春、それは出会いの季節。 いきなりかよ 今日は三門大学の入学式の日。 スーツに身を包んだ男女達がそわそわと学内を行き来している。 春風の吹く爽やかな陽気の中、彼ら、新入生はこれから始まる大学生活に心躍らせていた。 「あー、今日入学式だったな。」 「そうだな。」 そんな中、学内のカフェでレポートをしていたのは諏訪、風間、木崎だった。 彼らは三門市にある界境防衛部隊ボーダーに所属しており、日々ネイバーフットからの侵略者と闘っている。 「あ!ってことは嵐山とか柿崎とかいるのか!見に行こうぜ、風間!レイジ!」 諏訪はそう言って立ち上がったが、呼ばれた二人はと言うと、顔を上げることもせずにレポートに向かっていた。 「お前、これの提出期限覚えてるか?」 「謹慎になっても知らんぞ。」 風間達が今やっているレポートはボーダー任務で抜けた分を穴埋めするための課題だ。 折角の春休みだと言うのに、これでもかと言うぐらい大学側はレポートを提示してきた。 だがこれは提携しているからこその大学側の譲歩であり、ボーダー隊員としてやっていくためには謹んで受けなければならないありがたい課題なのだ。 「けっ。つまんねえの。」 諏訪ははあとタバコの煙を吐き出すと、席に座りなおした。 この春からこの三門大学に入学するボーダー隊員も多数いる。 晴れ姿を見てからかって…祝ってやろうという気はないのかと諏訪は不服そうだ。 「嵐山達にはここにいること言ってあるからその内来るだろ。」 「先に言えよ、筋肉ゴリラ!」 だがそこは木崎と風間が先に連絡をつけていたようで、嵐山達と合流することになっていることを初めて知る諏訪。 何で教えてくれないんだよ!と詰め寄れば、うるさいからだと風間に一蹴される。 「あ、いたいた。風間さーん!」 そこへ話に出ていた嵐山達が他の新入生と同様にスーツを着て現れた。 風間達は入学のお祝いを口にすると、とりあえずのお祝いということでカフェのコーヒーを嵐山達に振る舞った。 「嵐山ぁ、新入生にかわいい子いなかったか?」 何とも集中力のない諏訪は、レポートそっちのけで嵐山にそんなことを問うた。 嵐山は苦笑する。 「緊張してたんでそんなの見てないですよ。」 「嵐山、代表挨拶だったもんな。」 そう、嵐山は入学式で新入生代表挨拶を任されていた。 別に主席で入学したわけではないが、嵐山はボーダー広報部隊で活躍している、三門市ではアイドルのようなものだ。 だから大学側が話題集めのために嵐山に是非とお願いしてきたのだった。 もちろん断りたかったが、上層部の根付にやりなさいと言われれば、悲しいかなやはり断れない部分もある。 普段の広報の仕事では全然緊張しないが、今日はさすがに緊張したようだ。 「というか、お前よく抜けてこれたな。ファンとかおっかけいたんじゃねえの?」 と言うのはまた諏訪だ。 確かに嵐山にはファンも多く、今日の入学式ではテレビ局のカメラなども入っていた。 入学式が終われば当然もみくちゃにされるはず。 「そこは柿崎が助けてくれたので。」 そう言って嵐山は隣に座る元同隊の柿崎の肩を組む。 柿崎ははあとため息をついた。 「すごかったですよ、ホントに。」 入学式が終わって外に出ようとしたところ、嵐山はたしかにあっという間にカメラやファンの女の子に囲まれた。 カメラへの対応は大事だが、ある程度した後柿崎が無理矢理輪に入って嵐山を助け出した。 ファンを大切にするのも大事なことだが、こうもみくちゃにされては嵐山が不憫だ。 「いいなー、嵐山。俺も広報やろうかな。」 「お前は外見的に無理だろ。」 「どういう意味だよ、レイジ!」 「爽やかとかそういうの無縁だからな。」 「もっぺん言ってみろ、風間!」 相変わらずの騒がしさだと風間は耳を塞ぎたくなる。 それでもこうやって一緒にいるのはやはり同い年で気が合うからなのだが。 「そろそろレポートも区切りがつく。大学内でも案内してやろう。」 「ホントですか、風間さん!」 「ありがとうございまーす!」 「えっ?!レポートの区切りがついたってマジ?!俺全然…。」 風間と木崎がレポートをしまう姿を見て、諏訪は真っ白なままの自分のものに青ざめながらもそれをカバンにしまった。 「あっちは何ですか?」 「図書館だな。」 風間達は嵐山達に学内を案内しつつキャンパスを歩いていた。 さっきから周りの視線が痛いのはおそらく嵐山がいるからだろう。 さすがに大人数でいるので声をかけづらいのか、誰も話しかけてこないが、控えめな黄色い声はやはり聞こえてくる。 手を振ってくる女学生なんかもおり、嵐山はその度に笑顔で手を振り返した。 「お前、大変だな。」 諏訪は一言そう言った。 「でもいいなー。かわいいファンもいっぱいいて。」 諏訪はもう一言付け加えた。 「そんなこと言ってる間はお前には無理じゃないか?」 「おい、風間。お前マジいい加減にしろよ。」 風間から辛辣な言葉がくるのはわかっているだろうに。 諏訪は不服そうにタバコを噛みしめる。 ドン 「あ、わりぃ!」 と、余所見をしていた諏訪は向こうから走って来た女性とぶつかってしまい、その拍子に彼女は持っている本を落とした。 諏訪は慌ててその本を拾い上げて女性に返す。 「わりぃ、余所見しててよ。どっか怪我しなかったか?」 そう言うとその女性は笑いながら言った。 「大丈夫ですよ、私の方こそごめんなさ……。」 するとその女性は顔を上げて諏訪の顔を見た途端言葉をなくした。 大層驚いているような表情に、諏訪も首を傾げる。 「おい、どした?どっか「…ちゃん。」 諏訪が声をかけようとした時、その女性は呟いた。 「もしかして洸ちゃん?」 「え?」 およそ誰も呼ばないようなかわいい呼ばれ方をして諏訪は目が点になる。 だが、何だろう。どこか懐かしいような気がする。 「あ、あの私アリス。桐島 アリスだけど、覚えてないかな? 諏訪 洸太郎くんだよね?」 「桐島…アリス…?」 諏訪は記憶を探り、目の前の女性との記憶を思い返す。 そして大分遡り自分が幼い時の記憶に辿り着いた。 「アリスってもしかして泣き虫アリスか?!」 「なっ!もう泣き虫じゃないよ!」 諏訪の呼び方に憤慨したのか、アリスと名乗った女性は頬を膨らませて見せた。 桐島 アリス。 年は諏訪の2つ下の19歳。 嵐山達と同い年になる。 諏訪が幼い頃近所に住んでいたいわゆる幼馴染で、彼女が小学校に上がって程なく、親の仕事の都合でアメリカへと引っ越していったのだ。 しばらくはアリスから手紙が来ていたが、無精な諏訪が返事をするわけもなく、そのまま連絡は途絶えてしまっていた。 「わあ、でも良かった。人違いどったらどうしようかと思っちゃった。大人になってもわかるもんだねえ。」 そう言ってアリスは嬉しそうにニコニコ笑った。 「金髪にしてたから驚いちゃった。でも似合ってるね。」 「お、おう。」 10年以上振りに再会したとは思えないほど、アリスは自然だった。 対して諏訪は久しぶりというのもあるが、それ以上にアリスが当時の可愛さを保ったまま、いやそれ以上に可愛くなって大人になっていたことに動揺した。 (めちゃくちゃ可愛くなってんじゃねえか!) そう諏訪が心の中で叫んでいると。 「良かったな、諏訪。めちゃくちゃ可愛い幼馴染が現れて。」 「うるせえ!」 まるで諏訪の心を読んだかのように、風間がボソリと呟く。 アリスは風間達の存在に気がつき頭を下げた。 「あ、ごめんなさい。私ったら久しぶりに洸ちゃんと会えたのが嬉しくて。邪魔してごめんなさい。」 そして今度は嵐山と目が合う。 「あ!嵐山くんだよね?さっき新入生の代表挨拶してた。」 「あ、うん。」 「それから…。」 「あ、こっちも新入生の柿崎。宜しく。」 「こちらこそ。」 アリスは嵐山と柿崎と握手をする。 ついでにその流れで風間と木崎とも握手をする。 「洸ちゃんのお友達ですか?」 「ああ、洸ちゃんのお友達だ。」 「そうなんですか。いつも洸ちゃんがお世話になっています。」 「洸ちゃんはいいやつだぞ。」 「おい、レイジ!風間!その呼び方やめろ!」 なんとなく二人がニヤニヤしてるのは明らかに諏訪をからかってのことだった。 だがそれを聞いたアリスは悲しそうな顔をする。 「洸ちゃんって呼んじゃダメなの?」 「いや、ちがっ!お前はいいんだ、呼んでも!」 諏訪が慌てて取り繕うと、アリスはぱぁっと笑顔になった。 「良かったぁ。」 またにっこりと笑うアリス。 どうも昔からアリスはマイペースなところがあったが、それは今も健在のようだ。 なんだか調子が狂う。 「おい、アリス。ちょっと来い。」 「わっ、何?どうしたの?」 諏訪はとりあえず状況を整理しようとこの場を離脱することにした。 アリスの手を引き、去ろうとすると後ろから変わらずニヤニヤした視線を感じる。 「お前らは適当に散れ!」 「ああ、わかった。じゃあな、洸ちゃん。」 「またな、洸ちゃん。」 「お前らぁ…。」 何か言ってやりたい諏訪だったが、ここで言えばまたアリスが変に誤解するかもしれないと諏訪はその言葉を飲み込んだ。 「じゃあ、またー。」 そんな諏訪の気持ちも知らずにアリスは風間達に手を振った。 Next ******************************* 2018.11.07 始めてしまいました、諏訪さん連載。 幼馴染とのほのぼの生活楽しんでいただけると嬉しいです。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |