ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


少しづつ日常に色がついていく。





何でもない日常





『鋼、お前変わったな。』

「え?」

高校の昼休み。
穂刈と2人で屋上でご飯を食べていると、ディスプレイの向こうの荒船が不意にそんなことを言った。
荒船は高校が違うんだけど、昼休みは穂刈と任務の打ち合わせをしながら食べることが多いからテレビ電話しながらご飯を食べることが多い。
屋上で一人電話に向かって話しかけながら食べている荒船の姿を想像すると何だか少し寂しいが荒船はそういうことあまり気にしない。

「そう思う、俺も。」

荒船の言葉に穂刈も首を縦に振る。
俺は最近の自分を振り返り、心当たりを探る。
そんなに何か変化があっただろうか。

「そうかな?」

『いや、前に戻ったって言った方が正しいのかもな、お前の場合。』

荒船はそうやって嬉しそうに笑う。
そこで俺は先日お墓参りに行った際の来馬先輩の表情を思い出した。
似てる。いや、来馬先輩はこんな目つき悪くないけども。
荒船も穂刈も心配してくれていたのかと思い俺は頭を下げた。

「悪い、心配かけてたみたいで。」

「気がついたか、今頃。」

『全くだ。まあ許すけど。』

俺はこの1年ふさぎこんでいたので周りがどうにも見えていなかったらしい。
毎日一緒にいた友達がこんなにも心配していてくれたことにさえ気がつかなかっただなんて。

『あいつのおかげか?』

「…別に。」

荒船の言う"あいつ"と言うのが誰かはもちろん心当たりがある。
少し前に鈴鳴にやってきた桐島 アリスのことだ。
アリスのおかげで俺はお墓参りにみんなで行くことができた。
その日からは何だか体の調子もいい。
夜も前よりはよく眠れる。
感謝もしてる、礼も言った。
だがこうやって他の人に言われると何となく意地を張ってしまい素直に認められない。

「おーい、鋼ー!」

そんな時にタイミング悪く、本人が屋上にやって来た。

「あ、てっちゃんとポカリも一緒だったんだ!」

そう言って俺達の方に駆け寄ってくるアリス。
荒船は途端に眉間に皺を寄せた。

『おい、桐島。その呼び方いい加減やめろ。』

「えー、何で!てっちゃんかわいいじゃん、てっちゃん!」

「俺もそう思うぞ、てっちゃん。」

『鋼、てめぇ。』

俺はさっきの仕返しとばかりにアリスにのっかる。
アリスがこういう人の言うことを全く聞かない性格だと言うのはもうわかった。
荒船がどんなに毎日言い続けても、きっとアリスは荒船のことをてっちゃんと呼び続けるに違いないことも。

「つれないなー、てっちゃんは。
ねえ、鋼?今日支部行く前にさ買い物に付き合ってほしいんだけど!」

「別にいいけど。」

「やった!てっちゃんとポカリも一緒に行かない?」

「悪いな、行けない。防衛任務なんだ、14時から。」

『俺はてっちゃんじゃない。』

「そっかー、残念!また行こうねー、ポカリ、荒…てっちゃん!」

『何で言い直すんだよ!今間違ってなかっただろ!』

不思議な光景だ。
アリスはまだここにきて3ヶ月ぐらいしか経ってないはずなのに、もう何年も前から知っているような、そんな馴染み方だった。
あの子が生きていたころもこうやってみんなで屋上でご飯を食べていた。
その時の感覚と似ている。
でもあの子はこんなに騒がしくなかった。
それなのにどうしてか、懐かしくて暖かい気分になる。

「鋼、放課後掃除終わったら迎えに来てね!」

「そこはアリスが来いよ。」

「そんなこと言わない!じゃ、放課後ねー!」

嵐のようにやって来て、風と共に去って行くアリス。
アリスが去った後の荒船のげっそり加減がかわいそうに見える。

『あいつ人の話聞けよ…。』

「荒船、それは無理な話だよ。」

ディスプレイの向こうでやれやれと眉間に手を当ててため息を着く荒船に笑う。

『まあ、いっか。』

荒船はじっと俺を見ると一言呟いた。





「あ、鋼。迎えに来てくれたんだ!」

「迎えに来いって言ったのはアリスだろ。」

言われた通りに教室に迎えにいくと、アリスはちょうどカバンに教材を詰め終えたところだった。

「じゃあ早速行こう!」

そう言ってアリスに連れていかれたのは街角にある小さな雑貨屋だった。
昔からそこにあった、そんな感じのするこじんまりして可愛らしいお店だった。
そしてここはあの子とよく通った店でもあった。

『鋼くん、見て。このオルゴール可愛いよ。』

店の前に来て立ち止まる俺にアリスは首を傾げる。

「どしたの、鋼?」

「いや、何でもない。」

俺は脳裏によぎる彼女の笑顔を振りほどくように首を振ると店の戸をくぐった。
中は相変わらず静かで、客も少なかった。
年老いた店主がロッキングチェアに揺られている。
変わっていないなと見ているとふっとその店主と目があった。
どうやらその店主は俺のことを覚えている様子で、昔そうしてくれたように俺を手招きすると俺の手に飴玉を2つ握らせた。
味はイチゴとレモン。これもまた昔くれたものと同じだった。
俺は頭を下げるとアリスのそばに戻る。

「あ、鋼。何か話してたの?」

「別に。」

アリスが見ていたのは2つの色違いの写真立てだった。
どちらもなかなか良い色でどちらを買うか迷っている様子だった。

「この間出てきた写真、飾ろうと思って。」

アリスはそう言って両方を手にとって見比べた。

この間の写真とは大掃除の時に出て来たあの子が写った写真だろう。
来馬先輩がロッカーにしまっているらしいが、それを飾ろうということらしい。
一瞬だけアリスは伺うように俺のことを見た。
多分アリスの中で写真を飾るのは決定事項なんだろうが、それでも一応俺に気を遣ってくれたらしい。
俺は特に何も言わなかった。

「どっちがいいかな。」

雲のように真っ白な写真立てと、晴れ渡る空のように鮮やかな水色の写真立て。
それは2つで1つのような、そんな品だった。
いつまで経っても悩むアリスに俺はこう言った。

「両方買えばいいだろ。」

「え?」

俺はアリスの手から両方の写真立てを取り上げるとレジに置いた。
店主は嬉しそうに微笑んで丁寧にそれらを包装する。

「もう一個にはこれから俺達で撮った写真を入れればいいだろ。」

そう言ってアリスの方を振り返ればかなり驚いた表情をしていた。
でもそれはすぐに笑顔に変わった。

「それすごく名案だね、鋼!」

綺麗にラッピングされた写真立てを持って支部へ行く。
アリスが来馬先輩に写真の件を伝えると来馬先輩はまた泣いて喜んでくれたことは言うまでもない。










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2015.6.15
ちょいとほのぼの挟んでみました。

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