何やってんだよ、俺は。 泣かせたくなかった 諏訪は自宅に着くとアリスを抱いたまま器用に玄関を開け家に入った。 「アリス?」 諏訪はアリスの名前を呼ぶが返事はない。 ただ代わりのつもりなのか、アリスはしがみつく腕の力を少しだけ強めた。 「…トリガーオフ。」 諏訪はとりあえず返事をしてくれたのかと思い小さく溜息をつくと、換装を解いて生身に戻った。 そのまま部屋の奥までアリスを連れて行き、リビングのソファの上にアリスを降ろす。 「アリス。俺ん家だぞ。もう大丈夫だ。」 アリスは腰がソファに着くとそっと腕を離した。 諏訪はアリスの顔を覗き込む。 「っ。洸ちゃん。」 その顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。 よほど怖かったのだろう。 諏訪は何故アリスの側にいなかったのかと後悔をした。 優しくアリスの頬を両手で包み込み涙を拭う。 「アリス、悪い。怖い思いさせた。痛いところとかねえか?怪我とかしてねえか?」 諏訪の声は驚くほど優しく、アリスはもう声を我慢することはできなかった。 「こ、怖かったよお!!」 アリスは諏訪に抱きつき、声を出して泣いた。 諏訪は泣きじゃくるアリスを抱き締める。 「無事でよかった、アリス。」 そのまま諏訪はアリスが泣き止むまでただアリスを抱きしめていた。 「落ち着いたか?」 「うん。」 それからアリスが落ち着いたのは1時間後だった。 諏訪はその間何も言わずにアリスが泣き止むのを待っていた。 今はようやく落ち着いたアリスと並んでソファに座ってホットココアを飲んでいる。 ソファの上に三角座りをして小さくなってココアを飲むアリスはいつもより当たり前だが弱々しく、余計に小さく感じてしまった。 「洸ちゃん、ごめんなさい。お仕事…。」 「気にするなよ。風間大明神と堤から連絡があって向こうは全然問題ねえとさ。」 諏訪はアリスが背負ってたリュックサックを見る。 「お前、スマホは?カバンの中?」 「あ、ううん。あの、ポケットに入れてたんだけどなくなってて。」 「そうか。ってことは瓦礫の下かもな。」 「うん、だから友達にも連絡取れなくて。」 家がなくなってしまったアリス。 当然これから生活する家を探さなくてはならない。 目下今晩泊まるところを探さねばいけないが、友達の連絡先が入ったスマホは失くしてしまった。 ションボリするアリスを横目に諏訪はコホンと咳払いをして言った。 「あー。俺ん家泊まるか?家見つかるまで。」 「え?」 アリスは諏訪を見上げた。 「あ、いや、別に変な意味じゃなくて…「いいの?」 一瞬沈黙したアリスに弁明しようとした諏訪だったが、そんな心配は杞憂だったようで、アリスは目を輝かせて諏訪を見上げた。 「ああ。家見つかるまでいろよ。」 「ありがとー!よかったぁ。ホテルとかお金かかっちゃうし、ネカフェとかも怖いなと思ってたの。」 アリスは隣に座る諏訪の腕に抱きついた。 諏訪としては何とも複雑だ。 これはやはり完全に脈がないのでは…。とため息が出る。 「まあ現場の保存が終わるまでじいさんの家には行けないだろうけどよ。行けるようになったら見に行って何か使えそうなもの探そうぜ。」 「うん!あ、そうだ!」 アリスはココアをテーブルに置くと、ここまで手に持っていた写真立てを取り出してきてテーブルの上に置いた。 幸いあんなことがあったが、腕にきつく抱きしめていたため壊れてはいなかった。 「お前これ持ってきたのかよ。」 「うん。取りに戻った時に壊れてたらどうしようと思ったけど無事でよかった。」 「取りに戻った?」 「あ。」 アリスはしまったと思って慌てて口を閉じたがもう遅い。 「おい、取りに戻ったって何だ。説明しろ。」 「いや、だから、えっと…。」 アリスは仕方なく一度避難しようとしたが途中でこの写真立てを取りに戻り、そこでネイバーに出くわしたことを正直に話した。 「ばっかやろう!!」 当然諏訪は怒る。 「こんなもん取りに帰ってんじゃねえ!命かかってんだぞ!?まず逃げろ、馬鹿!!」 「こ、こんなもんじゃないもん!大事なものなんだもん!」 アリスは反論するが諏訪にあぁ?と睨まれればもうその後は反論できなかった。 だがこんなもの、と言われたのは不服だったようで、写真立てをまた抱きしめると、ソファの上でふいっと体ごと横を向き諏訪に背を向けた。 諏訪は盛大にため息をつく。 アリスがこの写真を大事にしてくれているのは嬉しいが、これを取りに帰ったために命が危険に晒された。 怒りたかったが、これ以上は怒るに怒れない。 「あーもう。…まあもうそれいいわ。」 諏訪は端末を取り出すとアリスの肩にそれをポンと乗せる。 「とりあえず親父さん達に連絡しとけ。これ使っていいからよ。今頃ボーダーから親族に対して連絡はいってるだろうけど。」 ボーダーではネイバーによって家が損壊した時に名義人に連絡を取ることになっている。 アリスの祖父の家の名義人は父親になっているはずなので今頃連絡がいっているはずだ。 そうなるともちろんアリスの両親はアリスの心配をするだろう。 もちろん、その際に住んでいる人間が無事かどうかの報告もされるのでアリスが無事であることも伝えられているだろうが、こういう時は本人から連絡を入れると一段と安心できるだろう。 「…連絡しない。」 「え?」 だがアリスは諏訪の差し出した端末を受け取らなかった。 受け取らないどころか連絡をしないと返事したのだ。 「遠慮すんなよ。これボーダーの端末だから電話代とかは気にするな。」 諏訪はアリスが国際電話の料金を気にして電話をしないと言ったと思い、気にするなと言った。 だがアリスの連絡しない、とはそういう意味ではなかったのだ。 「連絡したくないの。だからいらない。」 いつものアリスならすぐに端末を手に取り両親に電話して、怖かった、死ぬかと思った、でも大丈夫、元気だよ、と。 弾丸のごとく報告をするだろうに。 「お前なあ、何言ってんだよ!おじさんもおばさんも心配してんぞ!声聞かせてやれよ!」 諏訪は怒った。 アリスの両親はアリスを大層可愛がっていた。 その可愛い一人娘が路頭に迷っているかもしれないと思うと気が気ではないだろう。 しかもアリスは自分のスマホが行方不明だ。 可愛い我が子と連絡が取れないなんて、不安でたまらないだろう。 「イヤ。」 「お前なあ!」 諏訪は頑なに連絡を取るのを嫌がるアリスにさすがにイラついた。 と同時に何かおかしいと思った。 アリスの両親はアリスを可愛がっている、逆もしかりでアリスも両親のことを思っている。 なのに、何故ここまで連絡を取ることが嫌なのか。 電話をしたくないのであればせめて無事であると一言メッセージを入れれば済む。 それさえもしたくないという雰囲気がアリスから出ていた。 「…何で連絡取りたくないんだよ。」 諏訪はイラつきながらも何か事情があるのではと踏んでアリスに問うた。 アリスはしばらく黙っていて何も言わなかった。 「洸ちゃん、私ね。」 だがついにその重い口を開けた。 「洸ちゃん、私ね。家出してきたの。」 Prev | Next ******************************* 2018.12.16 諏訪さん連載11話目更新です。 今回はちょっといつもより短いです。 後半は設定捏造のオンパレード。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |