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忘れてしまっては困ります





負けられない闘い ver.風間隊 in another story





「くっそ!」

「また負けたし。」

「出直してこい。」

今日もまた風間隊の3人で行った乱戦形式の模擬戦。
主に歌川と菊地原が風間に挑戦するのだが、もう何十回、何百回と挑戦したかわからない。
何度風間にねじ伏せられようとも不屈の精神で立ち向かってはいるが、一向に勝てる気配がない。
この日も負けた歌川と菊地原は悔しそうに地面に這いつくばっていた。
ものすごい悔しがりようである。
そう、この模擬戦はただの訓練ではない、それだけの価値があるもの。
これはアリスに告白する権利を勝ち取るための闘いだったのだ。

アリスは風間の実妹で風間隊のオールラウンダーだ。
そして風間は妹である彼女をこれでもかというぐらい溺愛している。
兄の蒼也と違ってアリスは明るく人懐こく、それが可愛いとボーダー内でも人気だ。
自然と近づこうとする輩は増える。

だが、風間はそれを許さない。
どこから聞きつけたのか、アリスに告白をしようとした者に片っ端から模擬戦を挑み叩き潰した。
以来、アリスに告白するためにはまず兄の風間を倒すしかないという暗黙のルールがボーダー内に出来上がった。
今では告白することさえ諦め、遠くから傍観を決め込む人間が増えたが、同隊の歌川と菊地原は今でも風間に挑み続けている。

「まーたやってる。懲りないな、3人とも。」

訓練室のブースから風間達が出てくると、それを見学していたのかベンチに太刀川の姿があった。
この風間隊の模擬戦を見る観客は初めは多かったが、今ではあまり人もいなくなった。
歌川と菊地原ぐらいしか風間に挑戦する者がいなくなったからだ。

「太刀川。なんだ、珍しいな。ランク戦ではなくてこっちにいるのは。」

風間はそう言って太刀川を見上げた。
太刀川はボーダー最強チームA級1位太刀川隊の隊長だ。
ポイントの駆け引きがない模擬戦には興味がなく、普段はランク戦のブースに入り浸っている。
確かに風間の言う通りこちらにいることは珍しかった。

「歌川と菊地原もそろそろ諦めたら?」

太刀川は歌川と菊地原が可哀想に見えたのか、そうやって声をかけた。

「いいえ、諦めません!」

「イヤだし。」

当然2人の答えはノーだ。
何としても風間に勝ってアリスに告白する。
最近の鍛錬はそのためだけにあると言っても過言ではない。
そんな2人を見て太刀川はため息をつく。

「そうかよ。まあ頑張れば?無理だと思うけど。」

太刀川は立ち上がると階段から降りてきて。

「言われなくてもそうするし。」

菊地原はムスッとした顔で呟いた。
太刀川はそんな菊地原の頭をぐしゃりと撫でる。

「ところで太刀川。本当に何故こんなところにいる?」

「え、俺?俺は…。」

太刀川が風間の問いに答えようとした時だった。


ウィー


訓練室の入り口が開き、ある人物が入ってきた。

「! 慶先輩!!」

入ってきたのはアリスだった。
太刀川の姿を見るなり顔をパッと輝かせて駆け寄ってくる。
その目には歌川や菊地原はおろか、大好きな兄、風間 蒼也の姿すら映っていない様子だった。

「「「慶先輩ぃ??」」」

風間達は当然意味がわからず声をあげた。

「慶先輩!迎えにきてくれたんですか!というか早かったですね!」

「ああ、ちょっと用事が早く終わったから迎えに来たぞ、アリス。一緒に帰る約束だったろ?」

「嬉しい!私帰る準備してきますね!」

そう言って太刀川から離れた時、アリスはようやく風間達の存在に気がついた。

「あ、歌川くん、菊地原くん!お疲れ!お兄ちゃん、今日私晩御飯いらないってお母さんに言っておいて!じゃあねー!」

アリスは一息にそう言うと鼻歌を歌いながらその場を後にした。
太刀川はそんなアリスにゆっくりでいいぞーと手を振っている。
残された3人はわけがわからない。
とりあえずアリスのあんな幸せそうな顔見たことがない。

「じゃあ。俺も行くわ。お疲れ様ー。」

太刀川はその場を立ち去ろうとするが、当然3人がそれを許すわけがない。

「ちょっと太刀川さん、どういうことですか!」

「一緒に帰るって何?」

「太刀川、お前ちょっとそこに座れ。」

太刀川はめんどくさそうな顔をする。
風間の言う通り座ることもなく、出口に向かう。
風間は太刀川の隊服を掴んで無理矢理引き止めた。

「待てと言っている。」

「ヤダよ、風間さん。これから俺アリスとデートなんだから。」

その言葉は思った以上に風間に重くのしかかったようで、風間は思わず膝をついた。
さっきの様子からまさかと思ったが。

「お前達、まさか…。」

「え、俺とアリス?付き合ってるけど。」

「ぐはっ!」

「ああ、風間さんが!」

「倒れた!!」

歌川と菊地原は深傷を負った風間に駆け寄る。
風間はもう虫の息だ。

「何で付き合ってるってどうして?!」

「え、告白したらオッケーもらった。」

「何勝手に告白してるんですか。」

「だって風間さんより強かったら告白していいんだろ?」

太刀川はあっさりとそう言ってのける。

『俺より弱いやつにアリスはやらないぞ。』

風間は確かにそう言った。
だが逆を言えば風間より強ければアリスをもらっていい話になる。

「俺、ソロランク1位よ?アタッカーランクも風間さんより上。」

「た、確かに!」

「太刀川さんのくせに頭回ってる。」

「おい、菊地原。今馬鹿にしたか?」

「慶せんぱーい!!」

と、そこへアリスが戻ってきた。
そして倒れている風間を見つけて悲鳴をあげる。

「きゃあ!お兄ちゃん!!どうしたの?!」

駆けよろうしたアリスだったが、太刀川に腕を掴まれる。

「風間さんなら平気だって。模擬戦し過ぎてちょっと疲れたって。」

「そうなんですか?」

「歌川と菊地原いるから平気だって。」

「そっか。」

太刀川にうまく丸め込まれたアリスは歌川と菊地原に宜しく、と手を振ると太刀川と腕を組んで訓練室から出て行った。

「よりにもよって太刀川…と……ガクッ。」

「風間さーん!!」

「しっかりー!!」

訓練室には歌川と菊地原の叫びがこだました。










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2018.10.17
今回のAnother storyは太刀川さんでした。
三上ちゃん落ちでもよかったんですけど、
それだと何だか私の中で盛り上がらなかったのでこんなことに。
風間さんより強いんだから仕方ないよね。
diaryであとがき的なもの書いてますのでよろしければどうぞ。



※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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