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俺の出番はちょい休み





俺らのいぬ間に





「あ、あの後ろ姿は…。」

その日も元気にアリスはボーダーで働いていた。
書類を人事部に届けてほしいと言われて廊下をトコトコと歩いていると、見知った後ろ姿と思われる青年が前のほうを歩いていた。
いつもと服装も違うし、髪の毛の色も違う。
だが背格好は確かに自分の友達の彼である。
イメチェンでもしたのかな?と思いながらアリスは駆け寄って声をかけた。

「嵐山くん、おつかれー!」

ポンと背中を叩くと、その人物は振り返った。

「え、俺?」

「あれ?!」

だが振り返ったのは嵐山ではなく、額に色付きサングラスを乗せた青年だった。
アリスは慌てて謝る。

「ご、ごめんなさい!後ろ姿が嵐山くんに似てて、その!」

顔を少し赤くしてぺこぺこと謝るアリスに彼は笑って言った。

「いいよいいよ、気にしてない。」

彼は持っていたぼんち揚を口に放り込んで続けた。

「君最近入った子?見ない顔だね。」

「えっと。」

屈んで顔をじっと見てくる彼にアリスは困惑する。
悪い人ではなさそうでよかったが、知らない人に失礼なことをしてしまった。
自分と年は近そうだが、基地に溶け込む風格から偉い人だったのではないだろうか。
そんな不安が頭をよぎる。

「あ、えっと。桐島 アリス、です。ちょっと前にここでアルバイトしだして。」

「え?君が噂のアリスちゃん?」

「噂の?」

アリスが名前を名乗るとその青年は少し目を見開いた。
アリスはアリスで自分のことを知っている青年に首を傾げる。

「あれ、アリス?」

そこへ嵐山が現れてアリスを見つけた。
そしてアリスの目の前に立つ人物にも目をやる。

「迅!もう来てたのか!」

「よう、嵐山ー!」

2人はガッと腕をかわし、笑い合った。
アリスは2人が並んでる姿を見て目を点にする。

(嵐山くんが2人いる。)

迅と呼ばれた青年は茶髪だし、サングラスを額に乗せているし、水色のジャージだし。
今思えばイメチェンしたとしても思い切りがすぎるだろうとアリスは冷静になった。
だが髪型も似ているし、背格好も同じだ。
色違いの嵐山がいるようにアリスには見えた。

「どうしてアリスと一緒だったんだ?何もしてないだろうな?諏訪さんに怒られるぞ。」

「失礼だな。この子が俺を嵐山と間違えて声をかけてきたの。」

迅はアリスを指差す。
アリスはまた顔を赤くして謝った。

「その、ごめんなさい。嵐山くんが思い切ったイメチェンをしたのかと。」

「ええ?!俺と間違えたの!?」

「思い切ったイメチェンだって!マジウケる!!」

恥ずかしがって小さくなっているアリスの目の前で2人は笑い転げる。
それを見てアリスは何となくバツが悪く、頬を膨らませてそっぽを向く。
それを見て迅は笑って手を差し出す。

「ごめんごめん。俺、実力派エリートの迅 悠一。嵐山と同い年ってことは俺とも同い年だから普通にタメ口でいいよ。」

アリスはチラリとその手を見てから自分のものも差し出す。

「私は桐島 アリス。嵐山くんとは同じ大学で、今は根付さんのところでアルバイトしてるの。宜しくね。」

2人はしっかりと握手をする。

「でも迅くん、実力派エリートって?」

アリスは迅の自己紹介でそれが気になった。

「ほら、アリス。ボーダーのランクのさ、A級の上にもう一個ランクがあるって言ったろ?」

嵐山がすかさず説明する。
迅が変に説明すると素直すぎるアリスがそれを鵜呑みにしてしまうかもしれないからだ。

「あ、うん。たしか全体で数人しかいないっていうS級?だったっけ?」

「そ。それがこの俺、迅 悠一ってわけ。」

迅はウインクしてピースして見せた。
こんなに軽々しい態度をとる男が本当にそんな大層な人なのだろうかと普通の人は疑うかもしれないが、相手はアリスだ。
そんなことを思うわけがない。

「ええっ?!ホントに?!迅くんってすごいんだ!」

アリスは目を輝かせた。
雰囲気からしてただ者ではないと思っていたが、本当にただ者ではなかった。

「じゃあやっぱり忙しいんだ?ここで迅くんのこと見たことないもんね。」

「んー、それもあるけど俺ここの所属じゃないからさ。」

「ほら、玉狛にいるんだよ。」

「あ、木崎先輩と一緒のとこ!」

アリスは納得というように頷いた。
風間や嵐山、柿崎は本部所属でここでも会うことがあるが、木崎だけは所属が玉狛というところで違う場所だからと前に諏訪が説明してくれていたのだ。

「そ。今度遊びにおいでよ。歓迎するよ?」

「わー、行く行く!」

そこでふとアリスは思った。

「じゃあ迅くんは何か用事で本部に来てたの?引き止めちゃって大丈夫?」

思えばアリスが声をかける時、迅はどこかへ向かっている様子だった。
それをアリスが人違いで呼び止め、ここでしばらく立話をしている。
もしかしたら大事な用事があったのではないかと急に心配になったのだ。

「ああ、これから会議なんだよ。」

「俺も行くところ。」

「あ、そうなんだ。もっといろいろお話したかったなあ。」

これから迅と嵐山はA級以上の特別会議がありそれに向かう途中だったのだ。
アリスはそれを残念がる。

「お、嬉しいこと言ってくれるね、アリスちゃん。でもアリスちゃんもその書類そろそろ持って行かなきゃじゃない?」

迅はそう言ってアリスの抱える書類の束を指差した。
アリスは思い出したかのようにハッとする。

「あ、そうだった!早く届けて戻らなきゃ!」

「頑張りなよ。はい、これお裾分け。」

迅はアリスの口にぼんち揚を一つ放り込む。
アリスはそれをボリボリ言わせながらありがとうと礼を言い、また今度とその場を去った。

「あの子が諏訪さんのねー。」

「迅、ホントに何もしてないだろうな?」

「失礼だな、嵐山!」

迅と嵐山もまた会議室へと向かったのだった。





会議室に着くと、そこには既に主だった面々が揃っていた。

「実力派エリート、迅 悠一、参上しましたー。」

呑気な声がピリッとした緊張感に全くそぐわない。
迅としては皆の緊張感を少しでも和らげようというところなのだろう。

「迅、遅いぞ。」

それでもそんなことはこのボーダー最高司令官、城戸には通用しない。
迅は肩を諌めて言う。

「そう言わないでくださいよ、城戸さん。おかげで来る途中に大収穫があったし。」

「大収穫?」

その言葉の意味がわかったのはこの部屋に来る前から一緒だった嵐山だった。

「おい、迅。まさかアリスが何か関係があるのか?」

「アリス?」

嵐山の言葉に反応を示したのは今名前が出たアリスと既に顔見知りの風間達だった。
迅は続けて何かを言おうとした嵐山の言葉を遮る。

「まあ待てって、嵐山。ちゃんと話すから。」

迅が本部長の忍田を見ると、忍田は頷いた。

「それでは会議を始める。」

忍田が沢村にアイコンタクトを送ると、沢村はモニターにボーダーの基地周りのマップを表示させた。

「迅の予言で近く大規模な敵襲があることがわかった。今回はその対策や対応について話し合いたい。」

さらに沢村は映像を進めると、ネイバーフッドの地図が立体的に表示された。

「時期から見て、この惑星が我々の世界に近く。敵襲があるとしたらこの国からだろう。だが今わかっているのは敵襲があるらしいということだけだ。それ以外は…迅、どうだ?」

「ここ数日町の中フラフラ見て回ったけど、市街地が襲われたり市民が死ぬようなことはなさそうだった。…さっきまではね。」

「お、おい、迅!じゃあやっぱり!」

嵐山の声に迅は頷く。

「ああ。一部の防衛ラインが突破されて民家に被害が出る未来が見えた。」

「桐島くんと会って未来が見えたのか?」

そう言ったのは城戸だ。
城戸は根付がともかく判子を押してくれと持ってきたアリスの人事書類を覚えていたのだ。
当然忍田もアリスのことを知っている。

「桐島くんのことを知らない者もいるかもしれないが、彼女は今根付さんの下で働いている臨時職員だ。大学は嵐山達と同じでB級の諏訪とは幼馴染だそうだ。」

「あー、噂のね。」

そう呟いたのは冬島だった。
冬島はよく諏訪隊の隊室に麻雀をしに遊びに行く。
アリスの話はその時ちらほらと聞いていたが、まだ本人に会ったことはなかった。

「民家が壊れる映像はあったけど、町の中心部までは被害は出てなさそうだった。ということはあの子の住んでいる一帯に今回は被害が出るんだと思う。」

すると迅は表情にやや影を落として続けた。

「最悪の場合、あの子は死ぬ。それか重症。」

「?!」

その言葉に一瞬部屋は静まり返った。
アリスのことを知っている人間はなおさら言葉が出なかった。

「俺も今回は町の中心部のほうを見て回ってたから気がつかなかった。今日あの子に会えたのは運がいい。」

迅は再びボーダー基地周りの地図を表示させた。

「あの子の家は防衛ラインの間際にある。ここ、南西の方角。こっちには少し多めに詰めるようにして、でも他の場所も手薄にはできないから…。」

迅はマップに防衛配置の具体案を書き込んでいく。
そこに忍田が付け足したり、冬島がトラップの配置を提案する。
具体的な事項が決まり、最後に風間が言った。

「本人と諏訪には知らせますか?」

すると忍田ではなくて迅が答えた。

「いや、やめときましょ。本人もそうだけど諏訪さんも冷静になれないだろうし。」

「ああ、そうだな。我々で彼女を死なせないように立回るぞ。」

忍田の声を合図に会議は終了した。










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2018.11.21
諏訪さん連載8話目更新です。
迅がこんなに登場する話、このサイト初ですね;


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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