかな。)

そう思いながら諏訪は玄関の扉を開ける。
すると家の中は手作りの食事、あの夕方ごろになるとどこからともなくする優しい家庭の香りで立ち込めていた。

「あ、洸ちゃんおかえりー!」

「ただいま。」

キッチンからひょっこり顔を出すアリスを見ながら諏訪は部屋の奥へと進む。
アリスはキッチンの中で何かを作っていた。

「お仕事お疲れ様ー。ご飯作ったの。まだ食べてないでしょ?」

ハンバーグの焼けるフライパンを傾けながらアリスは諏訪に笑いかけた。
諏訪は何だか照れ臭くてうまく返事ができなかった。

「あ、お、おう。腹減った。」

「私もお腹空いたー。もうすぐできるから。あ、手洗ってきなよ。」

諏訪は言われるがままに洗面所に向かい手を洗う。
外から帰ってきてこんな風に手をきちんと洗うなんて何年ぶりだろう。
と、諏訪はふと鏡に映る自分を見て青ざめる。
先ほどまでのニヤついた顔、とても人に見せられたものではない。

今までは帰ってきても何の物音もしなかった我が家。
でもこれからは帰ってこればアリスが暖かい食事を用意して待っていてくれる。
おかえりと笑ってくれて、お疲れ様と労ってくれる。
何の関係も進んでなくても最高じゃないか。

(あー、何なんだよ、この幸せ感…。)

こんなに幸せなのにアリスとはただの幼馴染だなんて。
いや、諏訪のほうは完全にアリスが好きなのだが、アリスのほうがどういうわけかわからない。
自分に対してのこの警戒心の無さはなんなのだ。
そう考えると、先ほどまでの幸せが虚しさに変わる。

(腹減った。考えるのやめよ。)

そうため息をついてリビングに戻ると、できたてのハンバーグの芳しき匂いが充満していた。

「洸ちゃん、ご飯の準備できたよー。」

そう言ってテーブルにプレートに乗ったハンバーグ定食を2人分並べるアリス。
そして自分のプレートと思われるほうにはなんとビールまで用意されていた。

「洸ちゃんって確かこのビールだったよね?好きなの。」

「よく知ってんな。」

諏訪はビール!ビール!と思いながら席に着く。
アリスが何故自分の好みのビールを知ってるのか気にはなったが、今はそれより早く目の前に置かれる美味しそうな食事にありつきたい。

「はい、洸ちゃん。お疲れ様ー!」

アリスがそう言ってグラスにビールを注いでくれる。
なんかもういろいろと幸せすぎて夢じゃないかと諏訪は思い始めていた。
アリスが注いでくれたビールはトトトトといい音を立ててグラスに注がれる。

そして。

「?泡だけになっちゃった。」

ビールを淹れたのはいいがグラスが泡だけになってしまったことに首を傾げるアリス。
諏訪は笑った。

「最初はそんなもんだよ。」

「そういうもの?」

「そういうものだ。」

諏訪はアリスのグラスにお茶を淹れてやる。
そして2人で乾杯をする。

「「いただきます。」」

2人は今日あった出来事を話しながら楽しく食事をした。
久しぶりに味わう家庭の味を噛み締めながら諏訪は涙が出そうだった。

(何で俺ら付き合ってねえんだろうなー。)

諏訪は結局最後はそこに行き着くのだ。





「洸ちゃん、ソファで寝るの?」

食事も終わってそれぞれ風呂にも入ってさあ寝ようという時。
ソファに枕や毛布を準備している諏訪にアリスが言った。

「ん?ああ、まあな。」

アリスがここで生活するようになって3日目。
一昨日と昨日の夜はなんとなくベッドで一緒に寝てしまったが、一応年頃の男女だ。
しかもただの幼馴染。た・だ・の。
諏訪はいろいろと問題があると感じ、(あと生殺し状態に耐えられない)アリスはベッド、自分はソファで寝ることにしたのだ。
だがアリスは納得がいかない。

「どうして?一緒に寝ようよ!」

「ぅわっ!ちょ、アリス離れろ!」

アリスは諏訪の腰に抱きつく。

「いーやー!」

まるで幼子の駄々のように、アリスは諏訪から離れようとしない。
諏訪はこうなるかなとは内心思っていたが、これ以上一緒に寝ると理性が保てるか保証ができない。

「お前なぁ!」

「怖いから一緒に寝てよ!」

「怖いってなんでだよ!」

「だって!」

アリスは何かを言おうとして黙って諏訪から目をそらす。
あ、これは結構真剣に何かあるパターンかと思い、腰にくっつくアリスの頭の上に手を置いた。

「どした?聞いてやるから言ってみ?」

アリスが諏訪から露骨に目をそらす時は何か言いたくないこと、知られたくないことがあることが多い。
諏訪はアリスが言い出しやすいようにできるだけ優しく言った。

「1人で寝るの嫌なの。」

「ああ、だから何で?」

「…何ででも。」

アリスは諏訪の腰から離れて立ち上がると今度は諏訪の胸に顔を埋めるように抱きついた。
そんなアリスの頭の上に諏訪は手を置き直す。

「笑わねえし怒らねえから理由言え。」

アリスは一息間を置くとポツリと言った。

「お父さんとお母さんの夢見ちゃうから。」

アリスは祖父の家で一人暮らしをしていた。
その時からずっとそうだったらしいが、離婚してしまった父と母の夢を見ては泣きながら目を覚ますことが多かったらしい。
朝起きたら優しくおはようと言ってくれていた両親。
毎日それが続くのだと思っていたのにそれはある日突然終わってしまった。

諏訪は両親の離婚がアリスの中で思った以上に深い傷になっていることを知った。
朝起きたら必ずあったはずのものがなくなってしまった。
それはアリスからしたら耐えがたいものだったのだろう。

「洸ちゃんと寝た時はいつも見なかったから。朝起きたらすぐにおはようって言えるし。」

目が覚めれば諏訪が目の前で眠っている。
夢ではないので触れても消えないし、おはようと言えば寝ぼけながら言い返してくれる。
それがアリスにとってはどんなにか幸せなことか。

「…わーったよ、一緒に寝る。寝てやるよ。」

「ホント!?」

そんなことを言われてアリスを1人で寝かせられるはずがない。
どこまで自分の理性が持ってくれるか自信はないが、こんなに嬉しそうな笑顔を見せられると我慢するしかないだろう。

諏訪は持ってきていた枕などを抱えてアリスと寝室へと向かうのだった。










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2019.01.01
諏訪さん連載14話目更新です。
諏訪さんの幸せ度と虚しさが比例していますね。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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