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別にヤキモチなんて焼いてねえ





聞いてねえぞ





「あ、桐島さん。」

アリスが授業のため教室に入ると、そこは予想以上に広大な部屋だった。
大学生はこんなに広い部屋で授業を受けるのかと驚いた。
そんな中、アリスは自分が座る席を探す。
どうも席は自由のようだが、既に席に着いている人達が微妙な距離を保って座っているためどこの席が空いているのか、座っていいのかわからない。
キョロキョロと席を探しているアリスに声をかけたのは嵐山だった。

「あ、嵐山くん!」

「ここ空いてるよ。」

そう言って嵐山は自分の隣の席を指差した。
アリスは首を傾げた。
はて、嵐山は三門市では大層な人気者のはず。
その嵐山の周りの席は不自然なほどに空席が多かった。
これは嵐山のファン達が嵐山に迷惑をかけないように自粛し始めたのだと、アリスは後から諏訪に聞いた。

「ありがとう。あれ?柿崎くんは?」

「柿崎は今日は防衛任務。昼から来るよ。」

「ああ、なるほど。」

アリスはそう言って嵐山の隣の席に座る。
するとその時嵐山はアリスが持っているフリーペーパーに気がついた。

「バイト探してるの?」

「え?ああ、うん。」

アリスは教材の下敷きになっていたバイト情報誌を取り出す。
ページに何箇所か折り目があるところから見て既に何件かは気になるアルバイトがある様子だった。

「なるべく親には迷惑かけたくなくて。」

「偉いなあ、桐島さんは。」

そんな他愛ない会話をしている内に鐘が鳴り、授業が始まった。
今日の授業は英語。しかも大学に入って初めての授業だ。

(俺、実は英語苦手なんだよね。)

嵐山は小声でアリスに言う。
この授業の先生は積極的に生徒を当てて答えさせる先生らしい。
しかも木崎情報によると、初っ端は数人に英語で自己紹介をさせるとのこと。
嵐山は当たりませんように、と心の中で祈る。

「えー、じゃあ知ってる人もいるかもしれないが、自己紹介を、英語でしてもらおうかね。」

そこで白羽の矢が立ったのは、嵐山。ではなくて、アリスだった。

「は、はい!」

アリスは元気よく返事をすると、流暢に英語で自己紹介をする。
発音もしっかりしており、嵐山は思わずポカンとした表情で見てしまった。

「ありがとう。発音も実に良かったよ。」

「ありがとうございます。」

アリスは頭を下げてストンと席に座ると緊張していたのか、深くため息をついた。





「そういえばアメリカにいたんだよな、桐島さんって。そりゃ英語できるわけだよ。」

「俺も聞きたかったな。」

授業が終わり、アリスは嵐山と合流した柿崎と3人で昼食を摂った。
その時に先ほどの英語の授業の話になったのだ。
嵐山はアリスの英語がすごかったと一生懸命説明している。

「あはは。そりゃ13年も向こうにいたんだもん。喋れないと困るよ。」

そんな2人にアリスは苦笑する。
たしかに日常生活で使用する言語を13年もいたのに使えないとなればいろいろと問題がある。

「あのー、桐島 アリスさんですか?」

すると、アリスの背後からそっと男女3人組が近づいてきた。
声のかけ方からしてどうもアリスの知り合いではないらしいこの3人は、自分達は三門大学の中でも有名な教授の率いる研究室に所属している学生であると言った。

「何かご用ですか?」

「君、是非ウチの研究室に入らない?!」

3人の内の1人の女子学生がアリスの手を突然握った。

「教授がね、是非とも桐島さんに入っていただくようにって仰ってるんです!ね?」

「あ、あの…。」

アリスは困惑した。
そんなことを急に言われても今ここで返事なんてできない。
確かにその教授の名前は知っているし、その研究室に入ることはかなり自分にプラスになることをアリスは事前に大学のことを調べた時に知っていた。
だがやはり今ここで返事をすることは難しい。

「こーら、お前達。やめないか。」

そこへまた新しい人物がやってきた。

「あ、東先輩?!」

「東さん!」

それは嵐山や柿崎も知っている、いや、ボーダー隊員なら誰でも知っているB級6位東隊隊長、東 春秋だった。

「彼女困ってるじゃないか。そういう勧誘は良くないぞ。」

「で、でも教授が…。」

「教授には俺から言っといてやるから。ともかく無理強いはよくない。」

東が優しく諭すと、3人は頭を下げてアリスに謝り帰っていった。

「悪いね。本当はいい子達なんだ。許してやってもらえないか?」

「あ、いえ。あの、ありがとうございます。」

「どういたしまして。」

東はにこりと笑った。
東のこの人の良さそうな笑顔に安心したのか、アリスも笑顔を見せる。

「ここ、いいか?席が空いてなくて困ってたんだ。」

東はアリス達が座っている4人掛けの席の空いている椅子を指差した。
よく見れば手にはパンとコーヒーを持っている。
断る理由のないアリス達は東に席を勧めた。

「あ、桐島さん。こちら、ボーダーの東 春秋さん。東さん、この子は…。」

「知ってる。桐島 アリスさんだろ?有名人だ。」

「有名人?」

嵐山が東にアリスを紹介しようとすると、東は既にアリスのことを知っていると言った。
柿崎は東の言う有名人というワードに首を傾げた。
アリスが諏訪の幼馴染であることは加古の写真騒動から一部の人間は知っているが、東もそのクチだろうか?

「なんだ、お前達知らないのか?この子はアメリカの超名門高校を卒業していて特待生枠で入学している優秀な女の子だぞ。」

「えっ!?そうなのか、桐島?!」

「超名門ってほどじゃ…。」

柿崎は驚いてアリスの顔を見た。
アリスはそれに恥ずかしそうに返事をした。

「当然だが英語力もあって、他にもドイツ語?だったか?他にもいろいろ喋れるんだよな?教授達はこの子の獲得に必死さ。」

「へー、桐島さん、すごいんだな。」

「嵐山が挨拶じゃなかったら彼女が新入生代表だったんだぞ。」

「や、やめてください、東さん!私そんなにすごくないです!」

アリスは恥ずかしそうに顔を赤くして東は言った。

「はは。悪い悪い。諏訪もこんなにすごいかの…幼馴染がいたら大変だな。」

「(かの?)洸ちゃんだってすごいですよ。」

諏訪の名前が出たのでアリスはパッと顔を明るくした。
東はそれを見てにっこりと笑った。

「教授達には俺から言っといてあげるよ。大学で何をするかは君が決めることだ。」

「ありがとうございます。」

東はそう言うと何か用事があるようで、パンも半分ほどしか食べていないのに行ってしまった。

「これから勉強わからなくなったら桐島さんに聞くよ。」

「俺も!」

「も、もう2人ともからかわないでよ!」

3人はそうやって笑い合うと食事を再開した。





「うーん、困りましたね。」

ボーダー基地の広報室から根付が困った顔をして出てきた。
先ほどまで来客室で商談をしていたようだが、それがうまくいかなかったのか。
偶然広報の仕事でその場に居合わせた嵐山隊は浮かない顔の根付に話しかけた。

「根付さん、どうしたんですか?そんな顔して。」

「なんかやっちゃったんですか?」

あまりに浮かない顔をする根付を佐鳥がからかう。
だが根付から返ってきた答えはそれとは真逆のものだった。

「とんでもない。商談はむしろうまくいきましたよ。ただ…。」

根付は持っていた資料を開いてはぁ、とため息をつく。

「どう考えてもリソース不足だ。」

「リソース?」

「ようは人手不足ってことだよ、賢。」

根付が先ほど商談をしていたのは今後スポンサーになってくれそうな企業の重役達だった。
アメリカやヨーロッパに支社を持つグローバルな会社で今後金銭面でも技術面でも積極的に提携をしていこうと話はうまい方向にまとまったらしい。
それはとてもボーダーにとって喜ばしいことだ。

だがボーダーは三門市が母体になっており、職員も地元の人間が多い。
はっきり言ってグローバルに対応できるような人材は不足している。
特に今回根付が困っているのがその企業との橋渡しになれるような人材がいないことだった。

「通訳も雇って、専門の人間も雇ってとなると今から求人を行なっても時間もかかるし、費用もかかるし。新しい人間がたくさん増えるとコミュニケーションも不安だし。」

根付としては今回のこの案件はつつがなく事を進めたい様子だった。
普段ならそんなにいい商談が決まった時は両手をあげて喜んでいるのに。

そんな根付を見ていて嵐山はピンとあることを思いつく。

「根付さん、その欲しい人ってアルバイトとかでもいいんですか?」

「アルバイト?猫の手も借りたいぐらいですからね。この際雇用形態は問わないですよ。」

根付の言葉に嵐山は今回余程急を要する事態だと理解した。
そしてそれは嵐山にとって好都合だった。

「だったら…。」





「何でアリスがここにいんだよ。」

「えへへへー。」

数日後、ボーダーの女性職員の制服に身を包んだアリスが嵐山に連れられて諏訪の隊室にやってきた。
突然やってきた2人に諏訪は何とも形容しがたい表情をし、他の隊員はアリスを見て、あれは加古の写真の!と騒いでいる。

「ってか何で制服着てんだよ。」

「どう似合う?」

アリスはそう言うとくるりとその場で回って見せた。
相変わらず諏訪の話は聞いていない。

「今ね、嵐山くんに基地の中案内してもらってるんだー。」

「そうかよ。」

そして一瞬の間をおいて。

「じゃなくて!俺の質問に答えろよ!」

諏訪は自分に突っ込むように声を荒げる。
アリスは首から提げた身分証を見せた。

「今日からここでアルバイトするのー!」

「はあ?!」

そんな話は聞いてないと諏訪はアリスに言いたかった。
だが自分はアリスの彼氏でも何でもないのだ。
そんなことを言う筋合いはない。
それに隊員達も見ている中でそれをしてしまうと後からからかわれるのは目に見えている。

「アルバイトってどこでだよ。食堂?」

「食堂で制服は着ないよ、洸ちゃん。」

諏訪の見当違いの言葉にアリスは笑う。
そして諏訪の後ろでは、ホントに洸ちゃんって呼ばれてる!と小佐野が騒いでいた。

「根付さんのところでちょっと人が足りなくて。」

嵐山は苦笑する。
やはり諏訪の許可を取ったほうが良かっただろうか。

先日の根付の話を聞いて、いい人材がいるかもと嵐山はアリスを紹介した。
根付がとりあえず半信半疑で概要書を嵐山に渡すと、嵐山は早速それをアリスに見せた。
仕事の内容ができそうだったのか、すぐにアリスは履歴書を用意してきた。
通訳・翻訳機能だけでもすぐに確保したかった根付はアリスの履歴書を見た時点で仮採用を決める。
その後一応面接をしたのだが、学生の割にはかなりしっかりしているアリスを気に入り、すぐにでも来て欲しいと根付のほうが打診した。

「アリスがアルバイト探してたので。」

「アリス?」

諏訪は眉根にシワを寄せた。
嵐山がアリスのことを名前で呼んでいる。

「向こうでは名前で呼ばれるのが当たり前だったから名前で呼んでほしいってアリスが。」

何か言いたそうな諏訪に一応名前で呼ぶようになった経緯を話すと諏訪はぶっきら棒に好きにしろと一言言った。
諏訪は複雑な思いがした。
アリスと嵐山は同い年なんだ。
仲良くなれば名前で呼び合うこともあるだろう。
それにアリスの言う通り、アメリカでは名前で呼ばれることが多かっただろうから別に他意がないのもわかっている。

だが複雑なものは複雑だ。

「諏訪さん、ヤキモチやいてる〜。」

「!!」

すると諏訪の背中からひょっこりと小佐野が顔を出して言った。
諏訪はぼっと顔が熱くなるのを感じた。

「馬鹿言ってんじゃねえ!っていうか、出てくるな、引っ込め、オサノ!」

「暴力反対〜。」

小佐野が悲鳴をあげる真似をすると、アリスがそれをかばった。

「洸ちゃん、こんなかわいい女の子をいじめないで!」

「いじめてねえ!これは俺の隊なりのスキンシップだ!」

「いや〜。」

小佐野はそう言うともといた場所へと戻っていった。
何しにきたのかと言えば、やはり諏訪をからかいにきただけだったのだろう。

「…アリス、何時に終わんだよ?」

「え?えーと。」

諏訪は早く話題を変えようとアリスに問うた。
アリスは首を傾げながら嵐山を見上げた。

「今日は基地の案内と、そのあとの根付さん達から仕事の説明で終わりだから2時間ぐらいかな?」

「だって!」

「そうかよ。」

それを聞いて諏訪は頭をガリガリ掻くと、アリスの頭にポンと手を置いた。

「夜遅えから一緒に帰るぞ。迎えに行くから勝手に帰んなよ。」

「!」

諏訪の言葉にアリスの顔はパァっと輝いた。

「うん、わかった!待ってる!」

「うわっ!馬鹿野郎!くっつくな!」

「ありがとう、洸ちゃーん。私頑張るね!」

アリスは好き勝手に諏訪に抱きついて、好き勝手に離れていくと、嵐山を引っ張って好き勝手にその場を去った。

諏訪は盛大にため息をつく。
これから自分の周りは想像以上に騒々しくなりそうだ。
とりあえず後ろで自分をからかいたくてウズウズしている隊員達に喝を入れてやろうかと、諏訪は1人頷くのだった。










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2018.11.13
諏訪さん連載4話目更新です。
このあとめちゃくちゃにからかわれる諏訪さんが見える。


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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