ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


負けた、負けた





風の刃を君に





ボーダー基地の屋上、俺は寝転がって空を見上げていた。
青くて清々しい、というのとは程遠い残念な曇り空。
雨でも降り出してきそうな、そんな天気だった。

「雨降ってくるって天気予報で言ってたよ。」

そんな中屋上で寝ている俺を心配してかアリスがやってきた。
俺は短くそうかと呟くとそのまま目を閉じた。
そしてそんな俺の態度がわかっていたのか、アリスは俺の隣までやってきて座り込んだ。

「コテンパンだったね。」

「まあな。」

今日本部では風刃争奪戦が行われた。
俺もそれに参加をしていたが迅さんにあっという間に負かされてしまったのだ。
俺の孤月もまだまだだということだ。

「どうして争奪戦に出たの?」

「別に。」

特に深い意味はない。
そういうつもりで言ったはずなのにアリスは小さくありがとうと言った。

俺はB級中位というランクだったが、孤月の個人ポイントは大分稼いでおりもうすぐマスタークラスに届きそうなところだった。
だからというわけではないと思うが、ブラックトリガーの風刃は適応者が多く、俺もその1人に入ることができた。
適応者が多すぎ、しかもブラックトリガーということもあって誰が持つかどうかは結構上層部でも現場でもああだこうだといろんな意見が飛び交い、最終的には適応者全員で争奪戦をするに至った。
ブラックトリガーだし、それが一番筋が通っている。

「迅さん、強かった?」

「ああ。」

勝者は迅 悠一。
玉狛支部所属のA級隊員。
ブラックトリガー風刃になった最上さんの弟子だ。
落とし所としては確かにこれが綺麗だ。
実際迅さんは争奪戦を勝ち抜き、俺を含む候補者全員を倒したんだ。
本当に落とし所はこれが一番綺麗だ。

でも俺は納得できない。

「風刃も迅さんに持ってもらえてきっと嬉しがってるよ。」

それはそうかもしれない、でも。

「お兄ちゃんと迅さん、仲良かったもん。」

最上さんの妹であるお前が持ってなきゃいけないんしゃないのか?

最上 アリス。
ブラックトリガー風刃になった最上 宗一の妹だ。
俺と同い年ながら実力はA級。
太刀川さん、迅さん、風間さんに次ぐ実力者だ。
争奪戦で迅さんと闘えば競り勝てたかもしれない。

争奪戦に参加できていれば。

そうアリスは風刃に選ばれなかった。
争奪戦に出る資格がなかったのだ。
アリスが悔しそうに泣いているのを俺は黙って抱き寄せるしかなかった。

『どうし、て、お兄、ちゃん。』

その叫びが悲痛すぎて俺は本当にかける言葉が見つからなかった。

俺が争奪戦に出たのは、俺が勝って持つことができたら、兄妹を引き裂くことなく近くに置いておけると思ったから。
迅さんは玉狛だし、所属も違ってS級隊員なんかになられたらそれこそ会う機会がぐんと減ってしまう。
だからせめて使うことができなくても、俺が…最悪本部の誰が持てばと思った。
でも迅さんに敵うわけもなく呆気なく敗れてしまった。

「哲次、ありがとう。」

「礼なんて言うんじゃねえよ。」

俺は結局勝てなかったんだから。

「うん、それでもありがとう。」

俺は起き上がりアリスを抱きよせた。
俺の肩に頭を預けるアリス。
ジワリをそこが濡れて行くのがわかった。

「バイバイ、お兄ちゃん。」

雨が降ってきた中、俺とアリスはしばらくそこでそうしていた。

アリス、最上さんは多分お前に闘ってほしくなかったんだよ。
ボーダーに入るのも大分反対してたらしいじゃねえか。
風刃なんて持たない方が良かったんだ。

そんな風に言葉ばかりは思いつくが逆に悲しませるんじゃないかと結局言えずにいる。

だから俺はその代わりに目一杯アリスを抱きしめて暖めるのだ。










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2015.5.20
ちょっと連載ほっぽり出して妄想のままに書いちゃいました。
荒船さんが争奪戦に出ていたら、です。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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