ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


生まれ変わるの。そう決めたんだ。





名前呼んで





「こ、ここ、こ、こ…。」

その日の夜、私は自分の部屋で1枚の写真を見てある言葉を言おうとしていた。

「こ、こう、こ…。ああ!ダメだ!」

そうしてそのままベッドにダイブする。
何度練習してもうまく口から言えない。

「アリスちゃん、どうしたのー?今度の演目では鶏の役でもするのー?」

部屋の扉が突然開き、そんなことを言いながら入って来たのは母である。

「きゃあ!も、もうお母さん!急に入ってこないでよ!」

「ノックしたのにー。早く寝なさいよー?明日からテストでしょ?」

「わかってるよ!今寝るとこ!おやすみ!」

そう言って先ほどまで持っていた写真と一緒に布団の中に潜り込む。
お母さんはふふっと笑って部屋の電気を消してくれた。

(はあ。もう練習でもうまく言えないよお。)

私はそのまま眠りについた。





キーンコーンカーンコーン

ボーダー提携普通校は今日から期末テストだ。
今日は3教科。私の中の山場である英語は早速終わった。
苦手な科目ではあるが、平均点は取れるだろう。

「おーい、アリス。帰ろうぜー。」

「あ、う、うん!待って、出水くん!」

ホームルームも終わって、私を迎えに来た彼は別のクラスの出水くん。
半年ぐらいから付き合っている私の彼だ。

「出水くん、どうだった?」

「まあ大体死んだな。」

虚ろな目でそう返事をする出水くんは勉強が苦手みたい。
心底ダメだったと言う顔をする彼に私は少し笑ってしまう。

「でも昨日一緒にやってたとこ結構出てただろ?そこはできたと思うんだよなー。」

「じゃ、じゃあ平均点ぐらいは取れてると思うよ?」

「マジか!」

私の言葉にガッツポーズをする出水くん。
昨日は彼の家でテスト勉強を一緒にした。
その甲斐あって今回は何とか赤点は免れそうな様子。

「平均点とか久しぶりだなー!真矢のおかげだぜ、ありがとな。」

そう言ってぽすりと頭に手を置いてくれる。

「ううん、出水くんが頑張ったからだよ。」

恥ずかしくて顔が熱くなる感じがする。

「そ、それにテストはまだ明日もあるんだよ?」

「だあー!そうなんだよなー!」

そう言って今度はガシガシと頭をかく出水くん。
さっきから表情がコロコロ変わっておもしろい。
演劇部の私でもこんなにコロコロと表情を変えることはできない。

「おー、お二人さーん、今帰りー?」

「おー、陽介ー。」

すると米屋くんが現れた。
米屋くんは出水くんの同じクラスのお友達で、とても仲がいい。

「出水ー、また一緒に追試だなー!」

「バカ言え。俺は今回赤点は取らねえぜ!」

「!?」

そう言って私の肩を抱き寄せる出水くん。
ここ一応学校の廊下なんですけど!

「真矢のおかげで平均点取れるかもしれねーんだよ!」

「はっ?!平均点?!何ソレやべえ、すげえじゃん!」

誇らしげな出水くんと驚く米屋くん。
2人とも勉強が苦手で毎回追試なのだと言う。

「マジかよー。あ!どうせこれからお前ら勉強するんだろ?俺も桐島さんに教わりたい!」

くるりとこちらを見る米屋くん。
その目はとても輝いていて、いいよと答えそうになるが。

「はあ?!何で俺のアリスがお前に教えなきゃいけないんだよ!絶対ダメだからな!」

間髪入れずに出水くんは米屋くんから私を隠すように抱き寄せる。
だからここまだ学校の廊下なんだってば!

「ケチ!」

「ダメなものはダメ!」

「あ、あの2人とも。えっと。」

2人の間には火花がバチバチと飛んでそう。
このままでは喧嘩になってしまうのではと、私は出水くんの腕の中でハラハラしながら見てることしかできなかった。

「うるっさい!」

「「痛っ!」」

突然2人の頭をポカリと叩いたのは私と同じクラスのくまちゃんだった。
くまちゃんは私の腕を引き、出水くんの腕の中から引っ張り出すと、今度は自分の腕の中にしまった。

「あんたらね、アリス困ってるでしょ。喧嘩するならあたしがもらって帰るよ。」

「く、くまちゃん。」

くまちゃん、ホントにいつも助けてくれてありがとう。
男前ぶりに思わずホロリとしてしまう。

「そ、それはダメだ!くま、ごめん!アリスも!」

出水くんは慌ててくまちゃんに両手を合わせて頭を下げた。
くまちゃんは米屋くんのほうもジロリと睨む。
すると米屋くんも両手を合わせて頭をさげた。
く、くまちゃん強すぎる。

「はあ、出水。あんたアリスのこと好きなのはわかるけど加減覚えなさいよね。」

「かしこまりました、くま大明神様。」

そう言ってくまちゃんは私を出水くんのほうに返してくれた。

「じゃああたしは行くわ。あ、そうだ。米屋、あんた勉強したいなら一緒に来る?これから玲と奈良坂くんが勉強教えてくれるんだけど。」

「マジか!最強じゃん!行く!」

くまちゃんは米屋くんのケアもしっかりしてそのまま後ろ手に手を振ると帰っていった。
くまちゃん、やっぱりかっこいいよ。

「アリス、ごめんな。」

「ううん、じゃあ帰ろうか。」

そうしてやっと帰宅の途についた。





「あらー!いらっしゃい、公平くん!」

「お邪魔しまーす、おばさん!」

家に帰ると一緒に帰ってきた出水くんを見とめてお母さんは黄色い声をあげた。
出水くんは何度か家に来たことがあるんだけど、初めて来た時にイケメンじゃない!とか言ってはしゃぎまわってすごく恥ずかしかった。
以来、出水くんを見るととても機嫌良さそうに出迎えてくれる。

「テスト勉強?アリスちゃん、教えられる?」

「も、もう!お母さん、平気だってば!向こう行ってて!」

「あ、そうだわ、ケーキ買ってきてあげるね、2人に!」

背中を押してリビングにようよう母をしまい込むと、閉じた扉の向こうからそんな声が聞こえてきた。
はあ、恥ずかしい。

「ご、ごめんね。お母さんが。」

「相変わらずおもしろい人だよなー、アリスのお母さんって!」

私はもう恥ずかしくて消えたいぐらいなんだけど、出水くんは全然気にしていない様子。
こうやって前向きに受け取ってくれるので大変助かっている。

「あの、飲み物取って来るから待っててね。」

出水くんを部屋に通して私は飲み物を取りにキッチンへ行くと、冷蔵庫に張り紙が。

『駅前のシュークリーム買ってきてあげるからね! 母より』

駅前のシュークリームは私の大好物だ。
テスト勉強の応援も兼ねてのことだろう、とても嬉しい。

「お待たせー、出水くん。」

部屋に戻ると出水くんは私の机の前で写真を見ていた。
それは先日行われた演劇コンクールの写真だった。

「あ、アリス。これないだのだろ?」

「う、うん、そうだよ。」

私は何となく気恥ずくて一緒に写真を見れず、そのまま飲み物を部屋の真ん中のテーブルにセッティングする。

「この時のアリスかっこよかったよなー。」

「あ、ありがとう。」

私はさらに恥ずかしくて顔を赤くする。

私は演劇部に所属している。
写真はテスト前に行われた演劇コンクールの表彰式の時の写真だ。
この時の演目は銀河鉄道の夜。
私は主役のカムパネルラの役をした。
部としては惜しくも優秀賞を逃したが、私は個人として優秀な演技をした人間に送られる賞を受賞した。
写真はその時のものだ。
お母さんが勝手に写真立てに入れて飾っていった。

「アリスの演劇すごいもんなー。」

「っ。どうも。」

出水くんは私の頭の上に手を置く。
私は褒められ慣れていなくて一言そう言うのがやっとだった。

私は昔から恥ずかしがり屋で、いつも自分に自信がなかった。
演劇をやり始めたのはそんな自分を変えたかったからだ。
すると意外にそれが合っていたみたいで、部長曰く、すごい才能だということらしいけど、結局元の自分の性格は直らず、結果としては恥ずかしがり屋の普段の自分と、舞台の上の凛とした自分の、なんだか二重人格みたいになってしまったのだ。

「かわいいなー、アリスは!」

「きゃっ!」

恥ずかしがっていると急に後ろから出水くんに抱きつかれた。
私はもちろん慌てる。

「い、出水くん!」

「ホントこのギャップがマジたまんねーわ!」

「ちょ、ちょっと!」

私の頭にスリスリと頬ずりをする出水くん。
恥ずかしがって慌てる姿が特に好きだとかでこうして私はいつも振り回されている。

「も、もう!勉強しようよ!明日は数学だよ?」

「あ、やべ。そうだな。数学って絶対手強いもんな!」

案外するりと私を解放すると、出水くんは私の正面に座った。
数学の教科書を取り出し表紙を見て早速青ざめている。
内容も見ていないのにそんな顔ができるなんて。
私はおかしくて少し笑ってしまった。

そして私はその時まだ気がついていなかった。
出水くんの席に敷いたクッションの下に、昨夜寝る前に見ていた写真が落ちていたことに。





「ただいまー!」

しばらく勉強していると、1階から母が帰ってきたのか、元気な声がした。
私はシュークリーム!と思って立ち上がる。

「ちょっと休憩しようか。私下からおやつ取ってくるね!」

「サンキュー!」

私はそう言って部屋から出ていった。

「おばさん、きっとシュークリーム買ってきたんだろうなー。アリス嬉しそうだったし。」

そしてその時出水くんはそれを見つけてしまったのだ。

「ん、何これ。」

クッションの下から覗いている、その写真に。





「お待たせー!」

私はご機嫌で部屋の扉を開けると、テーブルの真ん中にお盆を置く。
お盆には出水くんの予想通り、シュークリームと紅茶が2人分乗っている。
さあ、食べようと座ろうとした時、私は出水くんが何かを見ているのに気がついた。

「? 出水くん。何見てるの?」

「ん?」

そして出水くんがペラっとめくったそれを見て顔が一瞬青ざめる。

「俺の写真!」

「!!!!?」

出水くんが手にしていたのは、私が昨夜持っていた写真、出水くんの写真だった。

「か、返して!」

私は慌てて出水くんに駆け寄って手を伸ばした。
恥ずかしすぎて死にそうだ。
だが出水くんは写真を私の手の届かないところに引っ込めてしまう。

「おーっと。アリス、何でこんなん持ってんの?教えて?」

出水くんはニヤニヤしながら私に言う。
私はと言うと、顔を真っ赤にしたまま必死に手を伸ばすだけだった。
こんな顔で彼の顔をまともに見られるはずがない。
だがその伸ばした手の手首を掴まれて強引に引き寄せられ、バチっと目が合ってしまった。

「教えてくれるまで離さねーぞ。」

相も変わらず出水くんはニヤニヤしている。
このままでは本当に返してくれなさそうだと観念して私は出水くんの前に座りなおした。

「な、名前で呼ぶ練習してたの。」

「名前で?」

私と出水くんは付き合って半年ぐらい経つ。
今は人前で一緒にいることにも、彼のスキンシップにも慣れてきたが、未だに彼のことを出水くんと呼んでいる。
先日友達にそのことを言われてしまったのだ。

「出水くんは、その、私のこと名前で呼んでくれるし、私も、その、出水くんのことちゃんと名前で呼びたいと思って、だから…。」

最後のほうは最早声に出ていたかもわからないぐらいの小声だったと思う。
耳のあたりまでカーッと熱い。
どうしよう、出水くんに引かれちゃったかな。

「なるほどね。」

すると彼は一言そう言って、更に続けた。

「俺もそろそろ名前で呼んでほしいなーとは思ってたし、ちょっと本物相手に練習しね?」

「えっ?!」

私が驚いて顔を上げると、出水くんは笑って自分を指差していた。

「ほらほら、名前呼んで?」

「っ。」

写真相手でも緊張して恥ずかしいのに、ここで本人相手に練習するのはハードルが高すぎる。
私は彼の名前の頭文字も言えなかった。

「んー。あ、そうだ。」

出水くんは少し考えると言った。

「じゃあ名前呼んでくれるまで返事しねえ。」

「えっ?!」

私は慌てた。そんなのはとてもとても困る。

「アリス、どうする?」

それはつまり今名前を呼んでもらったのが最後になると言うことだろうか。
でも出水くんは本気のようだ。

「い、出水くん、それは待って!もっと練習してから…。」

そう言うと彼はツーンと顔を背けてしまった。
どうもやはり本気のようだ。
名前で呼んでもらえないのは嫌だ。
自分はまだ彼のことを名前で呼べていないのに、こんなのはわがままだがまだ呼ぶには心の準備ができていない。
私がどうしようと困っていると突然頬に手が添えられる。

「キスもお預けだな。」

そう言って彼は不敵に笑った。
それを聞いた途端私は頭が真っ白になり、次の瞬間。

「それはすごく困ります。…こ…。」

私は彼の手の上に自分の手を添える。

「公平くん。」

私の顔はもうどうしようもないくらい赤いだろう。

「そんなん俺も困るっての。」

「ん。」

そう言って彼は優しくキスをしてくれた。

「ありがとな、アリス。」

唇を離すと、彼は額を私のものにこつりとくっつけて、優しく笑ってくれた。

ああ、名前を呼んでもらうのって幸せなことだな。
私は心底そう感じた。

「あ、そうだ。」

彼はまた不敵に笑う。

「明日保健体育あったよな。このまま俺とベッドでその勉強でもする?」

「…。?!」

私は一瞬何を言われているかわからなかった。
でも意味を理解した時先ほど以上に顔が熱くなる感じがした。

「な、何言ってるの?!出水くん!!」

「あ、呼び方戻ってるぞー、アリス。」

「し、知らない!シュークリーム2つとも食べちゃうし!」

「えっ?!ごめんって!1つちょうだい!」
そのあと私から勉強を教われなかった公平くんは、数学見事に赤点を取りました。











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2018.09.25
20,000打企画、悠希様からのリクエストで出水くん夢でしたー!
お待たせして申し訳ございませんでした。


※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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