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いらっしゃいませ、いらっしゃいませ





コロッケ大戦争





そこは商店街の中の一角。
どこにである町のお肉屋さん。

「何でとっておいてくれなかったんだよ!アリス!!」

夕方は晩御飯の買い出しの奥様方や会社帰りのサラリーマン、部活帰りの学生で賑わっている。

「そうだよ、アリスさん!俺楽しみにしてたのに!」

そしてその中には任務帰りのボーダー隊員も。

「あー、うるさいうるさい!2人が来るのが遅いのがいけないんでしょ!」

ここ桐島精肉店は昔からこの三門商店街に店を構える肉屋だ。
お肉の品揃えもさることながら、お惣菜のラインナップも充実。
この時間には売り切れてしまう商品も多々ある。

中でも桐島精肉店の格別コロッケは人気が高い。
おかずのつもりで買ったけど、我慢しきれずに帰りにペロリと食べてしまう主婦が続出。
もちろんお腹を空かせた育ち盛りの男の子達も大好物だ。

「あー!俺の格別コロッケー!」

「お腹空いたよー!」

店の前で売り切れという立て札が置かれた格別コロッケのディスプレイの前で嘆いているのはボーダー所属A級1位の太刀川隊隊長の太刀川 慶、その人と、天才射手として名高い出水 公平だった。
2人とも好物はコロッケ。もちろん、ここの格別コロッケは大好物だ。

「他ので我慢しなさいよ!」

と、店の前で泣きじゃくる迷惑な客に怒っているのはこの店の看板娘、桐島 アリスだ。
太刀川と出水とは何の接点もない。
ただこの2人が店の常連だということ以外は。

「あたしは来るかどうかわからない人達のために取り置きなんてしないの!売れ残ったらどうしてくれるわけ?」

桐島精肉店で作るお惣菜はもちろん全て手作りだ。
当日の朝に店主であるアリスの父と母が2人で一生懸命作っている。
お店を開ける予定の日は1日たりともそれを欠かしたことがない。
そのおかげで常連で賑わうこの店は人々に愛される店のままでいられるのだ。
アリスは一生懸命働く父と母を誇りに思っていた。
そんな2人が一生懸命作ったものが売れ残るだなんて、アリスからしたらとんでもない話だ。

「全部俺の家まで持ってこい!」

「嫌です、太刀川くんの家に行くとか何されるかわからないし!」

「どういう意味だよ、それ!」

「まんまの意味よ!」

「じゃあ俺の家に持ってきてよ!」

「君は年上をからかうんじゃない!」

ギャーギャーと店のカウンターを挟んで騒ぐ3人を、迷惑そうに人々は見る。
などということは全くなく、むしろその目はまたやってるなあという温かいものだった。
そうこの格別コロッケを巡っての闘いは今回が初めてではない。
不定期に行われるこの闘いは既にコロッケ大戦争として商店街の名物になりつつあるのだ。

「今日も賑やかですね、あなた。」

「そうだなー。どっちか婿で来てくれればここも安泰だしなあ。」

などと言いながら奥でお茶を飲んでいるのはアリスの両親だ。
店先で騒ぐんじゃないと怒るどころか、強気なアリスにはピッタリだと、どちらかが婿に来てくれることを期待している。
一人娘だったから跡取りの心配をしていたが、これなら後継者の関係で店を閉めるなんてことにはならなさそうだ。

「アリスさん、俺明日絶対来るから置いといてよ!」

「そう言ってこの間任務で来なかったでしょ、出水くん!ダメ!」

「明日は絶対来るから!ホントに!」

「ダメったらダメ!」

いつまで経ってもないものを欲しがる2人にアリスは早く帰れと言わんばかりに手を振る。
だが2人はなかなか帰らない。

「もう、しつこいな!ホントにもう売り切れちゃったの!!」

アリスがそう言った時だった。

「あー、やっぱり売り切れちゃってますよね。」

肉屋のカウンターのほうから残念がる客人の声がした。

「笹森!」

「太刀川さん、出水先輩、お疲れ様です。」

それはB級諏訪隊アタッカーの笹森 日佐人だった。
手にはマイバッグを提げている。

「お前何して…「さ、笹森くん、いらっしゃい!」

太刀川が言おうとした言葉を遮り、目にも止まらぬ早さでアリスは笹森の前に移動した。

「こんにちは、アリスさん。」

「おつかい?偉いね。」

先ほどの勢いと怒声はどこへいったのか、アリスは笹森に向かってニコニコと笑いかける。

「母親が買い忘れたらしくって。」

笹森はそう言って頬を掻く。
笹森家の今晩のメニューは豚の生姜焼き。
なのだが、何を考えていたのか、母親は肝心の肉を買い忘れたらしい。
他のおかずの準備で手が離せない母の代わりにこうして買い物に来たのだとか。

「ついでに格別コロッケが残ってたら買っていこうかと思ってたんですけど、やっぱりこの時間はないですよね。」

と、今度は少し悲しそうな顔で言う笹森。
実は笹森も太刀川、出水同様、コロッケが好きなのだ。
そしてやはりここ桐島精肉店の格別コロッケが大好きでよく学校帰りに立ち寄ったりする。

「ある!あるよ!笹森くんのためにとっておいたの!」

「え、本当ですか?」

パァっと笑顔を見せる笹森を見てアリスはきゅうんと胸を締め付けられた。

(な、なんてカワイイ笑顔なの!)

アリスは店の奥からコロッケを取り出してきて笹森に見せる。
バットには少し前に揚げたのか、まだ湯気が立っているコロッケが1つだけ乗っていた。

「はい、これ格別コロッケね!」

そう言ってデレデレ笑いながらコロッケを袋に入れるアリス。
当然先客2人は抗議する。

「あるじゃねえか、格別コロッケ!!」

「差別だ!酷い!アリスさん!」

「うるさいわね!笹森くんのは取ってあるのよ!」

怒っているA級隊員を見ながら笹森は流困惑する。

「あの、俺買っていってもいいんですか?」

「待て、笹森3人で…「もちろんいいよ!笹森くんは大事な常連だもん!あ、豚肉はどれくらい包む?」

口出ししようとした太刀川の口を塞いでアリスは笹森に笑いかける。
笹森は戸惑いながらも断るのも悪いと思って、結局コロッケも買うことにした。

「アリスさん、ありがとうございます。大事に食べます。」

「(何てカワイイのっ!)うん、また来てねー!」

笹森は嬉しそうにコロッケを片手に帰ろうとする。
だが思い出したように立ち止まると太刀川と出水のところへやっきた。
2人はしょんぼりとした顔で笹森の持つコロッケを見ていた。

「2人ともすみません。でも多分大丈夫ですよ。」

「「??」」

太刀川と出水からすればよくわからないことを言って、笹森はそのまま帰っていった。
アリスは笹森の後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。

「あー、笹森くん、マジ天使。かわいすぎる、素敵すぎる。どうしよう、ドキドキする。」

と、アリスはカウンターに突っ伏して自分の気持ちを吐露する。
アリスはもうだいぶ前から笹森に夢中だ。
それにウンザリなのはコロッケを今日食べられない太刀川と出水だった。
もちろんコロッケのことがなくても笹森に嫉妬してしまうのだが。

「マジ羨ましい、笹森。」

「そうですね、いろんな意味で。」

もちろん太刀川と出水は格別コロッケだけのためにこの店に来るわけではない。
アリスに会いたくて、やってくるのだ。
だが、どうにもここのコロッケが美味しすぎてつい熱が入ってしまうため、アリスからしたら2人は異常なまでにコロッケが好きな男の子としか見られていないのだ。

「あー、もううるさいわね。」

笹森の余韻に浸り尽くしたアリスは太刀川と出水を見ると店の奥へと引っ込んだ。
それを見て顔を見合わせ、2人はまた悲しそうに顔をさげた。

「はい。」

と、ぶっきら棒な言葉と共に目の前に差し出された紙袋。
美味しそうな匂いにつられて太刀川と出水は顔をあげた。

「120円になります。」

「これ!」

「格別コロッケ!」

2人はそれぞれ差し出された紙袋を受け取ると中身を確認した。
先ほどまで売り切れたの一点張りだったのに。

「勘違いしないでよね。笹森くんが1個しか買っていかなかったから余ったの。」

アリスはそう言ってふいっと顔を背けた。
見ればちょっとバツが悪そうな顔をしている。

アリスは初めから太刀川と出水の分も残していたのだ。
本人の言う通り、3つとも笹森のために残していたのだとしたら、笹森が来た時に3つとも出してきて何個買うか聞いただろう。
そうしなかったのはもともとこのコロッケ達は別人のためにとっておいたからに他ならない。

「アリス、俺学校卒業したらここ継ぐから。」

「卒業できるわけ?」

「俺も大学出たらここ継ぐ。」

「君が卒業する頃はあたし三十路手前じゃない。」





ここは商店街の中の一角。
どこにである町のお肉屋さん。
後継候補募集中です。










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2018.10.02
結局誰落ちかわからないかんじで終わってしまった




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