「よし、こんな感じ。かな?」 after the 負けられない闘い ver.荒船隊 side T.A 「先輩!す、すみません、お待たせしました!」 三門市のある駅の中央改札口。 休日でごった返している駅ロビーを息を切らせてアリスが走ってくる。 荒船はパタリと読んでいた本を閉じ、腕時計を見やる。 10時15分。待ち合わせは10時だった。 「わりと豪快な遅刻だな。」 「着慣れない服だから手間取ったんです!」 嫌味を軽く言った後、荒船はアリスを頭の先から爪先まで見る。 これは何と言うかすごくいい、と荒船は思わず視線を逸らせた。 普段アリスはパンツ姿が多い。 隊服ももちろん、パンツだ。 学校の制服はスカートだが、アリスとは学校が違うので荒船はアリスのスカート姿をほとんど見たことがなかった。 「制服はスカートだろう?」 「そ、そうですけど!こんな丈の短いのとか履いたことない…。」 消え入りそうな声でアリスは言った。 裾が気になるらしく、後ろ手にカバンを持っている。 「服借りる相手絶対に間違えた!」 アリスは自分に服を選んで貸してくれた宇佐美と小南のことを思い出す。 自分に似合わないから、アリスはスカートというものがあまり好きではなかった。 最も、そう思ってるのはアリスだけなのだが。 だが何故今日そんな服装を着て荒船と待ち合わせをしていたかというと、そもそも発端は自分自身である。 「お前が大口叩くからだぞ。」 「だって、勝てると思ったんですもん。」 「何か言ったか?」 「いえ。」 先月荒船隊で行われた1日1回、合計31本勝負。 アリスのひょんな一言から始まったこの1ヶ月の荒船隊訓練試合。 アリスは1勝でもすれば荒船と穂刈をぎゃふんと言わせられたはずなのに、 結果16-15-0で荒船が勝利した。 アリスはというと勝った人の言うことを何でも聞くという約束だったので、今こうして荒船に付き合い休日に出かけることになった。 荒船からの要求は"次の休日に映画に付き合う。服装は普段あまり着ない私服。"というものだった。 どんな酷いことをさせられるかと思っていたアリスは、何だそんなことかとほっと胸を撫で下ろしたが、この要求、後半がなかなかくせ者だった。 もちろん荒船からすると上記の要求でアリスがスカートを履いてくるだろうことは計算尽くだ。 適当な服を着て誤魔化せばいいものを、変に真面目な性格が仇になり、ボーダー内の先輩女子に相談する。 またこの相談相手がよくなかった。 今思えば宇佐美と小南のあの笑顔は協力を惜しまないよ、という後にただし全力で遊ばせてもらう。という一言がつくものだったに違いないとアリスは後悔した。 せめて綾辻に相談すればよかったのだ。 「ほら、行くぞ。」 「あ、待って、先輩!」 2人は目的地に向けて歩き出した。 「すっごく良かったですね!映画!!」 「あ、ああ。」 アリスは映画の内容にご満悦だった。 荒船が映画好きなのはボーダーでも有名なので、その荒船が一緒に行こうというのであれば内容は面白いに違いないということはわかっていたが、実際にその通りに面白かったことにアリスは改めて満足の意を表した。 だが対して荒船は少し浮かない顔。 映画は面白かった、満足のいくものだった。 それは荒船も同意見だった。 だが全然集中ができなかった。 全てアリスのせいだ。 (こいつ、無意識なのか、あれ…。) 今回のものはSFサスペンスだった。 外国の映画だったせいか、急に敵が現れる、などの視聴者を驚かせる演出が多かった。 演出もうまく、ここ来そうだなとわかっていても驚いてしまう。 内容は確かに本当に満足行くものだったのだ。 それなのに荒船が集中できなかった理由、それはアリスにある。 アリスは本当に無意識なのか、緊張させられるシーンになると荒船の服裾をきゅっと掴んできた。 そしてわっと驚かせるシーンにくると大きく肩を震わせてびくりとするとこれでもかというくらい荒船の服を引っ張った。 物理的に邪魔されて映画に集中できなかったのもあるが、何より思いの外アリスのリアクションが可愛すぎて荒船は途中から映画どころではなかったのだ。 (今度もう一回見に来よう。) はぁ、と大きくため息を着くと後ろからつんつんと服を引っ張られた。 「先輩、先輩!お腹空きました!何か食べましょうよ!」 そう言ってアリスがレストラン街を指差した。 お昼の時間はとうに過ぎて、店に並ぶ客もまばらだ。 少し遅いが、昼食を摂ることにする。 「そうだな、飯でも食うか。」 「先輩、あたしあのイタリアンがいいです!そして奢ってください!」 「お前はもうちょっと控えめに物が言えないのか。」 お腹が空いたと騒ぎ立てる後輩に、荒船はやれやれと思いながら、アリスの頭を撫でた。 「いいぞ。何だかんだ訓練がんばったしな。デザートもつけてやろう。」 「ホントですか?!やったぁ!」 アリスは喜び勇んで目的の店に向かって走って行った。 その後ろ姿に荒船は笑みをこぼすと自分もアリスの後を追って歩き出した。 罰ゲームも終わりに近づいた。 荒船はアリスを最寄り駅まで送ると言って、一緒に電車に乗った。 「アリス、今日はありがとな。付き合ってくれて。」 「いいえ。というかこれ本当に罰ゲームでした?」 アリスは今日1日を振り返る。 映画を一緒に見て、ご飯を一緒に食べる。しかも荒船の奢りで。 お互い見たいお店があると2人でショッピングをして、途中でアイスを買い食いする(ちなみにここも何故か荒船の奢り。) 「これじゃあまるで…。」 そこまで言ってアリスははっと言葉を止める。 急に続きを言うのをやめたアリス。見れば顔は少し赤い。 だがあそこまで言ってしまったら、その後に続く言葉なんてさすがの荒船にもわかる。 「まるで、何だ?言ってみろ。」 荒船は意地悪く笑い、アリスに問う。 かっと更に顔を赤くしてアリスは首を思い切り左右に振る。 「な、何でもな…。」 アリスがちょうど言葉を発しようとした時、電車の扉が開き人がたくさん乗ってきた。 開いたドアと反対側のドア付近に立っていた荒船とアリスは人並みに押されて自然と距離が近づく。 扉に追い詰められたアリスが潰れないように庇う荒船。 アリスの顔のすぐ横の壁に手をついた。 アリスは急に近づいた距離にドキっとして下を向く。 荒船の方を見ることができない。 「何だ、教えてくれないのか?」 「っ!!」 耳元で囁かれるように荒船の声がした。 アリスは耳まで真っ赤にした。 「どうした? 先輩の俺に言えないことか? 俺が教えてやろうか? 今日のはまるで…。」 荒船がそう言って口を開こうとした時、今度はアリス達がいた側の扉が開いた。 ラッキーなことにアリスが降車する予定の駅だった。 どさくさに紛れてアリスが降りようとした時、荒船に手首を掴まれてぐいっと引っ張られ耳元で囁かれる。 ささやかれた言葉が耳に届くと、アリスはさっきと比べ物にならないぐらい顔を真っ赤にして、逃げるように、ーーーそれでもお疲れ様ですと言うのは忘れなかったーーー走り去って行った。 『今度またデートしような。』 荒船に言われた言葉が頭を回る。 顔が熱い。掴まれた手首も。 「考えときます。」 アリスは自分に言い聞かせるように呟いた。 Prev | Next ******************************* 2015.4.14 負けられない闘いの続きです。 荒船さん勝ったバージョンですね。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |