今度こそ守って見せる。 その手に掴み取れ 『B級昇格おめでとう!』 『ありがとう、みんな!』 『戦闘用トリガーの支給はまだだけど防衛任務には一緒に行っていいって。どうする?今日の防衛任務一緒に行くかい?』 『はい、是非お願いします、来馬先輩。』 この時誰か1人でも危険だからやめておこうよと、そう思えていたら何か変わっただろうか。 『ゲートが複数発生?!』 『付近には私達しかいないみたいです。』 『そんな…。鋼、太一!現場に急行するよ!』 『来馬先輩、私も!』 『ダメだ!君のトリガーはまだ訓練用でベイルアウトもついていない。ネイバーを避けて基地へ戻るんだ、いいね!』 『でも…!』 この時一緒に連れて行っていれば何か変わっただろうか。 『大変、あの子まだ基地に戻って来てない!警戒区域内にトリオン反応が…。』 『そんな!』 『来馬先輩、俺が行きます!』 『頼むよ、鋼!』 俺が走り出すのがあと一歩でも早ければ何か変わっただろうか。 『逃げなさい、早く!ゴホ!』 『馬鹿野郎!!お前も早く逃げろ!!』 あの日、どうすればあの子を救えたと言うんだ。 ベイルアウトのついてない訓練用のトリガーで任務に同行。 そこで予期せぬ複数ゲート発生と多数のネイバーの襲撃に遭い、いち早く避難をさせたはすだった。 でも避難の途中で警戒区域に侵入した一般人を見つけネイバーに遭遇。 交戦も虚しく数に押されトリオン露出寡多で換装が解除。 もともと病弱なあの子の体では逃げることも戦うこともできず、一般人だけでも逃がそうとして。 『−−−−−−っ!!!』 そしてあの子は目の前で胸を貫かれて死んだ。 思い返せば思い返すほどに何もかもが理不尽で不合理だったあの日。 どうしたって助けられずに今も夢の中で何度も失う。 『どしたの、怖い夢でも見た?』 そんな中から救い上げてくれた声と温もりがあった。 『…仕方ないなぁ、鋼は。』 そう言って側にいてくれた大事な人を俺は今度こそ守りたいんだ。 「今。アリスの位置座標を。 来馬先輩達にも送ってくれ。そこで合流だ。」 俺は最後のネイバーから孤月を引き抜いて今に連絡を取った。 『了解。』 俺の視界にアリスや来馬先輩達の座標が表示される。 合わせてネイバーの場所も表示され点滅する。 アリスの周りにはまだ複数のネイバーが残っていた。 「?」 アリスが到着してから数分経ってるはずなのに、周りのネイバーの数が思ったよりも減っていない。 俺は嫌な予感がしてすぐに走りだした。 「今、アリスと通信は?」 『それが雑音が多くてうまく通信できないの。』 「わかった。そのまま呼びかけを続けてくれ。俺はともかく急ぐ。」 『鋼!僕たちももうすぐ着くから!』 「了解です。」 俺はアリスに向かって一直線に走る。 道なりに行くと迂回してしまい時間がかかる。 俺は屋根の上に登り、道無き道を走り抜ける。 『鋼くん、大変!アリスと通信が取れたんだけど、一般人が警戒区域内に入り込んでてその人達を庇っているから上手く戦闘ができていないみたいなの!』 「クソ、どこまであの日と同じなんだ。了解!」 俺は吹き付ける雨の中、走るスピードを更にあげた。 「アリス!」 俺が駆けつけてアリスをやっと視界に入れることができた時、アリスは至る所からトリオンが漏れ出していて苦戦を強いられていた。 後ろには一般人が3名ほど身を寄せ合って震えていた。 見たところ大学生のようだった。 いい大人が何やってるんだ、クソ! 「鋼!…っ!!」 「アリス!!!!」 一瞬、俺に気を取られたアリスがネイバーから目を離した瞬間、モールモッドの鋭い鎌がアリスの片腕を切り飛ばした。 次いで別の鎌がアリスの胸を貫く。 星屑のようにトリオンが傷口から溢れ出す。 心臓が止まるかと思った。生身なら即死だ。 溢れ出したのが血ではなくトリオンだったことが俺の意識を踏みとどまらせた。 「すぐ行く!」 鎌を引き抜かれストンと地面に座り込むアリス。 ベイルアウト寸前だ。 だが今ベイルアウトすればネイバーは後ろの一般人を襲う。 俺の中を嫌な予感が走り抜けた。 「鋼、お願い。」 アリスは小さくそう呟いた。 馬鹿な真似はよせ、やめろ。 そう言う前にアリスが叫んだ。 「トリガーオフ!!」 換装がゆっくり解けていき、制服姿に戻るアリス。 もちろんモールモッドの標的はアリスから変わっていない。 アリスに向かって再び鎌が振り上げられる。 アリスは静かに目を閉じた。 また守れないのか。 また失うのか。 もうそんなのはごめんだ。 「スラスターオン!!」 俺はレイガストを握る手を離した。 スラスターで加速したレイガストは一直線にモールモッドに向かっていく。 急接近して来る物体に気を取られたのか鎌の動きが一瞬止まる。 一瞬止まればこっちのものだ。 「旋空弧月。」 俺は勢いよく孤月を振り切った。 斬撃が空を切り、モールモッドの鎌を切り落とした。 鎌をなくしたことに戸惑う様子を見せるモールモッドの隙に追いついた俺は上から下へと孤月を振り下ろしその目を破壊した。 トリオンが溢れ出し、アリスを狙っていた一体目が地に落ちる。 「さっすが、鋼!やるじゃん!」 後ろから聞こえる呑気な声にイラっとして思わず声を荒げる。 「馬鹿か、お前! 何でベイルアウトしなかったんだよ!? 死ぬところだったんだぞ!!」 こんなに怒鳴ったのは久しぶりだ。 本当に死んでしまうかと思った、あの子のように。 すると俺の気持ちを無視するように後ろから聞こえたのは笑い声だった。 「死ぬわけないじゃん。鋼が守ってくれるんだもん。」 俺ははっとして振り返る。 アリスはやっぱり笑っていた。 「ほら、まだたくさんいるよ。ちゃんとあたしを守って?」 生きている。笑っている。 俺はそのことに酷く安心した。 「そんなの…。」 今度こそ守れたんだ、俺は。 「当たり前だろ!!」 雨が降る中、雲の隙間からほんの一瞬だけ光が差し込んだ。 「アリスちゃんー!!何でこんな無茶したのー!!」 来馬先輩達が来た頃には俺は粗方のネイバーを片付けきっていた。 換装が解けた状態のアリスと一般人を見つけて来馬先輩は大泣き。 ともかくアリスの無事を喜んだ。 諏訪さん達の方には那須隊に加えて柿崎隊も応援に来たらしく問題なく片付いたようだ。 「ホントですよ!アリス先輩!俺激おこですからね!」 「え、え〜、マジか。太一。許してよ。」 「許さないです!」 そうだ、許さない。 こんなに俺達に心配かけてごめんごめんで済むわけがない。 アリスの無事は嬉しいが、それよりも無茶をしたことに俺は怒りを感じていた。 「って、鋼も怒ってるの?」 「怒ってる、すごく。」 それが顔に出てたようでアリスは冷や汗を垂らしながら俺の様子を伺ってきた。 今更そんな顔をしてもダメだ。 俺は生まれてこのかたこんなに怒ったことはないってぐらい怒っている。 「えーと。ごめーんね。」 てへっという効果音さえ聞こえそうなその謝罪に俺の中で何かが切れた。 「何だ、それ。」 俺はアリスに詰め寄る。 「俺達が…俺が! どんなに心配したと思ってんだ! 怖かったと思ってんだ!!」 突然怒り出す俺にその場にいた全員が動揺したのを感じた。 それでも俺は自分で自分を止められなかった。 「死ぬかと思っただろ! またいなくなるかと思ったんだぞ!!」 「ご、ごめ…。」 「お前にはわからないんだ! 失うかもしれないっていう怖さが! 何も失ったことないアリスには絶対にわからないっ!!」 そこまで言い切ってふと我に返る。 目の前には泣きそうな目をしたアリスの顔があった。 俺は片手で顔を覆った。 「来馬先輩、すみません、俺先に戻ります。」 「あ、ちょっと鋼!」 俺はそう言って逃げるようにその場を去った。 来馬先輩の呼び止める声も聞かずに。 生きていたのは嬉しかった。 今度こそ守ることができたのも、嬉しかった。 こうやって涙が出るぐらいに。 それでもあの時のアリスが死ぬかもしれないという恐怖は拭えない。 心に染み付いて離れない。 一度失うことを経験しているからなおさら。 言い過ぎたかもしれない。 それでも笑って許せるほど俺もまだ大人ではない。 明日どんな顔して会えばいい? とりあえず作戦室で一人待つ今に相談してみることにする。 Prev | Next ******************************* 2015.6.30 次回遂に最終回。 いつの間にか荒船連載の話数を超えておる。 ちなみに旋空孤月使えるのは私の妄想。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |