ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


懐かしいな。





俺だけかよ





「あの、根付さん。ごめんなさい。」

「いいんだよ、桐島くん。私達も少し君に頼り過ぎていた。しっかり休むんだよ。」

アリスが熱を出してボーダーでのアルバイトを早退してきたその日の夜のこと。

(何でこうなるんだよ。)

諏訪はアリスの家の、アリスの部屋の、アリスのベッドの上で、アリスと向かい合うように横になっていた。

「すー。すー。」

「チクショウ。自分だけ寝やがって…。」

自分の胸にくっついて穏やかな寝息を立てているアリスを諏訪は恨めしそうに見下ろした。
とりあえず家にアリスを送り届け帰ろうとしたが、今晩泊まっていってほしいと言われた諏訪。
そんなことできるかと断ろうと思ったが、アリスの熱に浮かされた表情を見て断れるわけもなく、最終的に首を縦に振った。

体調が悪い時というものは誰だって寂しいものだ。
アリスはただでさえそういうところがあるので仕方がない。
だがいくら幼馴染だとは言え、10年越しの再会を果たして、1ヶ月。
しかも別段付き合っているわけでも何でないのに、こんな風に一緒に寝るなんて。

諏訪は自分だけが意識しているようで虚しかった。

(はあ、俺これ脈ないんじゃねえの。)

アリスを起こさないように諏訪は小さくため息をついた。
思えばアリスが帰ってきてからため息をつかなかった日はない。

諏訪はアリスの顔にかかる髪の毛をそっと払ってやった。
すると少し身じろぐアリス。
今度はほっぺを軽くプニッと触る。
やはり少しだか身じろぐアリス。

(何しても起きなさそう…。)

と一瞬良からぬことが頭をよぎったが、諏訪は頭をぶんぶんと横に振る。
アリスが完全に寝てしまっているし、これ以上ここにいるのは限界だと思った諏訪はそっとベッドから抜け出した。

(喉乾いた。)

諏訪はキッチンにある冷蔵庫を開け、水を取り出す。
コップ1杯分水を淹れると、ぐいっと一息に飲み込んだ。
冷たさが喉を伝って、くーっとなる。

(ちょっと歩くか。)

ここは勝手知ったるアリスの祖父の家だ。
そういえばゆっくりと家の中を歩く機会はこの1ヶ月なかった。
諏訪は1人真夜中の散歩へと足を踏み出した。





アリスの祖父の家は広かった。
広い屋敷、広い庭。立派な門構え、小洒落た塀。
子供の時だったから広くて巨大に感じたのだと思っていたが、大人になった今でも感想は変わらなかった。
縁側を歩けば池のある広い庭を見下ろせる。
昔は池に鯉もいたし、盆栽なども飾っていて優美な庭だったが、人がいなかったせいで今は何もなく物寂しい。
池には水さえ入っていないのだ。

(そういや、盆栽にボールぶつけてじいさんに怒られたな。)

アリスと庭で遊んでいて諏訪が思い切をボールを蹴飛ばした時、ボールは吸い込まれるように盆栽の鉢めがけて飛んでいき、結果破壊された。
余程大事なものだったようで、天変地異かと思うぐらいの勢いで怒られたのを思い出した。

何もかもが懐かしく、何もかもが物寂しいこの場所で、アリスは1人で暮らしているのだ。

(…。部屋戻るか。)

諏訪は元来た道を引き返し、寝室へと戻っていった。
と、そこで行く時は気がつかなかったが、途中の部屋から明かりが漏れ出していることに気がついた。

(ありゃじいさんの書斎の部屋だったか?)

諏訪の記憶が正しければ今明かりがついている部屋は昔アリスの祖父が書斎として使用していた部屋だ。
アリスは帰ってきてからあの部屋で着替えて出てきたので現在はアリスのメインの部屋として使っているのだろうか。

とりあえず電気のつきっぱなしが気になったので諏訪はその部屋の扉を開けた。
部屋の中には衣装ダンスとパソコン机、本がびっしりと入った本棚が置かれている。
明かりがついているのはパソコン机の電灯だった。

部屋の奥まで進んだ諏訪は散らかったアリスの机を見た。
どれも今ボーダーで頑張っている仕事のものばかりだった。

(そういえばあいつ集中しだすと結構散らかすんだよな。)

そう思いながら諏訪が机の電気を消そうとした時、机の上に飾られている一枚の写真に気がついた。
小さな男の子と小さな女の子のツーショット写真。

(おいおいこの写真まだ持ってたのかよ。)

それはまさしく諏訪とアリスの幼少期の写真だった。
諏訪と腕を組むアリスは満足そうな笑顔だが、くっつかれている諏訪の方は何だかん照れくさそうな表情だ。
諏訪は先日ショッピングモールに行った時のことを思い出した。
自分達の関係性っていうのは何一つ変わっていないことに何故か笑いがこみ上げ、諏訪は小さく笑った。





「洸ちゃん、どこ行ってたの?」

諏訪が部屋に戻り、静かにベッドに入ろうとするとアリスが言った。

「悪ぃ。起こしちまったか?」

「ううん、そんなことないよ。」

そう言ってアリスは少しだけ笑顔を見せた。
表情が少し和らいでいる。
熱が少し下がったようだ。

「少しは熱が下がったみてえだな。」

諏訪はそう言ってアリスの額に手を当てる。
5月に入ったとはいえまだ夜は冷える。
夜風ですっかり冷たくなった諏訪の手が心地よくアリスは目を細めた。

「あんま心配かけんな。」

「ごめんなさい。」

そう言って諏訪が寝ようとした時。

「ごめんなさい。」

アリスがもう一度小さく謝った。
そしてまた諏訪の胸に顔を埋めるように擦り寄る。

「どした?」

その様子に違和感を感じた諏訪はアリスの背中に手を回し抱き寄せ、ポンポンと子供をあやすようにゆっくりと叩いてやった。

「洸ちゃんにね、カッコイイところ見せたかったの。」

アリスはポツポツと話し始めた。

「4月に洸ちゃんと会った時、背も伸びていて、タバコも吸っていて、金髪だし。すごく大人になったんだって思った。」

それで言えば諏訪も成長したアリスについて思うところがいろいろあったが、今はそれを飲み込んだ。

「ボーダーにも入ってネイバーと戦ってるって聞いて、あ、すごいな。って本当に思ったの。カッコいいなって。」

アリスは諏訪がボーダーに入隊していることを聞いた時、公式サイトや動画サイトや書籍をこれでもかと調べ尽くした。
戦闘の際に命の危険はないというのは理解していたが、それでもやはり最初にそれを知った時にアリスが思ったことは諏訪にボーダーを辞めてもらいたい、だった。

だが調べていけば調べていくほど、辞めてほしいとは言えなかった。
ボーダーが支えている異世界とのバランス、ボーダーとは必要な組織で、またそこにいる隊員達も、もうこの三門市になくてはならない存在であったのだ。
何より助けられた人々の言葉がそれを物語っていた。

決め手は動画サイトにあがっていた諏訪隊がネイバーと闘う動画。陣頭指揮をしながらネイバーを倒す諏訪の姿は本当のヒーローのようで、それはたしかにカッコよかったのだ。

「そうかよ。」

諏訪は照れ臭そうに視線をアリスから一瞬逸らした。
こんなナリだからというのもあるが、こんな風に手放しで褒められることはそうそうない。

「だから私もね、大きくなって変わった、カッコいい私を見せたかったの。」

アリスにとって諏訪は家族にも友達にも自慢できる幼馴染だった。
だったら自分も諏訪にとって自慢できる幼馴染になりたかったのだ。

「アメリカにいる間に学んだのなんて勉強ぐらいだし。それを活かせれるようなアルバイトとかってなかなかなくて。だから嵐山くんがお仕事の紹介をしてくれた時飛びついちゃった。」

結果アリスは今根付のサポート兼秘書のような形で現場で活躍している。
大学生なったばかりの少女が一企業の重役達と渡り合って仕事を回している姿は誰が見てもため息が出てしまうほどにカッコいい姿だった。

「だからね、その。」

「わーってるよ。頑張りすぎたって言いたいんだろ?」

「うん。」

諏訪はアリスの背中を叩いていた手を頭に乗せた。
アリスは諏訪の胸から顔を上げて諏訪を見る。

「んなことしなくてもわかってんだよ。お前が俺の自慢の幼馴染だってことはな。」

撫でられている頭から諏訪の優しさが染み込むようで、アリスは心地よくて目を閉じた。

「だから無理はすんな。」

「ありがとう、洸ちゃん。」

そこで2人はようやく眠りについた。





翌朝早朝、すっかり熱が下がって元気いっぱいになったアリスの姿を見届けると、諏訪は一度家に帰ると言って、アリスの家を後にした。

「んー。肩凝った。」

一晩中アリスを抱きしめたまま眠っていた諏訪は家に着くと玄関で肩をぐるぐる回す。
今日は朝の任務はないし、授業は昼からだ。
もう少し寝るかと諏訪は寝室へ向かい、そのままベッドにダイブしようとした。

「あ、そうだ。」

だがふと何かを思い出したように諏訪はベッドの足元に置いてある背の高い本棚に向かい合った。

「どこだったかな…。ウチから持ってきてたような気がすんだよな…。」

諏訪は本をかき分け、かき分け、そして探していたそれを見つけた。
古めかしい缶でできたお菓子の箱。
昔家にあった空箱を母からもらった記憶がある。
諏訪は机に座ると、その箱を開けた。


がちゃん


少し錆び付いていたようで、開ける時に金具が外れて壊れてしまった。
だが諏訪はそんなことどうでもよさそうに蓋を脇に置く。
中には色々なものが入っていた。
ビー玉、おはじき。セミの抜け殻。セミの抜け殻だけはすぐにゴミ箱に捨てた。
いろいろと入っている封筒を整理しながら諏訪は目的のものを探す。

「あ、やっぱあった。」

そう言って諏訪が箱から取り出したのは一枚の写真。
それはアリスが自室に飾っていたあの幼少期の写真と同じものだった。

「結構シワいっちまってんな。ちゃんと入れとけよ、小学生の俺。」

諏訪は写真についたシワを伸ばす。
この家には写真たてなんて小洒落たものはない。
かといって誰かと買い物に行くと誰との写真を入れるのかとまたからかわれる。
諏訪は写真を箱に戻して、その箱を今度は机の引き出しへと入れた。

「まあそのうちな。」

そんなことを言う諏訪ではあるが、写真たてに写真をいれるようになるのはそう遠くはなさそうだ。










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2018.11.17
諏訪さん連載6話目更新です。
セミの抜け殻は完全にイメージです。
多分虫かごいっぱいにセミとか取るタイプだったに違いない。


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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