ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


「はい、桐島です。木崎さん、どうされましたか?え?准さんが?すぐ行きます。」






お酒の席で





「すみません、遅くなりました!」

アリスのところに木崎から電話がかかってきたのは夜の10時も過ぎたころだった。
アリスは大学の研究室で取り組んでいた課題に区切りをつけ、そろそろ家に帰ろうかと思っていたところで、それが今から30分前のことだ。

「すまんな、アリス。」

呼び出されたのは駅前の居酒屋。
そこはいつもボーダー大人組が集まってお酒を飲む店だった。
アリスが駆けつけると店の前に木崎が立っており、アリスを見つけると軽く手を振った。
木崎も少しお酒を飲んでいるようで顔は少し赤かった。

「今日は皆飲みすぎたみたいでな。」

店に入り皆が飲んでいる個室へと案内され、襖が開けられた途端。

「アリスー!もぉー、待ってたのよー!」

「きゃあ!か、加古さん?!」

突然アリスに飛びついてきたのは加古だった。
去年から一般企業で働き出した加古はお酒の席に来るのは久しぶりだった。

「もう、相変わらずカワイイわねえ!」

「か、加古さん!お酒臭いですー!」

かなりの量を飲んでいるようで顔は赤く、いつも以上にスキンシップに勢いがある。
かなりお酒臭かったが、それでも加古に会うのは久しぶりだったのでアリスは嬉しかった。

「おー、アリスじゃねえーかー!」

「久しぶりじゃねえか、座れ座れえ!」

肩を組んでフラフラ飲んでいるのは太刀川と諏訪だ。
見たところもう理性は残ってなさそうだ。

「そうよぉー、アリスも一緒に飲みましょうよぉー!」

「あ、加古さん。私…。」

去年20歳をやっと超えて、皆とお酒を飲めるようになったアリスとしては加古の誘いは嬉しいが、今日はそんなことをしにきたわけではない。

「加古、ちょっと離れろ。」

「ああん、ちょっと!レイジさぁん!」

「お前は太刀川達と飲んでろ。」

木崎は加古をアリスから引き剥がすと、太刀川達のほうへと放り投げる。
するとすぐに加古は太刀川達と飲み始めた。
全く酔っ払いとは恐ろしいものだ。

「あの、准さんは?」

「あっちだ。」

そう言って木崎が指差す部屋の隅の方には風間と、座布団を枕に仰向けに横になっている嵐山がいた。
目にはおしぼりが乗せられて何やらうんうん唸っている様子だった。

「ちょ、ちょっと准さんどうしたの?!」

アリスは慌てて駆け寄る。
すると側に座っていた風間が手を縦にして頭を下げた。

「すまん、いつもより調子が良かったみたいだから飲ませすぎた。」

「それですっ転んで頭打った。」

「ええっ?!」

風間も木崎と同様少し顔が赤いが理性はあるようだ。
アリスは嵐山の側に座り、嵐山の頭を撫でる。
だが相変わらずうんうん唸っているだけだった。

「もう、ホントにしょうがないんだから。」

アリスは小さくため息をついて、そしてキッと風間と木崎を睨む。

「もお、お二人とも気をつけてくださいよ!」

「「面目ない。」」

風間と木崎はしょんぼり頭を下げる。
アリスはそれを見てフッと笑う。

「あらためまして、お久しぶりです。お二人ともお元気でしたか?」

それを見て風間と木崎もやっと笑った。





アリスは嵐山の側に座り、風間達と話をした。
風間と木崎は大学を卒業してから今もボーダーで働いている。
なかなか働き出してからはこうして集まる機会も減った。
アリスも風間達に会うのは久しぶりだったのだ。

「大学はどうだ?」

「すごく楽しいです!」

「もうすぐ就活だな。」

「それは言わないでください。」

アリスは大学3年生。
早ければ就職活動が始まる頃だろう。
アリスはそのことを考えるだけ顔が歪む。

「お前だったら大体平気だろ。」

「全部ダメだったら俺達が拾ってやる。」

「お心遣い感謝いたします!」

ははー、と殿様に頭を下げるように、アリスは頭を下げた。
その時アリスの細い髪が嵐山の頬を撫でた。

「ん…。」

嵐山は目を覚ましたようで、寝起きの覚束ない手つきで目元を隠しているおしぼりを持ち上げる。

「あ、准さん。」

「アリス?」

したたかに酔っている様子の嵐山は顔も赤く、まだ覚醒しきっていないのかぼーっとした様子だった。
アリスは困ったような顔をして嵐山に話しかけた。

「准さん?大丈夫?頭痛くない?」

そう言ってアリスは嵐山の頭を撫でる。
だが嵐山からの反応はなく、相変わらずボーッとアリスを見ていた。

「明日お仕事休みだからって飲みすぎじゃない?明日二日酔いに…「もうちょっと寝かせて。」

「?!」

アリスが軽くお小言を言おうとした言葉を遮ると、嵐山はゴソゴソと起き上がりアリスの腰に抱きつくような形で膝を枕に二度寝を決め込んだ。
当然アリスは慌てる。
ここは家ではないのだ。しかも風間や木崎達の見ている前で。

