ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


運命というのは時に残酷だ。





今度こそ





「暇じゃない、鋼?」

「この暇に限ってはいいじゃないか、別に。」

鈴鳴第一、防衛任務中。
ゲートが開く気配もなく、天気はまあまあの晴れ。
防衛任務の最中の暇とはつまり平和ということで、もちろんその方が有難いのだ。
それでもアリスは暇だ暇だとのたうちまわって、瓦礫の上に寝転がってゴロゴロしている。
確かにここ連日はネイバーも現れていないからアリスの言い分もわかる。
でも平和ならそれはそれでいいじゃないかと俺は思う。

「来馬先輩を見習え。
ほら太一と訓練してるじゃないか。」

そう言ってアリスは俺の指差す方向に視線を移す。
その先では来馬先輩と太一がちまちまと戦闘訓練をしていた。
空いた時間をうまく使って2人の連携の練習をしているのだ。

「じゃあ、鋼。あたしと闘う?」

「それは嫌だ。」

「ほら!」

アリスと俺は同じトリガーを使うアタッカー。
俺達も任務中の空いた時間で戦闘訓練をしていたが、アリスはこういう実地訓練をすると妙に熱が入ってしまうようで途中から訓練も忘れて本気で切りかかってくる。
だから空いてる時間があっても相手をするのをやめた。
任務どころじゃなくなるから。

「何よ、それー。あー、暇。」

アリスは頬を膨らませて寝返りを打つ。
空は次第に曇ってきていた。





突然だった。
防衛任務も終盤に差し掛かる頃、街中にサイレンが鳴り響いた。
ゲートが発生したんだ。

「来馬先輩!」

俺とアリスは音を聞くや否や、来馬先輩と太一の元へと駆け出した。

「鋼、アリスちゃん!南西方面にゲートが発生したらしい、現場に…。」

来馬先輩がそう言って駆け出そうとした時、先輩の顔色がさっと青くなった。
インカムの向こうから届く言葉。
それを信じたくなかったんだと思う。

「ゲートが…複数発生?」

俺も信じたくなかった。

「マジですか!他の隊の人いないんすか?!」

そう言ったのは太一だった気がする。
心臓の音がやけに煩くて周りの音が聞こえない。
ただこの後来馬先輩が言う言葉が、想像しているものと違っていてくれとただ願うしかなかった。

「今ちょうど交代の合間で近くには僕達しかいないらしいんだ…。」

だが運命とは本当に残酷だ。
更に悪いことにさっきまでの天気が急変し、雨が降り出した。

ゲートの複数発生する中、俺たちしかいない現場、降り出した雨。
何の冗談だ。全く同じじゃないか。

1年前のあの日と。

俺の脳裏にあの日の情景がフラッシュバックする。
むせ返るような雨と、それに紛れる血の匂い。
それから土気色の肌。
あの子の両親や友達の泣く声。

『ごめんね、鋼くん。助けに来てくれてありがとう。』

そしてあの子の最後の言葉。

「…う。鋼!」

「!!」

俺は来馬先輩に肩を掴まれ意識を現実に戻した。
来馬先輩のやり切れなさそうな、悲しそうな顔が瞳に映る。

「鋼、大丈夫。落ち着いて。」

来馬先輩に言われるように、俺は深く息をした。
頬をペチペチと叩き、気持ちを持ち直す。

「よし。3人とも現場に向かうよ!今は僕たちしかいないんだ。ネイバーを食い止めなきゃ!」

来馬先輩はそう言って走り出した。
それに続いて俺達も走り出した。

「今ちゃん、状況をみんなに送って!」

『了解です。』

今からデータが届き、頭の中を流れていく。
ゲートは3つ発生。現れたトリオン兵は全部で10匹。
思ったよりも多い数に思わず顔を歪める。
諏訪隊と那須隊が向かっているらしいが間に合うかは微妙なところだ。

「まずいね、このままだと数匹警戒区域から出ちゃうよ。しかも嫌な開き方。」

アリスがボソリと呟く。
そう、アリスが言っているとこは正しかった。
南西方面で開いたゲートの内2つは警戒区域からさほど遠くなかったからだ。
つまり二手に別れなければ厳しい状態だったんだ。

「…。」

来馬先輩もそれはわかっているはずだ。
でもそれをすぐに指示出せないのは迷っているからだ。
どこまでも1年前に似ているこの状況。
自分の目の届かないところに俺達の中の誰かをやるのはやはり不安なんだろう。

「来馬先輩、二手に分かれましょう。」

「鋼!」

俺は来馬先輩に言った。
それに一番驚いたのはもちろん来馬先輩だった。

「でも…。」

「俺なら大丈夫ですから。」

そう言って笑ってみせたつもりだったが、きちんと俺は笑っていただろうか。
来馬先輩は一度キュッと目を閉じて、その後こう言った。

「二手に分かれるよ!太一は僕と南西ゲート1の方へ。鋼とアリスちゃんはゲート2へ!」

「「「了解!」」」

そうして俺とアリスは来馬先輩達と分かれて現場へ向かった。

雨は酷くなっていた。





「村上、桐島、現着。ネイバーを駆除します。」

『了解!来馬、別役も現着!』

二手に分かれて間も無く、俺達も来馬先輩達もそれぞれ現着した。
こちらを見上げる複数の大きな目。
俺とアリスは孤月を構えた。

「モールモッドとか楽勝よ。」

「油断するな、アリス。まだ何匹かいる。」

最初に告げられた10匹という数からその数は確実に増えていた。
移動中にもゲートが発生して増えたのだ。

「鋼、そっち行ったよ!」

「任せておけ。」

あの日と何から何まで一緒で嫌になる。
くらりと襲い来る目眩と嫌悪感に耐えながら俺はアリスとネイバーの数を確実に減らしていった。
そしてようやく終わりが見えた頃。

ウーーーー

『ゲート発生、ゲート発生。』

再びゲートの開門を告げるサイレンとアナウンスが流れた。
ああ、ホントに。今日はなんて日だ。

ゲートから再びネイバーが溢れ出す。
その光景を見て俺は今に連絡を取る。

「今、状況は?」

『鋼くん達のいる方に新たなゲートが3箇所発生。
来馬先輩達の方にも2箇所発生。
でもそっちは諏訪隊が到着したから来馬先輩達が直に来るわ。あと少し2人で耐えて。』

今の声が少し震えているのがわかった。
今も思い出しているんだ、あの日のことを。
そうだ、俺だけじゃない。
みんな思い出してるんだ、あの日のこと。
あの子とさよならをすることになった雨の日のことを。
でも大丈夫だ。来馬先輩達は無事だ。諏訪さん達も来てくれた。
あの日と同じになんかならない、絶対に。

「鋼!」

「!」

アリスの呼び声にふと我に返った。
それからアリスからされた提案に俺は不安を掻き立てられる。

「鋼、二手に別れよう。あたしはあっち側のゲートに行く。鋼は…。」

「なっ、馬鹿言うな!来馬先輩達がもうすぐ…。」

「馬鹿言うなはこっちのセリフよ!マップ見てないの!?来馬先輩達が来る前に警戒区域を突破されちゃう!」

アリスの言う通りだった。
マップに散財するネイバーの反応が警戒区域と居住区の間に近い。
しかも同時に複数箇所だ。
来馬先輩達が来るのにはまだ時間がかかる。
モールモッド相手なら俺とアリスが分かれてそれぞれ駆除しにいった方が確実だ。

「あの方向には学校もある。
それに確かポカリとてっちゃんの家もあっちだったはず。」

アリスが正しい。
早く行って守れるだけのものを全部守る。
そうするのが俺達の役目だ。
それでも…。

「お前を1人にさせたくない。」

今俺はどんな顔をしているだろうか。
情けない顔、見られてもいい。
弱虫だってなじられても、構わない。
それでも今、今日、この日、この瞬間。
何が起こるかわからないのに、アリスを目の届かない場所に送り出すなんてできない。

「…。」

アリスは俺のそばに来て頬に手を添えた。
繋いだ時と同じ温もりが伝わる。

「鋼、ありがとう。心配してくれて。
でもあたしは行く。守れるだけのものを守りに。」

そう言ってアリスは笑うと先ほど指差したゲートの方へと向かって走って行った。
守れるだけのものを守りに。
俺は孤月を握りしめた。

「今、アリスの方をサポートしてやってくれ。」

『馬鹿言わないで。2人ともしっかりサポートするわ。』

今の力強い返事に俺もゲートに向かって走り出した。
そうだ、俺が早く片付けてアリスを追いかければいい。
それだけのことだ。
あの日とは違う。俺も強くなった。
今度こそ守りたいものを守ろう。
そうだ、あの日とは違う。
アリスはあの子と違ってベイルアウトも使える。

万が一なんてありえない。

「5分で片付ける。」

俺は群がるネイバーの群れに向けて孤月を振るう。
今度こそ大事なものを守るために。










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2015.6.28
いよいよ最終局面です。
村上くん、頑張れ。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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