ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


俺だってなあ、俺だってなあ!





俺が一番泣きてえよ





その日の夕方、諏訪はアリスを連れてボーダー基地を訪れた。
まず自分の隊室に行くと、小佐野がアリスに飛びついた。

「アリスちゃん、平気?!いろんな意味で。」

「(いろんな意味?)うん、平気。ありがとう、オサノちゃん。」

アリスと小佐野が抱き合って話している間、諏訪は堤と笹森の側に寄る。

「昨日悪かったな。大丈夫だったか?」

「ええ、大丈夫でしたよ。」

「風間さんも来てくれましたし!」

そう言って2人は隊長である諏訪に敬礼をした。
普段そんなことしないくせに、諏訪が気にしないようにと気遣ってくれたのだろう。
確かにこうしてチャラケてくれたほうが諏訪としても気分が楽だ。

「そうかよ。」

諏訪は2人に同じように敬礼で返した。
堤と笹森はアリスを見た。
思ったより元気そうで何よりだ。

「昨夜心配してたんですよ。」

「アリス先輩、元気そうで良かったです。」

昨日、諏訪と別れた後も堤達はアリスの心配をしていた。
とりあえず無事に戦線を離脱したことは風間から聞いていたし、その後もすぐに諏訪から連絡が来ていた。
それでも堤と笹森が心配だったのは、やはり駆けつけた時に見たアリスの表情のせいだろう。
涙を溜めて震えるアリス。
それは自分達がおよそ見たことないアリスの表情で、もっと早く駆けつけていればと痛烈に後悔した。

「諏訪さんも思ったより平気そうで良かったですよ。」

「俺?何で俺?」

諏訪はキョトンした顔で首を傾げる。
堤はそんな諏訪に苦笑した。

昨夜の出来事。
アリスを危険な目に合わせたことについて、自分達でさえ悔しい思いでいっぱいなのだ。
幼馴染の諏訪がそうでないはずがないし、それ以上に苦しかっただろう。

「平気ならいいですよ。」

堤はそんな諏訪が少し心配だったのだ。

「あ、そういえば特別戦功で少し諏訪隊ボーナス出るみたいですよ。」

「マジか!」

「昨日の討伐数結構多かったみたいなんです。」

諏訪はガッツポーズを見せた。
B級隊員はA級隊員のように固定給はない。
臨時収入が入ってくるのは喜ばしいことだった。
しかし、諏訪はハタと何かを思ったのか、ガッツポーズを解き頭をガシガシとかいた。

「あー、俺はいいわ。お前らで分けろ。」

「「ええっ!?!?」」

「驚きすぎじゃね?」

諏訪は堤と笹森のオーバーな態度にちょっとムッとする。
ボーナスが入るのは純粋に嬉しい。
昨日の働きは確かにそれに見合うものだった。
だが自分は途中で隊ではなく、アリスを優先して戦線をそのまま離脱した。
そんな自分がその戦功のボーナスをもらうのはなんだか違う気がしたのだ。

「そんな、諏訪さんだってちゃんと働いたじゃないですか。」

「いいからお前らで分けろ。そして俺に奢れ。」

「あ、そういうかんじですか?」

諏訪はガハハと笑い飛ばした。
こうでも言わなければ堤や笹森は受け取らないだろう。
実際ご馳走してもらえるならそれはそれでよし。

「あの、堤先輩、笹森くん。」

そこへパタパタとアリスがやってきた。
そして堤と笹森に深く頭を下げる。

「昨日は助けていただいてありがとうございました。」

堤達は慌てる。

「アリスちゃん、頭をあげなよ!」

「そうですよ!僕達は当たり前のことをしただけです!」

「そうそうホントに気にしないで!」

2人の声にアリスは頭をあげる。
堤はそこでアリスの腫れぼったい目元が気になった。
やはり昨日は相当泣いたのだろう。
そしてもう一度チラリと諏訪を見る。

「? 何だよ。」

「いえ、何でも。」

諏訪は確かに気にしているようでもないし、これ以上自分が気にするのも変かと考えないことにした。

「あ、もうこんな時間か。おい、アリス。もう行くぞ。根付のおっさんとこも行きてえんだろ?」

諏訪は荷物を持つと出口へ向かう。
アリスはそれを追いかけようとしたが、その前に堤と笹森にもう一度向かい合う。

「堤先輩、笹森くん!今度お礼しますから!」

「じゃあみんなで焼肉行こうか!」

「そうしましょう!」

また今度と約束をしてアリスと笹森は指切りをする。
アリスは後ろからもう一度諏訪に呼ばれてやっと部屋を後にした。

「…。」

2人が出て行ったのを小佐野がボーッと見ていた。
そんな小佐野に堤は首を傾げる。

「どうかした?オサノ。」

「あの2人。絶対何か進展あると思ったのに変わってなさすぎじゃない?」

「あー。まあ。そう、だね。」

堤は苦笑して、小佐野と同じように諏訪達が出て行った扉を見るのだった。





「桐島くん!」

「アリス!」

広報室へ行くと、アリスの身を案じていた根付と職員以外に嵐山がいた。
広報の仕事で立ち寄っただけだったが、アリスが来ると聞いて待っていたのだ。

「根付さん。嵐山くん、も?!」

嵐山は思わずアリスを抱きしめた。
昨夜は嵐山はシェルターの警護係だった。
その場にアリスがいなかったことがどんなに不安だったか。
迅の言っていた一番最悪なパターンも一瞬頭をよぎった。
結果としてそんなことにはならなかったが、家が損壊したことを聞いてとてもショックだった。

「アリス!無事でほんっとに良かった!」

「あ、嵐山くっ、ん。苦しっ。」

「あ、ごめん!」

アリスのうめき声に嵐山はハッとしてアリスを解放した。
そして何か言いたげな目をした諏訪と目が合う。

「あ、えっと。すみません、諏訪さん。ごめんなさい。」

「何も言ってねえだろ。」

諏訪はそう言って少し拗ねたように嵐山から視線を逸した。
その間アリスは根付につかまっていた。

「桐島くん。心配していたんだよ。お家のことは残念だったが君が無事で良かったよ。職員達も心配していてね。ほら、仕事が手に付かない様子だよ。」

根付はそう言ってフロアを指さした。
見れば仕事をしているふりをしながら皆アリスのほうを見ている。
アリスはこれはものすごく心配をかけてしまったようだと苦笑する。

「住む場所はどうするかとかはまだ考えられていないだろう?ボーダーと提携している部屋に空きがないかを調べておいたんだが・・・。」

根付がそう言って家の資料を取り出そうとしたのをアリスは制した。

「ありがとうございます、根付さん。でもお家のことは大丈夫です。」

アリスは諏訪のほうを振り返る。

「洸ちゃんと一緒に住むことにしたので平気です。」

ニッコリと笑うアリスに一瞬根付は手に持った資料を落としそうになる。
そして傍にいた嵐山と同時に諏訪のほうを見た。
根付が何かを言おうとしたその時職員達が自分達もアリスと話をさせろと騒ぎ出した。
自分達もアリスのことを心配していたのだ。
根付の長々とした話が終わったのならさっさとアリスを開放して自分達にも無事を確かめさせろということのようだ。
アリスは根付に頭を下げるとそのまま職員達のほうへ行き、案の定もみくちゃにされていた。

「あー、諏訪くん。おめでとうと言っていいやつかね?」

「いや、言わなくていいやつですね、根付さん。」

根付の言葉に諏訪はまた拗ねたような表情をする。
たしかに一緒に住むことにはなったが、根付達が思っているようなめでたいことがあったわけではない。
環境が少し変わっただけで、諏訪とアリスは未だにただの幼馴染なのだ。

「え?ホントに?」

嵐山もさすがに嘘でしょというような表情を見せる。

「何度確認しても何も出てこねえぞ。」

もちろん諏訪としては関係性を進めるような言い方をしたつもりだった。
だが当の本人にそれがどうしても伝わらないのだ、仕方がない。

「おい、アリス。そろそろ行くぞ。風間との約束の時間に遅れる。」

「あ、うん!」

諏訪は根付と嵐山の視線がいたたまれなくてその場を離脱することにした。
この後風間隊の隊室を尋ねた後、一緒にカレーを食べに行く約束をしている。
別にここから逃げたくて言った嘘ではない。

アリスは職員達に別れを告げ、また明日と明日の約束をする。
そしてそのまま諏訪の腕に飛びついた。

「根付さん、嵐山くん。また明日!」

「あ、ああ。無理はしないようにね。」

「また明日な。」

諏訪はペコっと軽く頭を下げるとそのままいつものように腕にアリスをくっつけて部屋から出ていった。

「あれで本当の本当に付き合っていないのかね、嵐山くん。」

「ええ、俺も不思議でなりません。」

いつかどこかで誰かとしたような会話を根付は口にし、それに嵐山は苦笑した。





「おーい、風間ー。」

「む、来たか。」

諏訪とアリスは両手に1本ずつ缶コーヒーを持って風間隊の隊室を訪れた。
風間達は先程まで防衛任務だったが、今しがたそれを終えて今は報告書を書いているところだった。

「もう少し待ってくれ。」

「いくらでもどうぞ。」

諏訪はそう言って風間の脇にカフェオレを置き、もう1本を三上に渡した。
アリスは歌川と菊地原に礼を言いながら同じように缶コーヒーを渡す。

「昨日は本当にありがとうございました。」

「コーヒーもうちょっと良いやつがよかった。」

「おい、菊地原!」

アリスは風間と知り合ってから何度か風間隊の隊室には遊びに来たことがあった。
菊地原がこういう毒舌なキャラクターであることはよく理解している。

「諏訪さん、アリス先輩無事で良かったですね。」

「ああ、まあな。」

三上がにっこりと諏訪を見上げると、諏訪は照れたように視線を背けた。

「一緒に住むことになったとか?」

「お前情報早すぎじゃね?」

今しがた広報室で一緒に住むことを話したばかりなのに三上はもう既にその情報を知っていた。
諏訪隊の隊室でもその話はしなかったのに。

「オサノからは何の進展もなさそうだって聞いていたのに。」

「ホント女子高生怖えわ。」

諏訪ははあとため息をつく。
小佐野と三上は同い年だし、オペレーター同士っていうのはその職業上の気質なのか、情報交換が高速に行われているようだ。

「今後が楽しみです。」

「マジ怖えからやめろ。」

三上の笑顔に寒気がした諏訪は顔をひきつらせる。

「三上、あまりからかうな。」

「はーい、風間さん。」

「どいつもこいつも風間の言うことは素直に聞きやがって。」

諏訪はいつぞや加古が風間に言われて素直に写真を削除してくれたことを思い出した。
風間と自分は同い年なのにどうも自分の方が軽んじられるケースが多い。
それは隊のランクのせいなのか、はたまた天性のものなのか。

「報告書は出しておいた。お前達も昨日の疲れがあるだろうし、今日はまっすぐ家に帰れよ。」

「「「了解!」」」

風間がそう言うと隊員達はビシッと敬礼をする。
それに手を振り3人は隊室を後にした。










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2018.12.23
諏訪さん連載13話目更新です。
根付さんはヒロインをベタベタに甘やかす役。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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