ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


その瞬間は突然やってきた





ぶっ殺してやる





「ふわぁーぁ。」

平和な夜だった。
防衛任務についている諏訪隊と柿崎隊は配置を保ち警戒をしながらも、その平和な夜を満喫していた。
今夜は満月。晴れていて月もよく見える。

「平和だなー。」

「そうですねー。」

諏訪と堤がボーッと月を見上げながら呟いた。
ここ数日こうした平和な日が続いている。
昼間も夜もネイバーが一向に現れないのだ。
近く敵襲がある可能性があるという迅の予知が出ているが、こう平和な日々が続くとどうしても気の緩みも出てくる。

諏訪はスコンといきなり堤の後頭部を殴った。
殴られた堤は何をと思ったが、諏訪を見ると自分の頭も叩けというジェスチャーが送られてきた。
堤は指示通り自分がされたのと同じように諏訪の後頭部を殴った。
気の緩みを取りたかったのだろう。
こういう時は一番嫌なことが起こるのだ。
そしてそれは大体当たることが多い。


ウーーーーーー


諏訪が気合いを入れ直した直後だった。
ネイバー襲来を告げるサイレンの音が夜の静寂に鳴り響く。

『総員警戒態勢、総員警戒態勢。複数ゲートが開きます。繰り返します…。』

本部からのアラートが現場へ緊張感となって駆け巡る。
諏訪も散弾銃を構えて隊員達に指示を出す。
バリバリッと音を立てて複数のゲートが一気に開き、夜の闇より深いところからギョロリとした目がこちらを見ていた。

諏訪は辺りを見回す。
自分達の持ち場以外にも複数のゲートが開こうとしている様子がうかがえる。
今日みたいな日に備えていつもより配置の隊数は多くなっている。
本部でも想定済みの状況のはずだ。

何も起こらないはずだ。

「おっしゃ、全部ぶっ倒してボーナス貰おうぜ!」

「はいっ!」

諏訪の声に隊員達が高らかに呼応した。

今日みたいな日に備えていつもより配置の隊数は多くなっている。
本部でも想定済みの状況のはずだ。

何も起こらないはずだ。

そう、何も起こらないはずだった。





戦いは思っていたよりも長引いた。
人型ネイバーの襲来はなかったが、いかんせん数が多かった。
何人かがベイルアウトしていった様子も見えている。

「この辺はあらかた片付いたな。」

「そうですね。」

諏訪達が防衛していた区画は何とか切り抜けた。
誰一人ベイルアウトをしていないのが幸いだ。

『緊急、緊急。南西防衛ラインを突破されます。付近の隊員は最低限の防衛配置を保ちつつ直ちに応援に駆けつけてください。繰り返します…。』

諏訪はハッと顔を上げた。
アナウンスのあった南西方面を見るとバンダーが建物を破壊しながら市街地に向かって行っているのが見えた。
諏訪はサッと血の気が引いた。

(おいおい待てよ。その方向は…。)

そう、南西方向。
今ネイバー達が向かっている先にあるのは…。

「諏訪さん、あの方向って!」

「アリス先輩の!」

堤と笹森の叫ぶ声が聞こえたのと同時に諏訪は走り出していた。

「柿崎、お前らはそこ守っとけ!」

「はいっ!!」

そう、あの方向にはアリスが住む家がある。
このまま進まれるとアリスが危ない。
どうか避難しててくれと諏訪は心の中で祈りながら戦場を駆け抜けた。





「逃げなきゃ!」

アリスは以前ここに住む時に市の職員から渡されていた、緊急時の避難経路を思い出していた。
アリスが住んでいる家は防衛ラインの側にあるということもあり、万が一に備えての説明を受けていた。
常に避難用の荷物をまとめておくこと、避難所へのルートを確認しておくこと。
アリスはもちろん両方ともをきちんと守っていた。
だからサイレンが鳴って避難命令が出た瞬間、まとめていた荷物を持って家を飛び出してシェルターへと向かっていた。

(あ、いけない!!)

だが避難する途中で大事なものを家に置いてきてしまったことを思い出した。
家の方を振り返ると建物が破壊されて上がっていると思われる粉塵が立ち上っていた。
まだ防衛ラインが突破されたというアナウンスはされていない。
急げば間に合うかもしれない。

アリスは戻ってはいけないと理解していた。
それでもどうしても取りに行きたいものがあり家へと引き返してしまった。

家に辿り着き、祖父の書斎だった部屋へと走る。
ズシンズシンと地響きが聞こえ、思ったよりもネイバーが近くにいることがわかった。
アリスは部屋へと駆け込むと机の上に置いてあった写真立てを手に取る。

それは幼い頃の諏訪との写真だった。

「よかった、壊れてない。」

アリスはそれを抱きしめると今度こそ逃げようと外へと走り出た。

「!!」

だがもう手遅れだった。
アリスが家の外へ飛び出して裏口へ行こうとした時、庭にはモールモッドが数体徘徊していた。
初めて見る生のネイバーにアリスは背筋が凍った。
するとその内の1体がアリスの存在に気づき、目がカチリと合ってしまった。
アリスは急いで家の中へ戻る。

(どうしよう、どうしよう!)

アリスは入り組んだ家を走って身を隠す。
部屋に入り物陰に隠れて息を潜めた。
モールモッドの足音が廊下に響く。

(お願い、どっか行って!!)

アリスがそう念じている内に、やがて足音はしなくなった。
アリスがほっと溜息をついた瞬間だった。


ドゴオオォォ


「きゃああ!!」

部屋の壁を破壊してモールモッド達が侵入してきた。
アリスは驚いて悲鳴をあげてしまい、それを当然彼らは聞きつけて集まってきた。
アリスは写真を抱く腕に力を込めた。

「来ないで!来ないでえ!!」

アリスがそう叫んだ時だった。


ズガガガガガ


天井から散弾銃が放たれ、何体かのモールモッド達の目に命中。
彼らは目の光をなくし、完全に沈黙した。
アリスが上を見上げると、そこにはタバコの火を燻らせながら肩で息をする諏訪の姿があった。

「アリス!!」

諏訪は天井から飛び降りてアリスに背を向けてモールモッドに対峙した。
諏訪はチラリと後ろで座り込んでいるアリスを見た。
カタカタと震え、涙をいっぱいに溜めた目で諏訪を見上げるアリス。
諏訪は苦虫を噛み潰したような顔をして前を向くとこう言った。

「てめえら、覚悟はできてんだろうな。」

諏訪が銃を放とうとした時、堤と笹森が諏訪と同じようにその場に降りてきた。

「諏訪さん、ここは俺達が引き受けます!」

「諏訪さんはとりあえずアリス先輩を安全な場所に!」

そう言って堤は銃で、笹森は孤月でモールモッドに立ち向かっていった。
諏訪はアリスをこんな風にしたネイバー達をできれば自分の手で葬り去りたかった。
だが2人の言う通り、アリスをこれ以上こんなところに置いておけない。

「やられんなよ、お前ぇら!!」

「「了解!」」

諏訪は銃をかけ直すと、アリスに駆け寄った。

「おい、アリス。無事か?怪我とかしてねえか?」

諏訪はアリスを驚かさないようできるだけ普段通りに話しかける。
アリスは何も言わずにそのまま諏訪の首に腕を回して飛び込んだ。
諏訪はしっかりとアリスを抱きとめる。

「っ。」

いっそ声を上げて泣いてくれたほうが何か言えたのに。
諏訪に抱きつき声を押し殺して泣くアリスに胸が締め付けられる思いがした。

「待ってろ。すぐ安全な場所に連れてってやる。」

諏訪はそのままアリスを抱き上げると、軽々と飛び上がりそのままシェルターの方へと向かう。
戦いも沈静化してきているようで、銃声や鍔迫り合いの音も少なくなっていた。

「!」

シェルターに向かう途中で諏訪は第一線に敷かれた救急隊の一団に遭遇した。
逃げ遅れた人々をいち早く保護できるようにボーダー隊員の護衛付きで救急隊を配置していたのだ。

「風間!」

「諏訪。!アリス、やはり逃げ遅れていたのか。」

救急隊の警護は風間隊だった。
シェルターの護衛に向かった嵐山からアリスの姿がシェルターにないことを事前に連絡を受けていた風間は逃げ遅れたのではないかとアリスのことを心配していた。
迅の予知もあったから余計にだ。
諏訪に抱かれる五体満足なアリスの姿を見て、ほっと胸をなでおろす。

「要救護者1名です!」

それを見た歌川が救急隊の隊員に声をかける。

「アリス。ここまで来れば安全だ。救急隊の人に診てもらえ。」

諏訪は一向に離れようとしないアリスに声をかけるが、アリスは小さく首を横に振り離れようとしなかった。

「俺はまだ仕事がある。必ず迎えに来るから、な?」

一段と優しく言ってみるが、アリスの反応は一緒だった。
諏訪は少し困った顔をして目の前に来てくれた救急隊員の人と顔を見合わせる。

自分の隊員である堤と笹森はまだ現場で戦っている。
隊長である自分がいつまでも離れていることなんてできない。
だがこんな状況のアリスを置いていくことも諏訪はしたくなかった。

「俺が行ってやる。」

風間はそう言って諏訪の横を通り過ぎる。

「歌川、菊地原。ここは任せたぞ。」

「「了解。」」

歌川と菊地原は風間の言葉に静かに返事をする。

「お、おい。風間。」

「さっきアナウンスがあった。お前も聞いたはずだ。
ネイバーは制圧、完全沈黙。
あとは現場の片付けと逃げ遅れた人の確認や救助だ。
お前はそのまま家に帰れ。」

「いや、でもよ。」

風間の申し出は正直ありがたかった。
だが自分だけ現場を抜けるだなんて無責任な気がして諏訪は嫌だった。
渋る諏訪に風間は続けた。

「側にいて安心させてやれ。1人にするな。」

そう言って風間は現場へと行ってしまった。
諏訪はアリスの顔を覗きこもとしてみたが、自分にぎゅっとしがみついていて見えない。
離れようとしないアリスを、諏訪は風間の言う通りとりあえずこのまま家に連れて帰ることにした。

「悪ぃな、お前ら。今度なんかおごるわ。」

「お気になさらずに。」

「缶コーヒーでいいですよ。」

歌川と菊地原に礼を言うと、諏訪は自宅へと向かった。










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2018.12.11
諏訪さん連載10話目更新です。
タイトルものすごく物騒ですが、それくらい諏訪さんが怒っているとご理解いただければ幸いです。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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