「ちょ、ちょっと准さん!ここ家じゃないんだよ!」

「ぐー。」

アリスは顔を赤くして嵐山を揺さぶるが寝息以外の反応はない。

「これはしばらく起きんな。」

「ああ、そうだな。」

風間と木崎は嵐山を覗き込んでうんうんと頷く。
アリスはそれでも嵐山を揺さぶった。

「も、もう准!起きてってば!」

「ぐーぐー。」

アリスの力一杯の訴えも虚しく、本人はこれ以上ないほどの幸せそうな顔をして眠っていた。
アリスは顔を赤くしたまま諦めて嵐山を腰にくっつけたまま放置した。

「相変わらず仲が良さそうで安心したぞ。」

「まあ今日散々嵐山から聞かされてたけどな。」

「えっ?!そうなんですか?!」

アリスは顔が熱くなって思わず両手で自分の顔を包む。
散々聞かされたとはどういう内容だろうか、酔った勢いに任せてとんでもないことを言っていないだろうかと不安な表情を見せた。

「安心しろ。主にお前がかわいすぎるだの、そういう惚気しか聞いていない。」

「あとは仕事が忙しくて会う時間が減ったって泣いていたぞ。」

「は、恥ずかしい…。」

アリスは明日起きたら小言をたくさん言ってやる、と思いながら嵐山の頭をポカリと叩いた。

嵐山は今年の春からボーダーへ就職した。
嵐山隊は時枝に引き継ぎ、今は広報課として裏方に徹している。
相変わらず人気はあるのだが、何気にやきもち焼きのアリスのために隊を引退したら表の活動も引退すると決めていたらしい。
とは言え、ここ数年で規模も大きくなったボーダーの裏方は段違いに忙しくなっており、元広報の花形だけあって忙しい毎日を送り続けている。
夜遅く帰るときなんかは、アリスは先に寝てしまっていることは多いし、朝はアリスが早かったりするからすれ違ってしまう。

「寂しい思いをさせて嫌われないかと心配もしてたな。」

「別れようとか言われたら生きていけないそうだからそれだけはやめてやってくれ。」

「そんなことまで言ってたんですか?」

アリスは少し不服そうな顔をして嵐山を見下ろした。
嫌われるとか別れるとか。

「そんなわけないでしょ、准さん。」

アリスはそう言って今度は嵐山の頭を撫でた。
それを見て木崎と風間は安心したような顔を見せた。

「帰りはタクシーで送ってやるから、お前も飲むか?」

「あ、いえ。私はやめておきます。この様子だと明日は准さんの面倒みないといけないでしょうし。」

木崎はわかったというと、代わりに烏龍茶を店員に頼んでくれた。

「あー、嵐山がアリスに甘えてやがるー!」

「このクソリア充野郎がー!」

すると向こうで飲んでいた諏訪と太刀川が嵐山がアリスの腰にくっついて寝ているところを見つけてやってきた。
その様子は未だ彼女もいない2人からするとひどく羨ましい光景でしかなかった。

「いいよなー、嵐山は!俺も彼女欲しいー!」

「彼女というか、こいつはもう嫁だよな。」

「な、何言ってるんですか!諏訪さん!!」

嫁という単語にアリスは顔を真っ赤にする。

「何年も付き合ってるのによくそんな表情できるな、お前。」

「こ、こういうことは何年とか関係ないんです!」

アリスの表情に心底感心したように諏訪は言う。
諏訪の基準で行くと付き合ってから3ヶ月〜半年ぐらいが山場で倦怠期がきて、そこからマンネリな感じが続くとのことだ。

「それは諏訪さんの基準でしょぉー!ね、ね、アリス。結婚式には呼んでくれるんでしょ?私スピーチしてあげるわよ?」

「か、加古さんまで何言ってるんですか!」

加古までやってきてもうこれでは収拾がつかない。

「うーん…。」

すると騒がしさに目を覚ましたのか嵐山がムクリと起き上がった。
アリスと向き合うように座り、完全に覚醒していない目が嵐山の意識がまだ眠っていることを告げていた。

「じゅ、准さん、起きた?よかった、もう帰ろう…。」

よ。とアリスが言おうとした時、何かに急に唇を塞がれて最後まで言葉が続かなかった。
チュッと音を立てて離れたのは当然嵐山の唇で、周りの観客はヒューと口笛を鳴らした。

「おはよう、アリス。朝の挨拶。」

そう言って嵐山は笑ったが、アリスはと言うと顔を真っ赤にして側にあった座布団を嵐山に投げつけた。
嵐山はそのまま勢いで後ろに倒れ、今度は風間の膝枕で仰向けに眠ってしまった。

「し、信じらんない!私帰ります!!」

アリスは顔を真っ赤にして立ち上がると出口に向かう。

「おーい、アリス。コイツどうすんだよー!」

「知りません!!」

諏訪の呼びかけに振り返りもせずに、アリスは出て行ってしまった。

「あーあ。帰っちまったぞー。」

「いいもの見れたわねー。」

「まあ嵐山が悪いな。」

「ああ。」

「とりあえず今日は玉狛で預かる。」

幸せそうに寝る嵐山を囲んで5人は顔を見合わせると、キリがいいから今日は解散することになった。
明日大変だろうからと、嵐山には今日はみんなで奢ってやることにした。

(もう、信じらんない、恥ずかしい!准さんなんて知らない!!)

家に帰るとアリスはプンスカと怒りながらすぐにベットに入り込んだ。
だが怒っていたはずなのに、諏訪に言われた嫁という単語を思い出してついニヤニヤしてしまうのだった。





「何で俺迅と寝てんだ?」

「レイジさんが泊めてやれってさ。」

翌朝、嵐山は玉狛支部の迅の部屋で目を覚ました。
昨夜あったことが思い出せない嵐山は首を傾げながらとりあえず家に帰ったが、そこで待っていたのは優しく微笑んで迎えてくれるアリスではなく、視線さえ合わせてくれないぐらいに怒ったアリスだった。










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2018.10.04
20,000打企画、菫様からのリクエストです。
大学生組 with 散歩道 Heroineです。
お待たせしてすみませんでした。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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