断じて違う デートなんかじゃねえ 「洸ちゃっ!、お待、たせ!」 「おう。」 アリスと再会して3日目。 二人は三門駅で待ち合わせをしていた。 「ごめん、なさい、この辺すっか、り変わっちゃって、て。」 「10年以上ぶりなんだから仕方ねえさ。」 アリスは走って来たのか肩で息をしておりそれを整えるのに必死の様子だった。 時計を見れば10時52分。 待ち合わせは10時30分だったので、迷子になってしまい、遅刻したことに慌てていたのだろう。 「駅綺麗になってるねー!」 ようやく呼吸が整ったアリスは駅を見上げる。 昔はこんな立派な門構えではなかったが、大規模侵攻時に多少のダメージを受けたため、それを機に近代的なものに建て替えられたのだ。 「ショッピングモールはどんなところ?」 今日二人が待ち合わせをしたのは、アリスの家の家具や日用品を買いに行くためだった。 アメリカから引っ越しで持ち込むには高くつくので、食器やら何やらの日用品は引っ越してから買おうと決めていたらしい。 だが引っ越し自体がギリギリになってしまい、実は大学生活が既に始まってしまった今でも家に必要なものはないし、自分の荷物も片付いていないという状況だった。 昨日、諏訪は隊員や風間に一頻りからかわれた後、無事に防衛任務を終えるとアリスの家を訪ねた。 カフェで話した時に荷物が全く手付かずであることを聞いていたからだ。 そこで訪ねると家は空っぽでとりあえずマットレスと布団が一式あるぐらいだった。 これは予想以上に何もないと問いただすと実は備品だけではなくて家具もこちらで用意するつもりだったとのこと。 だがいくら引っ越しでギリギリになったとは言え、これは酷すぎると更に諏訪が問いただすと、10年以上振りなのでどこに何があるかわからず出かける勇気がなかったとアリスは白状した。 ああ、そうだ。アリスは一人で出かけたりすると迷子になったりいろいろするから一人で出かけるの苦手だったな、と、そこで初めて諏訪はそのことを思い出した。 というわけで、本日ショッピングモールへ買い物へ行くことになったのだ。 「どんなところって言われてもなあ。まあとりあえず行くぞ。」 「はーい!」 「?!」 アリスは元気よく諏訪の腕に飛びついた。 諏訪はまさかそんなことをされると思っていなかったので慌てる。 「ばっ、くっつくな!」 「え?何で?」 「何でってお前…。」 付き合ってるわけじゃないんだから、と言えたらどんなに楽だったか。 いや、諏訪からしたら腕を組むという恋人のような絡み方は大歓迎だが、それを言うと自分ばかりが意識しているようで何だか虚しくなりそうな、そんな感じがした。 「迷子になったら困る。」 そう言って眉をハの字にして困った顔をされては、面倒見のいい諏訪としては断れない。 「…じゃあ、くっついてろ。」 「うん、くっついとくー!」 アリスはこれでもかというぐらい諏訪に擦り寄る。 諏訪としてはやはり複雑だが、迷子になられるのも実際問題として困るのでそのままアリスを腕にくっつけてショッピングモールへと歩き出した。 「やっぱり家具は買ってからが長いよね。」 「そうだな。」 諏訪とアリスはモール内にある家具屋や家電店を見てあらかた買うものを決めた。 「家電も時間かかるのは、まあ仕方ないよね。時期が時期だもん。」 アリスははあとため息をついた。 ベッドや本棚など家具はなくても問題はないが、冷蔵庫や電子レンジなど家電も配送に時間がかかるという。 春の学校入学、新社会人入社、年度始めの転勤などなど、この時期は大変混雑がありどうしても配送には時間がかかるとのこと。 その間不便だなとアリスはため息をつくが、そこは買いに来るのが遅くなった自分のせいなので自業自得である。 「まあその点は心配するな。」 諏訪がそう言った時ちょうど端末が鳴った。 「おう、今家電んとこ。ああ、宜しく。」 手短に電話を切る諏訪を、アリスは首を傾げて見上げた。 「助っ人呼んでるから安心しろ。」 「助っ人?」 「いいからいいから。とりあえず買うぞ。」 「あ、ちょっと、洸ちゃん!」 諏訪とアリスは先ほどアリスが選んだ家電を購入すると、宅配の手配をせずに店舗から台車を借りて家電を駐車場に移動させる。 さすがに一度に運べないので諏訪が何往復かしたが、問題なかった。 「洸ちゃん、どうしたの?顔赤くない?」 「何でもねえよ。」 荷物を全て運び台車を店舗に戻し終えた諏訪は何やら戻ってきた時、不機嫌そうに顔を赤くしていた。 それを不思議に思い、アリスは尋ねるが、やはりというか諏訪は何でもないと突っぱねるだけだった。 (あの店員っ!余計なこと言いやがって!!) 諏訪はすぐ側にあった喫煙所に入るとポケットからタバコを出して乱暴に火をつけた。 (なーにが、可愛い彼女さんのためにお疲れ様でした、だ!彼女じゃねえっつーの!) 諏訪は怒りに身を任せてタバコをすごい勢いで吸う。 いや、諏訪は怒りだと思っているようだが、これは単なる照れである。 残念ながらそのことを諏訪に教えてあげられる人間は側にはいなかった。 諏訪は喫煙所の中から大荷物に囲まれたアリスを見る。 大人になって可愛くなった。ただそれだけが頭の中を回っていた。 そして先程大変な勘違いを言ってくれた店員の言葉がまた頭に浮かび、ブンブンと頭を振る。 (あー、クソッ!) 諏訪はタバコの火を消すとアリスのところへ戻った。 ちょうどその時小型トラックと乗用車が諏訪とアリスの前に止まった。 「遅くなったな。」 「木崎先輩!風間先輩!嵐山くんに柿崎くんも!」 運転席に座っていたのは先日諏訪がアリスに再会した時に居合わせた面々だった。 トラックを運転してきたのは木崎。乗用車を運転してきたのは風間だった。 「遅えよ。」 「悪いな。案外道が混んでて。」 怒ったようにプイッと顔を背ける諏訪に、木崎は表情を変えずに言った。 アリスはわけがわからず木崎達を見た。 「諏訪から聞いてないのか?」 「あ、はい。」 「家電はすぐにないと不便だろうから俺達で運ぶんだ!」 「ええ!そうなの!?嵐山くん!」 アリスは驚いて諏訪を振り返った。 「助っ人呼んでるって言っただろ。」 「そうだけど、何だか悪いよ。」 「いーのいーの。」 諏訪はアリスを適当にあしらうととりあえず木崎と柿崎を呼ぶ。 この面子の中でも特に体力がありそうな二人だ。 「風間、お前はちっせーんだから向こう行ってろ。」 「そうする、洸ちゃん。」 「!! 風間、テッメエ!!」 「よせ、諏訪。風間の相手をしていたら日が暮れるぞ。」 相変わらず小馬鹿にしてくる風間を思う存分ボコボコにしたいが、 たしかに木崎の言う通り相手にしていると時間がかかる。 諏訪は仕方なくといった様子で持ち場に戻ると木崎達と荷物をトラックに積み込んだ 「今日はありがとうございました。」 トラックに荷物を積み込んだ後、一行は車でアリスの家を目指した。 木崎を先頭に嵐山と柿崎がよく働き、日が暮れる頃までに運んできた家電の設置は終わった。 これで買い物したものを冷蔵庫に入れられるとアリスは皆に深々と頭を下げた。 「ピザ取ったからよ。今日はお前ら食ってけよ。」 台所は使えるので料理を作って振る舞いたいところだが、今から作っていたのでは遅くなってしまう。 アリスが木崎達にお礼に晩御飯をご馳走したいといった時、諏訪はもちろんそんなことは気にするなと言ったが、アリスはどうしてもと納得しなかった。 こういうところが変に真面目なのも昔からだ。 「すまんな、諏訪。桐島さん。」 「風間、てめえはほとんど何もしてねえだろ。」 ああ、疲れた。と言うように座ってくつろぐ風間に諏訪は怒りで拳が震えた。 だが深呼吸して気持ちを落ち着けると風間から車のキーを取り上げた。 「飲み物買ってくる。ちょっと休んでろ。お前ら。」 「あ、待って、洸ちゃん!私も行く!」 アリスは諏訪を追いかけた。 諏訪は風間が乗ってきた車に乗り込むと、メガネを取り出してかける。 そうして車のキーを入れて慣れた手付きで車を動かした。 アリスはそれを黙って見ていた。 「…何だよ。」 家を出た時から、いや、車に乗り込んだ時からアリスは諏訪のことを穴が開くのではないかというぐらいに見つめていた。 ようやく赤信号で停まった時、諏訪は助手席に座っているアリスの視線が痛すぎて前を向いたままアリスに問う。 「車運転している洸ちゃん、カッコイイね。」 するとアリスは恥ずかしげもなくこう言うのだ。 「!!」 「メガネしてるのも何だか新鮮。カッコイイね。」 「ばっ!おまっ!当たり前だろ!俺だぞ!」 諏訪が焦ったようにそう返事した時、信号が青に変わって諏訪はアクセルを踏み込んだ。 「…お前な、そういうの軽々しく言うなよな。」 「洸ちゃんにしか言わないよ?」 ああ言えばこう言うとはこのことか。 諏訪は何を言っても今は自分の心拍数が上がるだけだと諦める。 時刻は夕暮れ時。 不自然なぐらいに赤い顔は何とか夕日の反射だとごまかした諏訪であった。 Prev | Next ******************************* 2018.11.10 諏訪さん連載3話目更新です。 ウチの風間さんはいい立ち回りしてくれます、ありがたや。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |