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「今日こそは。」





負けられない闘い ver.荒船隊





「先輩ら飽きないなぁ。」

土曜日の午後。ボーダー基地の一角にある狙撃訓練場。
半崎はとある光景を見ながら一人ごちた。
半崎だけではない。
訓練場で訓練をしている大抵の隊員がそのとある光景を見て苦笑する。

三人の狙撃手が銃を片手に円になっている。
その纏う空気がただ事ではないと周りに告げている。
誰も何も喋らない。ただ睨み合っている状況だ。

「悪いですけど。」

その中に立つ唯一の女性が口を開く。

「今日こそは勝たせてもらいます!」

ガシャリと音を立てながら愛銃を抱え直す。
だがそれを嘲笑うように他の2人が笑う。

「はっ、アリス。本気かよ。」

「俺だ、勝つのは!」

そうやって同じように銃を構えるのは上から荒船、穂刈の2人だ。
初めに口を開いたのは桐島 アリス。
荒船隊の女性狙撃手だ。
ボーダーに入ったのは他の2人より遅く、一番後輩と言うことになるのだが、
弛まぬ努力の結果、2人に何とか追いついてきている。

「なあなあ、半崎!」

「佐鳥。」

「今日は誰が勝つと思う?」

欠伸をしながら3人の行く末を見ていた半崎に話しかけて来たのは、嵐山隊の狙撃手、佐鳥だった。
佐鳥もこの光景はもう見慣れているらしく、何も突っ込まない。
それどころか誰が勝つかを予想して楽しんでいる様子だ。

「俺は、今日こそアリスが勝つと思う!」

そう誰もがこの3人のバトルを苦笑しながらも楽しんでいる。
これが始まってからもう3週間だ。
一日バトルは一回。計21回行われている。
今日は22回目だ。
一体何の目的であんな訓練をしているのか、一体いつまで続くのか。
それはここにいる誰も知らない。

「今日は荒船さんじゃないかな。」

そう、半崎以外は。





ことの起こりは3週間前。
訓練終わりの作戦室でのこと。

「アリス、大分上達したな。」

「すごいな、お前。」

「ふふん、当然てすよ!」

日々の弛まぬ努力でアリスの実力は、荒船や穂刈にぐんぐん近づいてきた。
そんなアリスを先輩として褒める荒船と穂刈。

ここまではよかった。

「先輩達なんてすーぐ抜かしちゃいますから。」

これがいけなかった。

「「それはない。」」

この後もいけなかった。

「何でですか!」

荒船と穂刈は大人気もなくアリスの言葉にカチンと来たのか、自分達が抜かされることなんて永遠にないと言い張る。
(半崎はこの時点で話の輪から離脱)
それにまた負けず嫌いのアリスが食ってかかる。

「先輩達なんてあと1ヶ月もあれば楽勝です!」

「言いやがったな。」

「言いやがりました!」

アリスは一歩も引かず、荒船と穂刈も一歩も引かない。
ついには話が大きくなり。

「じゃあ、俺たちから1ヶ月以内に1勝でもしてみろ。」

「勝負だ、毎日3人で。」

「いいですよ!私が1勝でもしたら東さんの前で認めてもらいますから!それでいっぱい私のこと褒めてもらいますから!」

狙撃の師匠の前で、後輩であるアリスを褒めちぎらなければならないなど、荒船と穂刈にとってはあまりしたくない行動だ。
しかも褒めて褒めて褒めちぎらなければいけないとのこと。

「じゃあお前が1勝もできなかったらどうする?」

荒船はこの時ちょっとした意地悪で言ったつもりだっただろう。
だがここでアリスがとんでもないことを言ってしまう。

「私が1勝もできなかったら2人の内勝った数が多い先輩の言うこと何でもきいてあげますよ!!」

それを聞いた瞬間荒船と穂刈の目の色が変わったことを半崎は見逃さない。

(アリス、馬鹿やったなー。)

半崎は荒船と穂刈の考えていることが手に取るようにわかった。

(勝った方の…)

(言うことを聞く、何でも…)

2人は目の前の自信満々のアリスを見る。
ついで2人で顔を見合わせる。

((絶対勝ってアリスとデートする!!!))

この瞬間、荒船と穂刈の間にも争う理由ができた。

荒船と穂刈。
この2人は仲の良い友であり、仲間であるのだが、
こと恋を中心に考えるとライバル関係になる。
そう、2人ともアリスが好きなのだ。

可愛がるのも厳しくするのも、ついでにちょっかいを出すのも、単にアリスが好きだから。
と言うのは半崎や加賀美が見ていると一目瞭然なのだが、本人達はバレてないと思っているし、アリスは全く気がついていない。

「いいぞ、アリス。その勝負乗った。」

「かくなよ、吠え面。後で。」

「先輩達こそ途中で待ったは聞いてあげないですからね!!」





そしてこの訓練に戻る。

「いやでもお前の隊ってすごいよな。
訓練であんなに真剣にできるなんて!
やっぱりガチの勝負形式にしてるのがいいのかなー!」

そんな能天気なことを言うのは佐鳥。
東も先日この様子を見て弟子の成長を喜んでいた。
半崎としてもそんな目線で彼らを見ることができたらどんなによかっただろうか。
だが経緯を知ってしまっているがゆえに、半崎には、

(やばいやばい、先輩達強すぎ!どうしよう、何させられるの?!土下座?3回回ってワン?それともそれとも…あー、ダメ!考えちゃダメよ、アリス!あたしは1回でも勝てればいいんだもん!!まだ日はある!!)

(ちょうど気になっている映画があるんだ。アリスと映画デート。穂刈には負けん!!)

(行くぞ、アリスと。地元の祭り!!見たい、浴衣姿のアリス!!)

と見えている。
これがなければ半崎も素直に俺の隊すげえとなれたのに。

はぁ、と半崎が溜息をつくのと同時に試合が終わった。
結果は半崎の予想通り荒船の勝利。
膝をついて地に伏すアリスと悔しがる穂刈の姿ももう見慣れてきた。
今日で22試合終了。
結果は11-11-0で、荒船と穂刈の引き分け状態だ。

「まだまだだな、アリス。」

「がんばれ。あるぞ、あと11日。」

と励ましたりする荒船と穂刈の白々しさこの上ない。

「明日には絶対勝ちます!褒め言葉いっぱい調べといてくださいね!!!」

アリスが涙目になりながら訴えると、2人が頭をそれぞれポンポンと叩く。

「ああ、そうするそうする。」

「用意してある、もう既に。」

それはそれで本当なのだろう。
アリスを見る荒船と穂刈の目はとても優しかった。

「さて、と。じゃあ行くわ、佐鳥。またな。」

「あ、おう!」

立ち上がって半崎は3人に近づく。

「アリスもういいでしょ。先輩ら、そろそろ俺の訓練見てくださいよ。」

「義人、こうたーい。」

「待たせたな、半崎。」

「フォームの確認だったな。」

勝負が終わると半崎の特訓タイムが始まるのだ。
これもまた見慣れた光景である。






3人の負けられない戦いはまだ続く。
誰が勝つかはまだ誰にもわからない。









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2015.4.08
ホントに荒船隊は超仲良しを希望。
半崎使いやすいです。
2015.4.28
半崎が佐鳥の先輩設定になっていたので、同い年設定に直しました。すみません。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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