真っ白なノートが楽しい日々で埋まっていく。 観察日記 俺の名は米屋 陽介。 現在冬休みの真っ只中で、一番難しい自由研究の宿題の真っ最中だ。 自由研究って普通夏休みじゃね? 冬休みみたいな短い休みで自由研究って無理あんだろ。 まあでもともかく何かやらなきゃ、冬休み後にやられる(補講とか追加課題的な意味で) そうした中、さて何をするかと俺は考えた。 『12月21日 晴れ。様子:挙動不審。』 俺はラウンジのテーブルにノートを広げて文字をしたためる。 「おーい、陽介。何してるんだ?」 「お、出水じゃん。お疲れ。」 俺が1人でいるところを見つけて、やってきた出水が俺の前に座る。 任務終わりで腹が減っていたのか、手には売店で買ってきたコロッケパンを持っていた。 「で何してんだ?」 「観察日記つけてる。」 「は?マジで?」 自由研究のテーマは観察日記にした。 小学生の時にやった朝顔の観察日記を思い出したからだ。 高校生にもなって朝顔の、とはいかないが、ようは何かの様子を見て日記をつければいいんだ。 何とも手軽で簡単じゃねえか。 毎日つけないといけないってのが難点だが、それが苦にならないようなものを観察すれば問題ねえ。 「意外だな、自由研究真面目にやってんじゃん。」 「まあなー!」 「で、何の観察日記?」 出水は俺のノートを取り上げて表紙を見て一瞬目を点にする。 でもすぐ笑い出した。 「ぶっは!何これ。結構面白いんじゃね?」 「だろ!手軽だし、これなら毎日つけれそうかなと思ってよ!」 「いやー、俺それの完成楽しみにしてるわ。」 「おう、一番最初に見せてやるよ!」 表紙にデカデカと"三輪 秀次隊長観察日記"と書かれたノートを俺は鞄にしまった。 『12月22日(水)曇り。様子:落ち込んでいる。』 三輪 秀次っていうのは、俺がボーダーで所属しているA級7位のチームの隊長だ。 学校も同じで同い年。 冬休みに入って学校に行かなくなっても、任務やら訓練やらで一緒にいる時間はわりと長い。 性格はそうだな、大人しい方で騒がしいのが嫌い、かな? 根が真面目で、訓練とか任務とかには超前向きに取り組んでるし。 でも一箇所、性格破綻してる部分がある。 それはネイバーに対しての異常なまでの敵対心。 秀次は4年半前の大規模侵攻の時にお姉さんをネイバーに殺された。 それでともかくネイバーは全部ぶっ殺すみたいなのを何ていうか生きる目標みたいにしちまってるんだよな。 俺はボーダー隊員だけど、家族を殺されたり、家を壊されたりとかそういう経験はない。 だから秀次の気持ちとか、正直わかってやれない。 でもわかってやれないけど、そんなのは悲しいとは思う。 何とかそういう気持ちを溶かしてやりたいと友達として思ってたところ、ちょうどチャンスがやってきた。 先日ネイバーからやってきたという空閑姉弟。 こいつらに関わってから秀次は少し変わってきている。 俺はその様子の観察日記をつけている。 「今日落ち込んでるなー。 昨日アリスにあんなこと言うからだっての。」 空閑 アリス。年は俺らと同い年。 玉狛に入隊が認められた空閑 遊真の姉だ。 黒トリガー争奪戦以降、アリスは本部への入隊をした。 ホントは弟と同じ玉狛がよかったんだろうけど、アリスも黒トリガー使いだったんでバランスを取るっていう意味で本部に入隊することになったんだ。 今は主に嵐山さん達が面倒を見ている。 で、ここでだぞ! 面白いことに秀次がなんとアリスに惚れちまったわけだよ! これは思いのほか面白い展開に…いや、俺は秀次に幸せになってほしいんだぜ? この観察日記も秀次の気持ちの変化を忘れないためにつけてやってるわけで、決してアリスに対する秀次の様子が面白いからとか、そういうわけではないんだぜ? ウン、ソウ。コレ、ゼンブ、秀次ノタメ。 アリスはネイバーを毛嫌いしている秀次をよく思っていないようだ。 そりゃ俺らいきなり襲いかかったわけだし、当然だよな。 ま、俺はもう普通にアリスと喋ったり飯食ったりするけどー! 秀次は秀次でアリスを好きになっちまったことに戸惑っているみたい。 だからいつにもまして挙動がおかしい。 素直な性格でもねえからそれも相まって進展もしねえ。 なかなか普通に話しかけないしな。 昨日もなー、アリスとすれ違いざまに"ネイバーめ。"とか言うからよ、アリスの右ストレートが飛んでくるんだよ。 (アリスはすーぐ手が出ちまうらしい。喧嘩っ早いのな。) で、今日の秀次はほっぺに湿布を貼ってそれを摩りながらベンチの上で1人膝を抱えてコーヒー飲んでるわけだ。 俺は一頻りノートをつけてその場を去った。 『12月23日 晴れ。様子:ツンデレな恋する乙女。』 「なあ、陽介。クリスマスプレゼント何が欲しい?」 「え、なになに!何かくれんのか!」 「お前にあげるわけがない。」 「…紛らわしい聞き方すんなよ。」 秀次は突然俺のところにやってきて前の席に座る。 俺は慌ててノートを隠す。 いつもの秀次なら勘ぐってノート出せとか言われそうだが、それどころではないらしく何も言われなかった。 「じゃあ誰にあげんだよ。」 「別に誰にあげるとかはないが…。」 「そっかー、アリスにクリスマスプレゼント渡したいのかー。いいんじゃね?」 「はっ!?ば、馬鹿!そんなわけないだろ!」 「アリス、好きなものなんて言ってたっけかなー?」 「だから誰があいつにあげるなんて…!」 「聞いてやるよ。アリスって何か好きなものあんのー?、っと。送信。」 「人の話を聞け、陽介!!」 「落ち着けよ、秀次。お、返事はやっ!返ってきた。」 「!アリス、な、なんて?」 「ペンギンのぬいぐるみだってよ。はは、あいつ可愛いとこあんなー。」 「ペンギンのぬいぐるみだな!わかった!」 「あ、おい!秀次!!」 秀次はそれを聞くと光の速さでその場から消えた。 あいつ今から買いにいくのか? 面白えから…心配だから後尾けなきゃ! 「ん?」 俺はアリスからのメッセージが下に続いていることに気がついてスクロールする。 『っていうのは冗談。 ぬいぐるみとかそんなん寒いでしょ。ペンギンも嫌いだし。 趣味は筋トレ。』 あーあ、秀次ごめーんね☆ 翌日アリスにペンギンのぬいぐるみを渡して、ぶっ飛ばされる秀次の姿を写真に収めることになったのは言うまでもない。 『12月31日 晴れ。様子:落ち込み、からの嬉しそう』 今日で今年も終わり。 夜は皆で初詣に行くことになった。 もちろん高校生だけでは危ないってんで、大学生組の引率付き。 夜中に友達と皆で出かけるとか楽しそうだよな! アリスはもちろん初詣という文化を知らない。 でも折角こっち来てるんだし、これからもずっといるわけだし一緒に行こうぜと誘うことになった。 そしてこの誘う役目を皆で力を合わせて全力で秀次に押し付けた。 秀次はすげえ嫌そうな顔をしたけど、最終的に仕方ないと言ってアリスの所へ向かった。 その時口の端が上がってるのをもちろん見逃さない。 何と言って誘うのかもちろん面…心配だから様子を覗き見る。 『おい、アリス。』 『何よ、三輪。』 不機嫌そうに始まる会話。 アリスは三輪がやってくるとろくな話じゃないだろうとすごく嫌そうな顔をする。 こないだクリスマスプレゼントのペンギンのぬいぐるみで相当険悪になってたからな。 無理もない。 『今夜皆で初詣に行くんだ。お前も来い。』 『はあ?何よ、その言い方。っていうか初詣って何?』 『そんなことも知らないのか。 少しはこっちの文化を勉強したらどうだ、ネイバーめ。』 と、ここでまたアリスの右ストレートが炸裂する。 『はっ、何よ!気分悪い。 模擬戦でもしてこようっと。』 地面に伏して動かない秀次。 何であいつあんな言い方しかできねぇんだよ。 ったく…。 「よ、アリス。どした、機嫌悪いな。」 「あ、陽介。ちょっと三輪何とかしてよ。 いちいち絡んできて鬱陶しいんだけど。」 「ま、そう言うなよ。 あいつあれでお前のこと気にしてんだぜ?」 「まさか。」 「ホントホント! こっちではああいうのを愛の裏返しって言うんだ。 好きなやつほど構いたくなるってな!」 「そうなの?」 「そうそう! あれ、どこ行くんだよ。模擬戦するんじゃねえの?」 「ちょっと用事思い出した。」 そう言ってアリスはまだ秀次がいるであろう場所へと戻って行った。 覗き見るとアリスが冷たい飲み物を買って三輪の頬を冷やしている。 『三輪、その初詣ってやつ何かわかんないけど行ってあげてもいいわよ。』 『ホントか!』 『で、でもどんなのかわかんないからちゃんと教えてよね。』 『わかった!じゃあとりあえず集合はだな…。』 ようやく会話ができるようになりました、まるっと。 年内にここまで進展できたのは上等だな。 でもこのペースじゃ冬休みの間に完結できなさそうた。 年明けはもう少し手助けしてやるかな! 俺はノートを静かに閉じた。 ******************************* 2018.09.14 20,000打企画、牛ターン定食様からリクエストいただいた三輪 秀次でギャグ甘です。 しかしこれはまたギャグにもれず、甘にもなりきれてないような感じがヒシヒシと・・・。 3年もおまたせして申し訳ございませんでした。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |