ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


静かだった日常があっという間に散らかっていく。





一歩踏み出す





「おりゃー、太一!覚悟!」

「そうはいきませんよ、アリス先輩!」

「…。」

おかしい、今日は鈴鳴支部の大掃除の日だというのに。
片付けた先から散らかっていくのは何故だ。
答えは簡単だ。桐島と太一がモップでチャンバラごっこをしてるからだ。
来馬先輩、今。早く帰ってきて(2人は今買い出し中)

「ねえ、鋼。鋼もやろうよ。」

「やらない、さっさと掃除しろ。」

「つれないなぁ。」

俺が冷たくあしらうと、桐島は渋々掃除を再開した。
こいつ本当に18歳の女子か。
今、ともかく早く帰ってきてくれ。

俺達は黙々と掃除を続けた。
鈴鳴支部はこうやって何ヶ月かに一回大掃除をする。
大きな支部ではないが、そうは言っても広いので各所各所をローテーションで掃除して行く。
今日はロビーを中心に大掃除だ。
桐島は掃除をやり始めるとすごく集中していた。
多分やり始めるのにパワーがいるだけで、始めてしまえば力を発揮するタイプなんだろう。
戸棚の裏とか、俺達が普段大掃除でやらないようなところにまで手を出していた。

「あれ、何これ。」

戸棚の裏で何か見つけたようで桐島は手を伸ばしてその物を引き上げた。
手にしていたのは小さな紙切れ。
太一が覗き込んで慌てて桐島からそれを取り上げた。

「アリス先輩、これダメなやつ!ダメなやつですから!!」

「あ、ちょっと太一!返してよ、まだ見てないんだから!」

その一枚の紙切れを巡ってまた2人が取っ組み合いを始めた。
おいおい、また散らかってるぞ。
俺はしばらく見守っていた。
するとしばらくしてその紙切れの方が嫌気がさしたのか、2人の喧嘩に飽きたのか、するりと2人の手から逃げ出し俺の方へと飛んできた。
俺はそれをすっとキャッチして中身を見た。

ああ、ダメなやつってこういうことか。

紙切れは一枚の写真だった。
来馬先輩、今、太一、俺、それからもう1人女の子。

「あ、こ、鋼さん!ダメダメ!」

太一は先ほど桐島から取り上げたように、俺の手からも写真を取り上げた。
こちらを心配して伺うように見上げてくる太一。
太一にこんなに心配をさせるだなんて、俺はダメな先輩だな。

写真、まだ残ってたのか。

「鋼さん?」

「太一、俺ちょっと休憩してくる。ちゃんと散らかしたの片付けておけよ。」

俺が太一の頭をぐしゃりと撫でると、太一は小さくはいと返事をした。
後ろにいる桐島は不思議そうな顔をして見ていた。
俺は頭に巻いていた三角巾をするっとほどいて太一に預けると支部から外へ出た。
入れ違いになるように来馬先輩達が帰ってきたのは気がつかなかった。





河原に座り込み、眠るように目を閉じた。
写真一枚見ただけでこのザマだ。
1年も経ってるのに情けない。
もう忘れなきゃ、前に進まなきゃ。

死んでしまった人のことなんか忘れて生きていかなきゃ。

頭の中ではそういう自分がいるが心がどうにも追いついてくれない。
来馬先輩に、今に、太一に心配かけて。
俺はいつまで立ち止まっているつもりなんだろう。

「鋼!」

俺を呼ぶ声にはっと目を開ける。
声の方を振り返るとそこには桐島が立っていた。
手には何やら食べ物が入ったビニール袋を持っている。

「ホントにいた。すごい。来馬先輩の言うとおり!」

桐島は河原を駆け下りてくると俺の隣に腰を下ろした。
そして袋からペットボトルのお茶を取り出して俺に手渡す。

「何か、さっきはごめんね。知らなかったとは言え、あまり思い出したくないこと思い出させちゃったみたいで。」

桐島は続けておにぎりをいくつか袋から取りだした。
何だかいつになく優しい桐島に俺は違和感を覚えた。

「これ、来馬先輩と結花が買ってきてくれたやつ。これ食べてちょっと休憩したらさ、戻って掃除の続きね!まだ終わってないんだから。」

「…遊んでたクセによく言うよ。」

俺は桐島にもらったおにぎりの封を切る。

「あ、やっと笑ったね、鋼。」

「え?」

俺は自分の頬に手をやる。
笑ってた?俺が?今?

桐島に?

「会ってからさ、ずーっと仏頂面だったじゃん!しかも笑っても何かさ泣いてるみたいだしさ。」

「何だよ、それ。」

「ちょっと今馬鹿にしたでしょ。」

「…してないって。」

「じゃあ今の間は何よ!」

桐島も笑っておにぎりの封をあける。

その笑った顔を見て何故だかその時は胸がすっと軽くなった。
何だよ、案外優しいじゃないか。
俺は桐島への印象を改めた。

「忘れなくてもいいんじゃない?」

不意に桐島が言う。
どうやら来馬先輩達が事情を話したらしい。

「あの写真の女の子、あたしが鋼に会った日にお参りしてた子でしょ?」

俺は黙って口を噤む。
桐島の言っていることは当たっている。
さっき戸棚の後ろから出てきた写真に写っていた女の子は、俺がお墓参りしていた子と同一人物だ。
1年前に死んだ。

いいや、俺が殺したも同然だ。

「ねえ、今度あたしをその子に紹介してよ!」

「は?!」

「だってこの間雨降ってたし、鋼すぐ帰っちゃったじゃない。きっとその子も寂しがってるって!来馬隊のみんなで行こうよ!」

俺を励ます桐島の言葉は、今まで俺に声をかけてくれた人達のどの言葉とも違う気がした。
お墓参りだなんて、昔を思い出してしまうからできるだけ行きたくなかった。
1年経ってやっと1人で行けたぐらいだと言うのに。

それなのに桐島の提案は悪い気はしなかった。
それどころか、ああ、いかもな。と思った。

「お前なんか連れてったらうるさいだろ。」

「はあ?!ちょっと失礼!」

「はは、悪い悪い。」

俺はそう言っておにぎりを喰む。
白米好きの俺は塩おにぎりが好物だ。
来馬先輩も今もさすがわかってる。

「そうだな。行くか、みんなで。」

俺がぼそりとそう呟けば桐島は満面の笑みを見せた。

「やった!あ、じゃあ今から行こうよ!」

「はっ?!」

「掃除終わったらみんなで行くの!ほら、そうと決まったらさっさと食べて!行こう!!」

「お、おい!」

桐島は食べかけのおにぎりを持ったまま立ち上がった。
仕方がないので俺もおにぎりを持ったまま立ち上がった。

「鋼、早く!」

ああ、何だろう、この気持ちは。

『鋼くん、ほら、早く!』

控えめに俺の腕を引くあの子とは大違いだ。
それでもやっぱり嫌な気はしない。
むしろ懐かしい感覚でいっぱいだ。

「やれやれ。」

その時ざっと吹く風に誘われて空を見上げると、空は雲一つなく晴れ渡っていた。








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2015.6.7
少しずつ前に進みます、村上くん。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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