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再会をよろこぶべきか





勘弁してくれ





「で、お前、何でこんなところにいんだよ。」

諏訪はとりあえず先ほどまでいたカフェに戻ってきてアリスと向かい合う。

「このカフェオレおいしいねえ。」

「話聞けよ。」

アリスは諏訪が買ってやったカフェオレを飲んで満足そうにニコニコしていた。
諏訪はふぅとため息をつく。
このかんじ。昔と何も変わっていない。
どこまでもマイペースなかんじが、とても懐かしい。

「親父さん達元気なのか?」

「うん、元気だよー。」

アリスは顔をカップに埋めたまま返事をした。
諏訪はそうか、とだけ呟く。

(にしても、可愛くなったな。)

諏訪はボーッと目の前に座るアリスを見る。

家が近所だった諏訪とアリスは年は少しだけ開いてるものの、よく遊んだ。
すぐに泣くアリスをまだ小さな背に背負い、家まで帰ったのも今ではいい思い出だ。
つい先ほどまで全く覚えてもいなかったのに、不思議なことにアリスに会った途端にどんどん記憶が蘇ってくる。

「一緒に帰ってきてるのか?」

「ううん、一人で帰ってきたの。おじいちゃんの家に住んでるよ。」

「あんな広い家に一人で住んでんのか?」

「うん!」

アリスの祖父はまだアリスが三門市にいた頃に亡くなった。
祖母もその前にすでに亡くなっていたので、その家に住む者はいない。
諏訪も幼い頃はアリスと一緒によく遊びに行き、広い家と庭を使って鬼ごっこやかくれんぼに興じたものだ。

「家賃かからないから超お得なの!」

「なるほどな。」

「洸ちゃんは?」

「俺は一人暮らしだ。」

それからしばらく二人はポツポツとお互いの話をした。

アリスはこの春から三門大学に入学。
先ほど言ったとおり、三門市に残してあった祖父の家に住んでいる。
思い出の家を売却するのも惜しいという理由もあるが、ネイバーの第一回大規模侵攻以降境界の後、防衛ラインのすぐ沿いにあることもあり、売ろうにも買い手がつかずずっと空き家のままだったらしい。
今では業者に頼んで一年に一度手入れをしてもらうぐらいだという。

「そういえば、さっきの嵐山くんってボーダー?の人で三門市では有名なんでしょ?そんな有名な人と知り合いだなんて洸ちゃんすごいね。」

「まあ、俺もボーダーだからな。」

「えぇっ?!そうなの?!ボーダーって三門市を守ってる組織だよね!?」

諏訪がコーヒーをすすってそう言うと、アリスは大層驚いた顔をした。
アリスがいた頃はもう10年以上前だ。
その頃はもちろん三門市にはボーダーなんてない。
それでもアリスはボーダーがどんな組織かということを一応理解している様子だった。

「え、じゃあ洸ちゃんは三門市を守ってるんだ!すごい!正義の味方だあ!!」

アリスは目を輝かせて諏訪を手放しに褒め称えた。
こんなカフェのど真ん中で大声で正義の味方だなんて言われるとさすがに気恥ずかしい。

「あんま大声で言うな、恥ずいだろ。」

「えー?何でー?かっこいいのに、正義の味方。」

アリスは首を傾げて言う。

「洸ちゃんにぴったりだね。」

そう言ってまたアリスが笑うので諏訪は反論できなかった。

「でも洸ちゃんにまた会えて嬉しいなあ。だって洸ちゃんってば手紙全然返事くれないんだもん。」

「あーそれな。」

諏訪は痛いところを突かれたと、バツが悪そうに頬を掻きながら視線を外す。
アリスはと言うと少し頬を膨らませて、こう言った。

「いいですよーっだ。どうせ封も切らずに捨てちゃったんでしょ?洸ちゃんそういうとこあるもんねー!」

「あー、悪かったよ、悪かった。手紙とか苦手なんだよ。」

諏訪が今度は頭をかきながら不貞腐れたような顔で謝るとアリスは怒るどころかクスリと笑った。

「洸ちゃんらしいね。」






「諏訪さーん!」

「彼女できたのおめでとー!」

翌日ボーダーの自隊の隊室を訪れた諏訪に向かって勢いよくクラッカーが鳴らされ、隊員達から祝辞が送られた。

「あ?」

諏訪は訳がわからないと言った顔をして、自分のことをキラキラと見つめる隊員達を見回す。

「諏訪さんと付き合うとか物好き〜。」

「オサノ先輩、失礼ですよ!」

勝手に盛り上げる年下の隊員達を怪訝な顔で見る。
さっきから本当に何を言っているんだ、こいつらは。
諏訪はため息をつき、頭に手をやる。

「待て待て待て。誰に彼女ができたって?」

心当たりがないといえば嘘になる。
十中八九アリスのことだろう。
だが、昨日アリスに会ったのは風間、木崎、嵐山、柿崎の4人だ。
この4人は間違っても言いふらすようなキャラではない。
だとするとアリスとカフェにいるところを誰かに目撃された可能性が高い。

「え?違うんですか?」

諏訪の態度にようやく冷静になる隊員達。
お互い顔を見合わせた後、視線は諏訪の次に年長の堤に集まった。

「堤、お前ぇ…。」

「いやいや!加古ちゃんから写真が送られてきて!」

堤は慌てて端末を取り出して写真を何枚か見せる。
それは思った通り昨日諏訪とアリスがカフェで話をしている時の写真だった。

「加古のやつ…。」

諏訪が一つ下の女性隊員を思い浮かべると、ニヤニヤしながら写真を撮っている姿がありありと思い浮かんだ。

「はーい、諏訪さーん!彼女の話聞きに来ましたよー!」

と、突然隊室の扉が開き入ってきたのは今しがた話に登場していた加古隊隊長、加古 望、その人だった。
るんるんとした様子で入ってきた加古は、堤が出していた写真を見とめて詰め寄った。

「あ、ほらこれ!すごくよく撮れてるでしょ!」

「でしょ!じゃねえ!一体いつ撮りやがった!っていうか彼女じゃねえ!」

自分の撮った写真の出来栄えに惚れ惚れする加古に諏訪は掴みかかる勢いだ。
そんな様子の諏訪に加古は首をかしげる。

「えっ、だってこんなに優しい顔して話してたじゃないですか。」

そう言って今度は加古が自分の端末をかざし、皆に見せる。
そこには諏訪がアップ気味に写った写真が表示されていた。
その表情は加古の言う通り、普段の諏訪からは到底考えられないほど優しい表情をしていた。

「うわー、ホントだ!すごく優しい顔してる!」

「諏訪さんじゃないみたい〜]!」

「ばっ、加古!消せ!すぐに消せ!!」

「嫌でーす!話聞かせてくれるまで消しませーん!」

諏訪は頬を少し赤くして加古の端末を取り上げようと手を伸ばした。
加古はひらりとそれをかわして捕まらない。
だが加古が端末を高く上げると、後ろからほいっと他の誰かに取られた。

「諏訪さん、何で彼女作ったんだよ!約束が違うじゃん!」

そう言って加古の背後から端末を取り上げたのは太刀川だった。
諏訪はまた面倒なのが来たと頭を抱える。

「前飲んだ時、彼女作る時は一緒になって約束したじゃないですか!忘れた!?」

「太刀川くん、端末返してよ!」

「ちょ、ちょっと二人ともその辺で…。」

急に騒がしくなった諏訪隊隊室。
もともと諏訪隊の隊室には麻雀卓などがあり、人の出入りも多く、活気がある。
だがそれを軽く凌駕するほどに今の場は騒々しかった。
諏訪は頭痛がする思いがした。

「お前達、そのへんにしておけ。」

そこへまた扉が開いて人が入って来た。
風間だ。

「加古、あまり諏訪をからかうな。写真は消してやれ。太刀川は少し落ち着け。」

「はーい。風間さんがそう言うなら。」

「落ち着けないよー、風間さん。諏訪さんが、諏訪さんが…。」

風間が短くそう言うと、二人はたちまち大人しくなり、加古は素直に写真を削除し、太刀川は風間の背後に回り込み、自分の頭を風間の頭の上に乗せて静々と泣いた。

「あー。風間、助かったわ。」

「気にするな、洸ちゃん。おっと間違えた。」

風間はしまったという風に口元を手で抑えた。
諏訪は素直に風間に礼を言った自分に腹が立った。
結局風間も諏訪をからかいに来たことには違いなかったからだ。

「えっ?!諏訪さん、洸ちゃんって呼ばれてるんですか?!」

「似合わん〜!」

「だー、うっせえ!お前ら散れ!散れぇ!!」

諏訪は隊室から全員追い出すと、内側から鍵をかけた。
扉の外では初めこそざわざわしていたが、風間が今度こそ本当に皆を諭したのか、その内気配は消えた。

「っ。あんな顔してたのかよ。」

諏訪は先ほどの加古の写真を思い出す。

『諏訪さんじゃないみたい〜!』

小佐野がそう言っていた。
自分でもそう思うと諏訪は片手で顔を覆う。
あんな風に笑った自分の顔など見たこともない。
諏訪はアリスの顔を思い浮かべた。
心の中がふわりと温かくなるような、そんな穏やかな気持ちになる。

「はー。マジかよ。」

これは多分アリスのことをまた好きになってしまったのだろうと自覚できるだけ、諏訪はまだ冷静だった。










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2018.11.08
諏訪さん連載早速2話目更新です。
ウチの風間さんは完全にギャグ要員な気がします。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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