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少し休憩挟みますか





諏訪隊長の口述記録





突然だが俺には可愛がっている後輩がいる。
名前はアリス。ポジションは俺と同じガンナー。
こいつが入隊してきた時の初回の訓練教官が俺と堤でその時からなんとなく懐いてくるこいつを、俺はなんとなく構うようになった。

こいつはよく俺達のところに来て銃の扱い方について学んで行った。
アリスはハンドガン型でしかも二丁拳銃。
対して俺たちは散弾銃型。
勝手が違うから何か足しになるのだろうかと思いつつ、それでもアリスが寄ってくればきちんと教えてやった。

ある日、あいつが中3の夏。
やたらぼーっとしてるアリスが珍しくて、どうかしたのかと問うと、なんと恋をしたかもしれないとのたまうわけだ。
俺は飲んでいたコーヒーを思わず吹き出してしまったのを覚えている。
もちろんアリスに怒られた。

何でもその日の警戒区域内での任務の際に、一般人が迷い込んでいたそう。
その男はアリスが記憶の消去の話をした途端逃げ出してしまったらしい。
トリオン体は生身と違って機動力が抜群にあがる。
どんなに足が速くても、アリスは追いかければ捕まえることができただろう。

でもアリスは追いかけなかった。
いや、きっと追いかけたくなかったんだ。
目の前に現れた男に惹かれて、でもその男の記憶を消さないといけないだなんて。
どこの誰かもわからないけど、お互い記憶があればもう一度会えると。
そんなロマンチックなことをアリスは信じていた。

「まあ、頑張れや。」

その時はその程度の応援しかしなかった。





その次の秋、奇跡ってのが起こってアリスはその恋の相手と再会する。

『ようこそ、ボーダーへ!歓迎するよ、映画オタクくん♪』

なるほどあれがアリスの王子様か。
入隊式をアリスが見に行くと言っていたのを思い出して俺もそれを見に行った。
そこで初めて荒船と言う男を見た。
目つき悪ぃし(人のこと言えねぇけど)、帽子深く被って何考えてるかわかりゃしねぇ。

そう思って様子を伺っているとすぐにわかった。

(何だ、あっちもお姫様に会いたかったのかよ。)

楽しそうに話すアリスと荒船。
その様子から荒船がアリスに会うためにここに来たのは一目瞭然だった。
案外すぐにハッピーエンドになりそうだと、俺はその場から静かに立ち去った。





が、こっからこの二人がじれったいのなんのって!!

傍から見たらどう考えても両想い。
雰囲気、関係性共に申し分ない。

な・の・に!

いつまで経ってもあの2人が付き合い出したと言う話は入って来ず、あっという間に3年だ。
3年だぞ?3・年!!

思い返せば出会い方がまずかったのかもしれない。
いや、出会ったのはいいんだが、お互いがまず再会するのを目標にしちまったために入隊式でまた出会えたことに一度満足しちまったんだと思う。
俺はこれがいけなかったと思う。
そこからいい友達の関係が続いてお互いが踏み出せなくなった。
そうしてる内に3年という長い月日が経っちまったんだ。

だがアリスはそれを良しとしてなかった。
いや、多分荒船も良しとはしてないと思うんだけども。
高3にあがってから俺のところにちょくちょく荒船のことを相談しに来た。
どうすれば先の関係に進めるか。
そんなの告白すればいいだけだろと言うと、無理無理無理無理!とものすごい勢いで怒られた。
これで告白して、

『アリスとはいい友達でいたいんだ。』

なんて言われたら立ち直れないとのこと。
もう本気で言ってんのかよ、こいつ…。
そういう話をしている時に限って荒船が通りかかる。
俺がいつもみたいに荒船のところに行かないのか?と尋ねると、そんなのあからさまだからしないと言う。

どの口が言うのそれ。

お前この間東さんとかと話してる時も普通に荒船のとこ行ってただろう。
どうも荒船を見つけたら駆け寄ると言うのはアリスの中でも無意識的な行動らしい。

そんなこんなでアリスの相談に乗ってきたが、いつまで経ってもウジウジと動かないアリスにデートに誘えと命令。
穂刈と半崎に根回しして、荒船がアリスのところへ来るように仕向け、そこでアリスが自然と映画に誘う。

これが俺の作戦だった。





作戦は成功。
映画にはうまく誘えたみたいで、報告のメッセージが来た。
ようやくこれで先へ進みそうだと思っていた。

でも俺がドジ踏んで関係を悪化させちまった。

たまたま買い物の用事があって三門ショッピングモールに行き、デート中の2人に遭遇してしまう。

ここでの俺の失態は2点。
まず翌日いきなりデートするとは思ってなく、三門ショッピングモールに出かけてしまったこと。
出かける日も報告させればよかったとひどく後悔した。

それから荒船があんなに嫉妬深いと思っていなくて、駆け寄って来たアリスについいつも通り接してしまったこと。
別れた後、荒船の様子がおかしかったことが気にかかり追いかけると案の定。
1人で佇むアリスがそこにはいた。

「おい、アリス!」

「諏訪さぁん…。」

呼びかけるとボロボロと泣きながらアリスは振り返った。
あー、俺、これやっちまったなと心底後悔した。

「荒船くんに嫌われちゃったよー!!」

「どわぁ!待て待て!俺で鼻水吹くな!ってか泣き止め、俺が泣かせたみたいだろ!ほら、お前の好きなハンバーグ食いにいこうぜ!」

顔ぐしゃぐしゃにして俺にすり寄ってくるアリスを引き剥がして、なんとか落ち着かせてハンバーグを食いながら話を聞いた。
荒船はいつも冷静だった。
何があっても事態に動じず、正しい判断のできるやつだった。
だがこと恋愛に関してはそうでもないらしい。
俺は完全に見誤った。





翌日荒船隊作戦室にて。

『お前は他にしないといけないことがあるだろ?』

俺が蒔いちまった種なんだ。
だったらせめて、2人が仲直りしてその先に進めるよう背中を押すのが筋ってもんだ。

『そんな様子じゃアリスもらっちまうぞ?』

そうやってほんの少し煽ってみれば。

『アリス、俺のなんで。』

一丁前なこと言いやがる。

『…だったらさっさと行けよ。』

一目散に出て行く荒船。
その表情を見て安心した。
今度は大丈夫そうだ。
そうだな、次ダメだったら本当に…いや、何でもねえ。





以上、口述記録おしまい。










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2015.5.30
最終回行く前の閑話。
諏訪隊長の記録です。

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