ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


未だに染み付いて離れない





手に馴染む温もり





『俺、ボーダーに入ろうと思ってるんだ。一緒に試験受けないか?』

『え?ボーダーに。』

『身体が弱くても資質があれば誰でも強くなれるらしいんだ。どう?』

『…鋼くんがやるならあたしも受けてみようかな。』

あの時俺なんかが誘わなければ。

『おお、すごい!健康な子になったみたいだな!』

『本当だわ、こんなに嬉しいことはないわ。』

『ありがとう、お父さん、お母さん!』

あんなことにはならなかったんだ。





「っ!!!」

夜中に俺は悪夢にうなされて目を覚ました。
最初はそう、幸せな、そんな夢だった。
でも途中から突然。突然ドス黒い色のペンキを撒かれたような。
ともかく最終的には最悪な夢だった。
夢の中での急激な変化に耐えきれず俺はがばりと体を起こした。

「はぁ、はぁっ!!」

汗がすごい。
そんなに暑い夜ではないのに身体中がベトベトだ。
ふと握る手に走るぬめりとした感触。
俺はその感触に慌てて両手を見た。
すごい、手汗だ。だが俺はそれが手汗であることに逆にホッとした。

「はぁ、はぁ、はぁ。…よかった。」

俺は枕元に置いてあるタオルで手や顔を軽く拭く。
手に走るこの感触。

血じゃなくて本当によかった。

俺は再び布団の上に横になる。
時計を見ると夜中の2時。
朝まではまだまだ時間があるが、こんな気分で眠れるわけがない。

「はぁ…。久しぶりにヤバかった。」

俺は先ほど拭いたばかりの手をもう一度拭く。
こうしていないと落ち着かない。
あの日手に残ったあの子の血の感触や温かさが未だに残っていそうで。
拭っても拭ってもこびりついているような感覚がする。

「…シャワーでも浴びてくるか。」

どうあっても眠れそうにないので、この気持ち悪いままの体をせめて流そうと俺は浴室に向かった。





「うっわ、鋼。酷い顔。」

「その前におはようとか言えないのか、アリス。」

朝学校の下駄箱で早速アリスに会った。
だがアリスは開口一番、俺の顔を見て怪訝な顔をした。
ただでさえいつも眠そうな顔だと言われているのに今日は更に眠そうな顔をしているんだろう。
自分で言うのもなんだが自覚がある。

「いや、ちょっと待ってよ、マジで心配するぐらいの顔してるよ?」

「そんなこと、ないだろ。」

「ほら、変に片言だし。喋り方ポカリみたいになってるよ?」

「それは、嫌だ。」

「もうダメだ、手遅れ、鋼。これは保健室直行コース!」

アリスは俺の手を掴むと保健室に向かって歩き出した。
途中今に会って同じことを言われる。
今が言うなら間違いないかと思い、俺は素直に保健室へと向かった。

「悪いな、みんな。」

「気にするな、村上。」

最後の最後に穂刈も加わって、保健室のベッドに横たわる俺を3人が囲んだ。
俺どんだけ周りに心配かけてるんだよ。

「大丈夫だ、そろそろチャイム鳴るぞ。」

「また様子見に来るね、鋼くん。」

そう言って3人はぞろぞろと部屋から出て行く。
戸の閉まる音をカーテン越しに聞きながら俺は目を閉じた。
今日は天気も良く、窓から入って来る風が気持ちいい。
俺は目を閉じるとすぐに意識を手放した。





『来馬先輩、俺が行きます!』

『頼むよ、鋼!』

雨が降っている。
この光景は何度も見た。
ああ、また、俺はこのまま失うところを見なくてはいけないのか。

『鋼くん、大変!!さっきから通信が繋がらないの!トリオン反応もない!』

『!!くそ、どこだ!!』

あの日はゲートが複数同時に開いて運の悪いことにその近くに配置されている隊は俺達鈴鳴第一だけだった。
必然的に二手に分かれてそれぞれがネイバーを排除して行った。

『うわぁぁん、うわぁぁん!』

『怖いよぉー!!』

『何で一般人がっ!!?』

そうだ、何もかもこの日は運が悪かった。
ゲートが複数開いたことも、そこに俺達しかいなかったことも、こんな日に限って一般人が警戒区域に入ってきていたことも。

何もかもが最悪だったんだ。

『逃げなさい、早く!ゴホ!』

『馬鹿野郎!!お前も早く逃げろ!!』

あの子が一般人を見捨てることができるわけがない優しい子だったことさえも。

『−−−−−−っ!!!』

今にして思えば全てが初めから最悪だったんだ。





「どうして…。」

「?起きたの、鋼??」

俺がうっすら目を開けると目の前にアリスがいた。
ぼやける視界は俺が泣いていることを教えてくれた。

「どしたの、怖い夢でも見た?」

覗き込むアリスは泣いている俺に何も言わずただ心配そうに俺の頭を撫でた。
泣いている俺を見て何も言わないアリス。
いつもならからかってきそうなものだが、そんな様子はない。
まして俺のことをこんなに心配そうに見てくるはずがないと、俺は何だまだ夢を見ているのかと思いまた目を瞑った。

「鋼!?」

俺は頭を撫でるアリスの手を取り指を絡める。

「こ、鋼!?ちょっとどうし…。」

アリスが顔を赤くしてあたふたしているのが視界の隙間から見えた。
こいつがこんな反応するはすもない。
俺はやっぱり夢だと思い、意識を手放した。

「…ん。…なくて。」

「え?」

意識を手放すその瞬間。

「ごめん…。守れ、なくて…。」

最後に一言そう呟いて。





「平気か、村上。」

「ん、んん。穂刈?か。」

「昼だぞ、もう。」

俺はそう言われて体を起こした。
午前中まるまる寝ていたみたいだ。
俺が起きて顔をこする仕草を見て、穂刈は安心したような顔を見せた。
カーテンから顔を出して先生に俺の覚醒を告げる。

「村上くん、おはよう。どう、気分は?」

カーテンを少し開けて保健の先生が顔を出した。

「大分ましです。すみません、午後は授業に出れますので。」

「そう、よかった。」

先生は俺の顔を見て問題なさそうだと判断すると、そう言ってまたカーテンを閉じた。

「あ、そうそう。
桐島さんにお礼言っておくのよ。
休み時間の度に君の様子を見に来てたんだから。」

「あ、はい。」

アリスが来てた?

「心配してたぞ、桐島。」

「あ、うん。」

あれ、もしかして。
俺の米神をつ、と汗が一筋流れる。

「どした、村上。」

「何でもない。」

ああ、これはもしかしてもしかしなくても。

『どしたの、怖い夢でも見た?』

あの時の優しい言葉、心配そうな声、不安に歪んだ表情。
あのアリス、夢じゃなかったんだ。

「どした、村上。気分悪いか、やっぱり。」

「何でもないって。」

俺は両手で顔を覆った。
ヤバイ、超情けないとこ見られた。
泣いてたよな、俺。
あれ、しかも俺アリスの手握ってなかったか?
思い出せば出すほどまずい。
そして顔が熱い、恥ずかしい。

そう思っているとガラガラと扉が開く音がしてアリスが入ってきた。
相変わらずのタイミングの悪さだ。

「あら、桐島さん。村上くん、起きたわよ。」

「あ、ありがとうございます、先生ー!」

そう言って断りもなくカーテンが開けられる。

「鋼、おはよ。お、顔色良くなったね!」

「あ、ああ。」

何となく顔を見ることができずふっと少し逸らす。

「ポカリと鋼の分のパン買ってきたよ!結花にも言ってあるし、屋上でみんなでご飯食べようよ。」

「サンキュー、桐島。」

「鋼、起きられる?」

「あ、ああ。」

俺はベッドから立ち上がり制服を正す。
ワイシャツがよれよれだが仕方が無い。
ベッドの布団を適度に直すと2人に続いて保健室を後にした。

アリス、普通だな。
やっぱりあれは夢だったのか。
屋上まで行く途中、アリスからは俺が寝ていた時の話題は一切でなかった。
食べている間も、午後の授業の間も、鈴鳴に行くまでの間も。
一切何も言ってこない。

やっぱり夢だったのか?

任務が終わってから家への帰宅途中。
俺はアリスと家の方向が一緒だからという理由で、夜が遅い時はアリスを家まで送るよう来馬先輩に言われている。
(ちなみに今は来馬先輩と太一が送って行く。)

「なあ、アリス。」

「何?」

アリスの家の前に差し掛かった時、俺は思い切って本人に聞いてみた。

「今日午前中さ、休み時間様子見に来てくれてたんだろ?その時さ…。」

そこまで言うと前を歩くアリスがぴたりと足を止めた。
俺はん?と思いながらもそのままアリスを追い抜かして振り返る。

そして。

「な、何もなかったし!じゃあね!」

「あ、おい!」

アリスはそう言うと一目散に自宅の中へと逃げて行った。
その時の表情は夢だと思っていたあの時の表情と同じで赤く染まっていた。

「あー、これは…。」

やっぱり夢じゃなかったか。
アリスのアホ。そんな態度だったら何かありましたとしか思えないだろ。
俺はもしかして自分の記憶にない部分で更に何かしでかしたのだろうか。
まあでもあの様子じゃそれをネタにからかわれることはなさそうだ。

「…。」

俺はアリスの手に絡めた方の自分の手を見た。
あの時、何故そんなことをしたのか、それはわからない。
でもどうしようもなく安心した感覚があった。
そうだ、あの後は悪い夢も見ていない。

俺はそっと手を握りしめた。
残っているわけないのに、何故かアリスの温もりが手に馴染んだ気がした。










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2015.6.19
お互いがお互いを認識した、か?

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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