ねえ、君は覚えてる? 遠い日の約束 「帰るぞ、アリス。」 「あ、待ってよ、秀次ー!」 いつもの放課後。 秀次はボーダーの任務や訓練がない日は私と下校する。 同じクラスの三輪 秀次は私の幼馴染で、私はというとボーダーとは何の関係もない普通の女子高生。 特に部活動もしていなくて帰宅部。 「あ、三輪いた!」 そこへ走ってきたのは別のクラスの出水くん。 彼もボーダー隊員だ。 秀次とはすごく仲が良い、というわけでもないけど、たまにこうして秀次を訪ねてやってくる。 「あ、ごめん、桐島!三輪借りれない?」 「別にいいけど。」 秀次の隣に立つ私を見つけるやいなや、出水くんは頭を下げてそのまま引きずるように秀次を連れて行ってしまった。 女友達は既に下校してしまった。 仕方なく1人で帰路につく私。 「またね、秀次。」 出水くんに引きずられたいった秀次を振り返れば、秀次もこちらを見ていて控えめに手を振ってくれた。 それにしても出水くんも律儀だ。 私と秀次が付き合っていないことはわかっているだろうに。 そう、私と秀次は幼馴染というだけで付き合ってるとかそういうのではない。 ただ一緒にいる時間が長いのでそういう勘違いをしている人も多い。 秀次は。 「私のことどう思ってるんだろ。」 ベッドの上に寝転んで天井を仰ぐ。 秀次が私のことをどう思っているか知りたい。 でも知るのが怖い。 だって私は秀次のことが好きなんだもん。 幼馴染って関係に甘んじてちゃダメかな? それで一番近くにいれるならそれで良いって思うのって普通? 今の関係が壊れちゃうかもって臆病になることは悪いこと? 最近こんなことばっかり考えてしまう。 どうしてかって? 『好きです、三輪先輩!あの、付き合ってください!』 ライバルが出現したからよ。 秀次は目つきが悪いけど、顔自体は整っているから一部の女子に人気があるとかって米屋くんが言ってたのをその時初めて思い出した。 私は現場を見た時慌てて隠れた。 それでもって怖くて逃げたから秀次がその子にどんな返事をしたかは聞いていない。 でもそれは1週間も前の出来事で、今でも私と放課後帰っていることを考えるときっと断ったんだろうと思う。 どうして断ったのか死ぬほど気になるんだけど、現場を見てたのが何となく後ろめたい。 「あー、臆病者!」 私は自分にそう叫ぶとそのまま眠りについた。 昔小さい時に約束した。 『ねえ、大きくなったら結婚してくれる?』 『うん、いいよ。』 そんなの覚えているのは私だけだと思う、多分。 と言うよりも普通はそんな小さい時の約束って時効だと思うし、覚えていても恥ずかしいだけだと思う。 それでもその小さな約束を覚えているのは、私がずっと秀次のことが好きだから。 「秀次は。」 私のことどう思っているの? 「何だ、アリス。」 「何でもない。」 「?そうか?」 帰り道に何となく秀次の後ろを歩きながらその背中を見ていた。 小さいときから比べたらそれはもう成長したと思う、体も心も。 お姉さんがネイバーに殺されてからは人が変わったようにボーダーの活動に打ち込んでいるけど、私への態度は前とあまり変わっていない。 そこはホッとできる。 「秀次は。」 どうしてこの間の告白断ったの? 「何だ、アリス。」 「何でもない。」 「お前、今日変だぞ?」 秀次はそう言って近づいてくると私の額に手を当てる。 秋風で冷たくなった手の冷たさが気持ちいい。 「熱はなさそうだな。どうした?何かあったのか?」 「っ。」 ねえ、秀次。ねえ、秀次。 「秀次は。」 誰が好きなの? 「誰が好きなの?」 「え?」 「っ!?」 私、今口に出して言った!? 私は慌てて両手を口にやった。 顔を熱く感じるのは私の顔が赤くなっている証拠だろう。 「あ、いや、今のは!」 私は慌てて取り繕うとする。 ああ、バカバカ!こんなに慌ててたら余計に変じゃない! でも一度パニックになったらもう止められない。 「好きなのって。」 すると秀次が静かに言った。 「お前だけど?」 「…。!?」 一瞬何を言われたかわからなかった。 「えっ!?」 「え、ってなんだ。俺が好きなのはお前だけだぞ。」 「っ!!」 秀次はそう言って私の手を取って歩きだした。 今まで一緒に帰っていたが、手をつないだことはない。 私は慌てたまま秀次の手を引いて引き止めた。 「ま、ま、待って!秀次!」 「何だ?」 「何だじゃなくて!え、今のって、冗談。とか?」 「そんなわけないだろう。」 「じゃ、じゃあ。」 「?さっきからどうしたんだ?俺が好きなのはお前で、お前が好きなのは俺だろう?」 「っ!!!!」 サラッとものすごいことを言われている気がする。 待って、でも今までそんな話なんて一言も言ってなかったのにどうして急に? 「何だ、違うのか?」 「ち、違わない!違わないけど…。」 一体どうして? この秀次の自信に満ちた態度は何? 私は大きくなってからも秀次に好きと言ったのだろか。 いや、そんなはずはない。 大きくなってそういうのを意識し始めてからはそんなこと言ったことなんてあるはずがない。 私が思案していると、秀次は一言こう言った。 「だって俺達結婚の約束をしただろ?」 「は?」 結婚の約束? 私は思わず目を点にした。 だって、それって。いや、まさかそんなはずがない。 「は?とは何だ。さすがに傷つくぞ。」 「あ、いや、ごめん。でもだってそれってもしかして幼稚園の時にした約束…のこと?」 「そうだけど?」 傷ついたと少し拗ねたような表情を見せる秀次に構っていられるほど私の理解力は追いついていなかった。 だって目の前の高校2年生の男子は、幼稚園の時の約束を信じて疑っていなかったのだから。 「え?ホントに?」 「さっきから何なんだ。さすがに怒るぞ。」 「ご、ごめん!でも普通幼稚園の時の約束なんてなかったことにならない?」 「えっ!?」 そこで初めて秀次は驚いた顔をした。 どうやら本気で約束を信じていたらしい。 何というか、純粋というか、世間知らずというか。 何て表現すればいいかわからない。 「待て、そうなのか?じゃあお前は別に俺のこともう好きじゃないのか?」 「え、いや、好きだけど。まさかこう来るとは思ってなくて。」 「な、何だ、好きなのか。びっくりさせるな。」 秀次は深くため息をついて心底安心したような顔をした。 私はそれが何だかおかしくて笑ってしまった。 深刻に考えていた私が馬鹿みたいだ。 「何だ。今度は。」 私に笑われているのが不服だったようで、秀次は膨れっ面をして見せた。 こんな表情は久しぶりに見る。 「ううん、ごめん。大丈夫。私秀次のこと好きだよ。」 そうやって笑って見せると、今度は顔を赤くしてそっぽを向く秀次。 それだけで十分私は幸せで、秀次が握ってくれた手を握り返した。 「そういえば、この間告白されてたでしょ?何て言って断ったの?」 「俺には将来を誓いあった相手がいるから無理だと断った。」 「わー、何だか嬉しいけど、恥ずかしいな。」 「どういう意味だ!」 遠いの日の約束を覚えていてくれたあなたに。 いつの日か永遠の愛を誓う日を夢を見て、今日も私と秀次は一緒に帰ります。 ******************************* 2018.10.20 20,000打企画、織奈様からのリクエストです。 三輪くんで同い年甘々というリクエストでした。 お待たせしてすみませんでした。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |