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わかっているつもりだった





欲しいものは





「あれ、二宮さん。どうしてまだいるんですか?」

その日俺は先日の報告書のまとめ作業を隊室でしていた。
別に期限が間近だったというわけではない。
だが、明日は大学のほうへ行かないといけないため、どうしても今日中に終わらせておきたかった。

夜も遅くなって、静かになった隊室でカタカタとキーボードを叩いていると、隊員の犬飼がやってきた。
何時間か前に既に帰宅していたはずだが、まだ隊服でいることからランク戦でもしていたのがうかがえる。
ここには忘れ物でも取りに来たのだろう。

「今日中に片したい書類があってな。」

そう言うと犬飼は顔を青くした。

「いやいや、まさか俺らが帰ってからもずっとやっていたわけじゃないですよね?」

「?そうだが?」

そう返事をすると犬飼はますます顔を青くした。
大股で俺に近づいてくると、パソコンの画面を覗き込む。
そして俺からキーボードとマウスを取り上げると、一応開いていた書類を上書き保存してから思い切り画面を閉じた。

「おい、何をする。」

「何をする、じゃないでしょ、あんた!きょうアリスさんの誕生日でしょ?!」

犬飼は怒った様子でそう言う。
俺はそれにため息をついた。

「アリスには今日は帰れないと言ってある。」

「言ってればいいってもんじゃないんです!」

犬飼は俺に何か伝えようとしていたが、それが伝わらなくもどかしそうな態度を取った。

アリスというのは俺の恋人だ。
年は同じ20歳で今は同棲している。
ボーダーではないが、犬飼達とは面識もあってそれなりに交流があった。

今日はそんなアリスの誕生日だ。
もちろん俺はそれも重々承知だ。
だが、今日この書類を片したいと言うと、アリスは何も言わずに頑張れと声をかけてくれた。
だからアリスも誕生日を一緒に祝えないのは仕方ないと承知してくれたと思っていた。

「んなわけないでしょ!アリスさんだって女の子なんですよ!本当は二宮さんに、今日!祝ってほしいに決まってるじゃないですか!」

「何?いや、だがアリスは…。」

「アリスさんは二宮さんの言葉にはうんって言っちゃうんです!今頃家で泣きながらチョコレートケーキ食べてますよ!!」

俺はそう言われて、今日家を出た時に見たアリスの顔を思い出した。
どことなく寂しそうな顔、悲しそうな声。
誕生日を祝えないことを残念がっているのはわかったが、本当は祝ってほしいと思っているなんてつゆほどにも思わなかった。

「女の子っていうのは好きな人のためにいろいろと我慢しちゃうことがあるんです!って姉貴達が言ってました!!」

そこまで一息で言った犬飼は肩で息をしていた。
そして犬飼は俺を席から追い出すと自分がその椅子に座った。

「俺だってデスクワークぐらいできますし。」

そう言ってパソコンを開いて、俺がやっていた作業の続きをやり始めた。
俺はコートを手に取って出口へ向かう。

「すまん、犬飼。」

「イイっすよ。早く行ってください。」

俺は急いで家へと向かった。





「アリス!」

俺は思い切りドアを開けて、靴を脱ぎ散らかすとそのままリビングへと向かった。

「二宮くん?」

そこには犬飼の言う通り、コンビニで買ったチョコレートケーキと向かい合う涙目のアリスがいた。
俺はものすごく胸が締め付けられる思いがした。

「な、何で?!あ、これはえっと、コンビニに行ったらちょうど20%オフのシールが貼ってあってそれで!」

アリスは慌ててテーブルの上のチョコレートケーキを隠して、目をゴシゴシと乱暴に擦った。
値引きのシールなんて嘘だと言うのはさすがに俺でもわかった。
そんな偶然買ったものにご丁寧にろうそくを立てて明かりを灯す奴はいないだろう。
それに擦ったって目から涙が溢れているんだ、誤魔化せるはずがないだろう。

「アリス。」

「ま、待って、今ダメ!ちょっと待って。」

俺が近づこうとするとアリスは全力で拒否した。
涙が止まらないからだろう。

「もう少し、だけ、ふっ。えっ。」

アリスは俺に背を向けて顔を見られないように精一杯隠そうとしていた。
だが止めようとすればするほど、涙は止まらず震える背中からは泣き声だけが漏れ出していた。

ああ、俺はなんて馬鹿なんだ。
知らない内にこんなにもアリスを傷つけていただなんて。

「アリス、すまない。」

俺はアリスを後ろから抱きしめた。

「俺が馬鹿だった。」

アリスは物分かりがいい。
俺のボーダーでの活動についても理解してくれて、俺がすること、言うことは何でも許してくれた。
俺は何一つアリスの言うことも叶えてやれていないのに、それでもアリスは俺の願いを叶えてくれた。

「何で帰ってきちゃうのよぉ!」

アリスは俺の腕にしがみついて遂に泣き出してしまった。

「せっかく我慢してたのにぃ!」

わんわんと声を上げて泣き出すアリス。
こんなアリスを見たことがない俺は当然慌てた。
いや、今までだってこんな風にもしかしたら泣いていたのかもしれない。
そう思うとやりきれない。

「犬飼に言われて飛んで帰ってきた。俺が馬鹿だった、許してくれ。」

俺はアリスを自分のほうに向ける。
だがアリスは泣き顔を見られたくないのか、下を向いた。

「俺から頼む。お前の誕生日を祝わせてくれ。プレゼントは何でも用意してやる、言ってみろ。」

そう言って顔を覗き込んで見れば、上目遣いでこちらを見ているアリスと目が合った。

「本当に何でもくれる?」

「ああ、約束する。何が欲しい?言ってみろ。」

俺がそう言うとアリスは顔をようやくあげた。
少し言うのを迷っておるような、恥ずかしそうに顔を赤くするとこう言った。

「…くんが欲しい。」

「え?」

「二宮くんと一日中一緒にいられる日が欲しい。」

そう言って照れ隠しなのか、アリスは俺に抱きついてきた。
こんな可愛いアリスの願いを俺が叶えないはずがない。

「わかった、約束する。日にちを決めるぞ。その日はお前とずっと一緒にいる。」

「約束よ?」

俺が是と答えると、アリスは満面の笑みで俺を見上げた。

「アリス、誕生日おめでとう。」

「ん。」

そう言ってキスを1つ、アリスの唇に落とす。

「さて。」

「きゃっ!」

そして俺はアリスを抱き上げて寝室に向かう。
寝室に向かっていることがわかったアリスは俺の腕の中で慌てた。

「に、二宮くん?!もう寝るの?!」

「俺が欲しいと言ったのはお前だろう?」

俺がそうやって不敵に笑って見せると、アリスは俺の腕から今度は逃げようとする。

「あ、あれはそういう意味じゃなっ!」

「俺はそういう意味にも受け取った。」

「ちょっと待っ、んっ!」

翌日俺は大学に行かずにアリスとずっと一緒にいた。

単位の1個や2個取り返すことは俺にとっては造作もない。

それよりもこのアリスという生き物を理解するほうがずっと難しいのだ。

時間をかけて調べるのは当然だよな?










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2018.11.07
20,000打企画、美鶴様からのリクエストです。
二宮さんで同い年従順甘々というリクエストでした。
お待たせしてすみませんでした。

従順ってこんなだっけ?






※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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