ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


『鋼くん、ねえ。−−−−ちゃんのことよろしくね。』





誓いをたてよう





変な夢を見た気がする。
あの子が出て来て、誰かをよろしくと。
誰だったか思い出せない。
昔そんなことを言われた記憶もない。

あの夢は一体何だったんだろう。

「鋼くん?大丈夫?」

「ん?ああ、ごめん。大丈夫だ。」

ゲートが複数発生した日の翌日。
俺達鈴鳴第一は本部基地へと召集された。
イレギュラーな事態だったにも関わらず冷静な判断で対処で民間人への被害を0に抑えたことを評価をされて、ニ級戦功を授与されることになったらしい。
普段なら太一辺りがボーナスやったーと喜びそうなところだが、生憎俺たちの中の誰一人として素直に喜べる状態ではなかった。

それはアリスがこの場にいないことと関係している。
昨日来馬先輩がアリスに連絡したらしいが不通。
メッセージは開封されて読んではいるようだったが、アリスは時間になっても集合場所に現れなかった。
その時来馬先輩、今、太一が一斉に俺を見たが俺はふいっと視線を逸らした。
来馬先輩のお願いでもダメだ。
俺はまだ怒ってるんだ、アリスを探しに行くなんてとんでもない。
そう俺はまだ怒ってるんだ。

「あ、忍田本部長。」

会議室に行く途中で忍田本部長に遭遇した。

「やあ、鈴鳴第一か。早いな。」

忍田本部長は来馬先輩に言った。

「昨日の活躍見事だった。ご苦労だったな。」

「ありがとうございます。」

「?
桐島くんは一緒ではないのか。」

「!あ、えっとアリスちゃ…桐島隊員はその…。」

アリスがいないことに気がついた忍田本部長の指摘に来馬先輩は思わず視線を下げた。
忍田本部長は少し表情を曇らせた。

「やはりお前達と桐島くんを一緒にしたのはまずかったか。」

「え?」

忍田本部長の小さな呟きは俺達の気を引くのに十分含みある言葉だった。

「あ、あの何のことですか?」

来馬先輩も内容が気になったようで、忍田本部長に質問する。

「やはり聞いてはいないようだな。
…桐島くんは1年前に亡くなった君達の隊員の双子の姉だ。」

「えっ!?」

忍田本部長から告げられた言葉は誰も予想していなかった内容だったため、俺達は激しく動揺した。

「ふ、双子の姉妹?!
で、でも苗字違いますし、それに全然似ていないのに!」

「彼女らの両親は幼い頃に事故で亡くなっていてな。
両親以外の身寄りがなかったので別々の里親に引き取られたそうだ。
二卵性の双子だそうだから確かに容姿はあまり似ていないかもしれないが雰囲気はあるだろう?」

忍田本部長が嘘をついているようには見えなかった。

むしろ言われてみれば納得できる。
初めて会った時にアリスに感じた雰囲気も、一緒にいて懐かしくて暖かい気持ちになれたことも、その手の温もりに安らぎを覚えたのも。
双子の姉妹だからと言われれば納得ができた。

でもそうだとしたら。
忍田本部長が言ってることが本当だったとしたら。

『何も失ったことないアリスには絶対にわからないっ!!』

俺は何てことを言ってしまったんだ。

「桐島くんの入隊を許可するか私は迷ったが、城戸司令が許可をして鈴鳴に配属したんだ。」

「じゃあ、あの子は僕達のことやあの日のことも全部知って…。」

「もちろん、知っていただろう。
離れて暮らしてはいたが仲の良い姉妹だったと聞いている。」

ああ、俺は何てことを言ってしまったんだ。

「あ、鋼!」

俺は気がついたら走り出していた。
アリス、ごめん。
俺の方こそお前の気持ち全然わかっていなかった。

俺は雨が降っている中傘もささずに飛び出した。





「はあ、はあ。」

しとしとと雨が降っている。
まるで誰かが泣いているような静かな雨だった。
俺は丘の上を目指して坂道を駆け上がっていた。
そこにアリスがいるんじゃないかと、何とも心もとない理由を頼りに。

「はあ、はあ。」

予想通り、あの子の墓の前にしゃがみ込むアリスがいた。
いつからそうしていたのか、傘を差してないためずぶ濡れだ。

俺は静かに近づいた。
足音で俺が来たことはわかっていたはずなのに、それでもアリスはピクリとも動かなかった。

「アリス。」

「…あたし、鋼のこと嫌いだったの。」

雨にかき消されそうな小さな声でアリスは言った。

「鋼だけじゃない。
来馬先輩も太一も結花もボーダーも。
みんな嫌いだったの。」

独り言なのか、それとも俺に言っているのか。
それはわからなかったが、俺は何も言わなかった。

「あたしどうしても納得できなかった、あの子が死んだこと。
だからボーダーに入ったの。
みんなに文句言ってやりたかった。
どうしてあの子を守ってくれなかったの、どうしてあの子を死なせたのって。
鋼に至ってはお葬式で泣きもしないし。
何でこんなやつのことばかりあの子は気にしてたのよって思った。」

肩が震えているのは寒いからか泣いているからなのか。

「でも初めて会った日にここで鋼を見てわかったの。
ああ、何だ。この人きちんと苦しんでくれてるんだって。」

初めてアリスに会ったのもこの墓の前だった。
冷静に考えればいくら迷子と言っても丘の上の墓にくることはないだろう。
アリスもあの日墓参りに来てたんだ、この子の墓参りに。

「鋼に会って、来馬先輩に会って、太一に会って、結花に会って、みんなに会って。
ああ、何だみんなちゃんとこの子のこと愛してくれてたんだってわかった。」

雨の降る空を仰ぐ。

「それからは…楽しかったなぁ。」

俺はアリスのすぐ後ろで立ち止まった。

「ねえ、鋼はあたしといて楽しかった?」

アリスは立ち上がらずそのまま俺を振り仰いだ。
頬が濡れているのは雨なのか、涙なのか、…わからない。

「楽しかったよ。」

俺は一言だけ短くそう言った。

嘘じゃない。
初めて会った時は第一印象はよくなかったのは確かだ。
でも、それでも思い返せばアリスが来てからの日々は楽しいと思わせるものだった。

「お前、何で黙ってたんだよ。」

あの子と姉妹だったなんて。

「だって誰にも聞かれなかったんだもん。
っていうかさあたし達見た目は全然似てないし、名字も違うじゃん。
だから誰にもばれないと思ってたのに、城戸さんと忍田さんがお葬式にいたあたしのこと覚えててさ。
いや、それにはさすがにビビったよね。」

アリスは一息にそう言うとため息をついて膝を抱えた。

「でももういられないよね。」

アリスの声が震えているのがよく伝わる。

「来馬先輩にも太一にも結花にも心配かけちゃったし。鋼にも。
鋼はまだきっと怒ってるんでしょ、あたしのこと。」

そう言って更に丸くなるアリスは本当に小さな声で呟いた。

「1人になっちゃうなぁ。」

その声があまりにも儚くて。

「お父さんも、お母さんも、あの子もいない。
あたしの血はこの世であたしだけなんだ…。」

切なくて、消えてしまいそうだったから。
俺は気がつけばアリスを後ろから抱きしめていた。

「こ、鋼?」

「1人にはならない。」

「ん。」

俺が耳元で喋ったのがくすぐったかったのか、アリスは小さく肩を震わせた。

「1人になんてさせない。
お前が天涯孤独というのなら、俺がずっと一緒にいてやる。
だからそんなに泣きそうな声を出すな。」

「…鋼。それ意味わかって言ってんの?」

アリスは頬を赤くして、顔を少しだけ俺に向けた。
ごく至近距離で視線がぶつかる。

「嘘はつかないよ。」

「ん。」

そう言って俺はアリスの頬に手を添え引き寄せる。
アリスは抵抗せずにそのまま俺のキスを受け入れた。

「鋼って案外手が早いんだね。」

「嫌なら抵抗しろよ。」

「嫌とは言ってないでしょ。」

アリスは体を反転させて、俺に飛びついて来た。
俺は弾みで尻餅を着くも、倒れないようにアリスを抱きとめる。

「ずっと一緒よ?嘘にしないでね?」

「しないよ。
ちゃんと血の繋がった家族も作ってやる。」

「!!!鋼の馬鹿!」

「そんな顔して言われても痛くも痒くもない。」

アリスは俺の言葉の意味を理解して顔が真っ赤だ。
そんな可愛い反応されてはたまらない。
俺はもう一度アリスを抱き寄せてキスをした。

「鋼ー!アリスちゃーん!」

その時後ろから来馬先輩の声がして、アリスは慌てて俺から離れた。
間もなく、来馬先輩、太一、今がやってきた。

「アリスちゃん、やっぱりここにいたー。」

肩で息をする来馬先輩達を見るに、俺と同じくあの坂を全力疾走してきたのだろう。
傘はさしてきたみたいだけど、走ってきたから雨に横殴りにされてあまり意味をなしてはいないみたいだった。

「く、来馬先輩、あの…。」

アリスは俺の後ろにそっと隠れた。
考えれば昨日からアリスは来馬先輩の連絡を無視していたし、今日の集合もすっぽかした。
怒られると思ったんだろう。

「もう、2人とも風邪ひくよ。
早く行こう。忍田本部長に待ってもらってるから。」

「え?」

待ってもらっているとは恐らく今日予定していた二級戦功の授与式のことだ。

「でも…。」

アリスは自分にはその資格はないと言わんばかりに小さい声で呟いた。
キュッと俺の服を掴んで離さない。

「アリスちゃんは鈴鳴第一の大事なメンバーだから一緒に出てくれると嬉しいなぁ。」

来馬先輩は俺の後ろに隠れているアリスを覗き込んで笑った。
俺の服を掴む力が強くなったように感じた。

「そうっすよ、先輩!
あ、そうだ、特別に俺が取っといたカップ麺あげますから行きましょうよ!」

「太一、餌でつらないの。
アリス、早く行きましょうよ。
アリスも太一の世話してくれないと困るんだから!」

来馬先輩に続いて太一と今も俺の背中をのぞき込む。
いつまでも俺から離れようとしないアリスに仕方がないなぁと笑うと、俺はアリスの手を取り引いた。

「!?鋼!」

「これ以上皆の手を焼かすな。
お前は鈴鳴第一の仲間なんだぞ。」

俺が歩き出すのに続いて来馬先輩達も笑って後ろを歩く。
アリスは手を繋いでるのが恥ずかしいのか、手を離してほしそうに俺を見るが気づかないふりをする。

「あ、先輩達、見てください!
虹がかかってますよ!」

太一に指さされて見る空は、いつの間にか雨がやんで綺麗な虹がかかっていた。

「綺麗だね、鋼。」

「ああ、そうだな。」

アリスはそう言ってやっと俺の手を握り返してくれた。





『鋼くん、ねえ。アリスちゃんのことよろしくね。』

『任せておいてくれ。
アリスの一生は俺が責任持つよ。』

その日を境に俺はあの日の夢を見なくなり、代わりにアリスとの幸せな日々を夢に見るようになった。










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2015.7.4
雨の日の記憶、最終回でした。
diaryにてあとがき
的なもの書いてます。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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