それを知るのは俺だけでいい ホントの姿 「生徒会長、おはようございます!」 「おはよう。」 「今日も綺麗です!」 「ありがとう。」 朝の登校時、このボーダー提携進学校では見慣れた光景だ。 1人の女子が普通に登校しているだけなのに道が勝手にでき、名前も知らない、学年も知らない生徒達から挨拶をされている。 その女子のすぐ後ろに控えるように俺はただ歩いている。 「荒船くんも挨拶を返したら?」 「そうだな。」 そう言ってふふんとした顔で振り返るこの女子はアリス。 この学校の生徒会長だ。 頭脳明晰、容姿端麗とまあ漫画にでも出てきそうないろいろと持っている女子生徒会長。 それで俺はというと、生徒会副会長。 この女子の下ということになる。 別にそれがどうっていうことはない。 俺はそんなこと気にしない。 「無愛想な人ね。」 「悪かったな。」 アリスの問いに淡々と答える俺。 そんな俺にムッとした顔をしたアリスはプイッと前を向き直して、生徒会室へ寄ってから教室へ行くと言った。 それに俺は黙ってただついて行く。 生徒会室に入るとアリスはスタスタと最奥にある生徒会長座席の後ろの窓を閉めてカーテンも閉める。 この時間はやたらと日が当たるので、暑いのだとか、日焼けするのだとか。 ともかく朝ここへ来たらアリスはまず窓を閉めてカーテンも閉めて席に座る。 俺は生徒会室に入ると後ろ手に部屋の鍵をかけた。 「あー!こんな生活もう嫌だー!!」 アリスは鍵が閉まったのを合図に席に置いてあるクッションに顔を押し付け叫んだ。 また始まった。 「みんなの私に対する想像が辛い!あんなに清楚に振る舞うの辛いよー!!」 そんな叫んでるアリスに返事をするわけでもなく、俺は生徒会長の席の前に立つ。 アリスはもともとこういう性格だ。 この学校に入学するときに何を思ったのか清楚系でいくなどと言いだして、それが思いのほか定着してしまい、今更この素の自分をさらけ出すことができなくなってしまった。 もともと容姿もよく、頭も良かったのでついには我が校が誇る自慢の女子生徒会長なんぞになってしまい、他校にもファンができる始末。 ますます素の自分を出すことができず、もう3年生の春だ。 自業自得のこととは言え、よく貫き通してるなと俺は感心するが、それがアリスは気に入らないらしい。 「テツくーん、慰めてよー。」 「はいはい。」 そう言って俺はアリスの頭を撫でる。 「もっと学校でテツくんと一緒にいたい。」 「一緒にはいるじゃねえか。」 「家で会うときみたいな感じで一緒にいたいの!」 実は俺とアリスは家が隣のいわゆる幼馴染なのだ。 家に帰るとこいつは俺の部屋に来て夜遅くまでずっといる。 当然両親は仲いいし、晩飯も食ってけ、何なら泊まってけと、年頃の娘にとんでもないことを言ったりする。 「お前のそのキャラがなくても学校で膝枕とか一緒に寝るとかはできないんだぞ。」 「えー!膝枕はいいでしょー?!」 そう言って悲しそうな顔をするアリス。 アリスは極度の甘えん坊だ。 そんな性格を少しコンプレックスに感じていて、清楚で大人な感じに生まれ変わりたいと言いだして、今こんな感じになってしまっている。 やはり自業自得ではあるのだが、俺としても恋人のアリスと学校で距離を置いとかないといけないのは正直辛い。 まあ家に帰れば四六時中一緒だけども。 「はあ。今日も一日頑張るから褒めてよ。」 「あのな、いつも言うけど褒めるってのは普通頑張った後に…。」 そう言おうとした時にクイっと制服の裾を引かれる。 「ダメ?」 小首を傾げて目をウルウルさせて見上げてくるアリス。 これがずるいんだよなー。 こんなことされて断る男はいねえだろ。 「仕方ねえな。」 「ん。」 俺はアリスの顎を掴み、顔を上げさせるとキスをした。 時間もないのでホントに短い触れるだけのキス。 「頑張れそうか?」 口を離してそう尋ねると、満面の笑みでアリスは返事する。 「うん、ありがとう、テツくん。だーいすき!」 そう言って今度は俺の頬にキスをしてくれるアリス。 ホントに何から何までズルイよなー。 こんなことされたら俺も一日アリスに付き合ってただの副会長演じないといけないんだもんなー。 「ほら、教室行くぞ。生徒会長様。」 「ええ、行きましょう、荒船くん。」 そうしてまたいつもの日常に戻るのだ。 もちろん、帰ったらたっぷりと甘えてくれるんだけどな。 ******************************* 2018.09.16 20,000打企画、神楽様からのリクエストで荒船先輩夢でした。 大変長らくお待たせして申し訳ございませんでした。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |