ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


人生ってのは何が起こるかわからない。





憧れて、会いたくて





初めてアリスと出会ったのは俺が中学3年生の夏だった。

その日俺はちょっとした興味本位で警戒区域のフェンスを超えて廃墟に立ち入り歩き回った。
俺の趣味は映画鑑賞で、その時はちょうど地球が終わる的な内容のを映画を見たばかりだった。
隕石が落ちて、かつて栄えた都市は人のいない死んだ街になって。
この設定自体は在り来たりでよくあるものだったが、描写があまりにリアルだったので本物だったらどんな感じがするのかと疑問を持った。

疑問を持ってすぐだった。
あれ、待てよ。
リアルな廃墟ならすごく身近にあるじゃねーか。となった。

入ってはいけないことは知っていた。
だが気になって気になって仕方がなかった。
そして気がついたらいつの間にかフェンスを超えていた。

三門市にはニューヨークやワシントンみたいに巨大なビルがないから、スケールとしては小さく感じた。
でも本物の廃墟というのは、想像していたよりも遥かにもの寂しかった。
当然ながら人の気配はない。
人ではない生き物の気配もここにはない。
寂しいだなんて言う気弱な性格ではなかったが、その時は瓦礫の中にただ一人立って思ったのは"寂しい"だった。

「帰るか。」

一頻り満足して家に帰ろうと歩き出した時。

『ゲート発生、ゲート発生。…』

俺のすぐ背中でバチバチと聞いたことのない音がしたのと同時に聞き慣れたアナウンスが耳を劈く。
こんな映画みたいなことってあるかよと思い振り返ると、そこにはぽっかりと黒い穴。
その中から俺を睨みつける一つの目。

俺は背中がぞくりと粟立つ感じがした。
背中だけではない。
腕や足にも鳥肌が立ってその場から動けなかった。

黒い穴から這い出てきたネイバー。
テレビとかで見るよりずっとでかく、威圧感がすごかった。
こんなものと闘っているボーダーってやつらはすごいな、なんて呑気なことを思ってしまった。

自分が死ぬかもしれないのに。

「くっそ!」

俺は走り出した。
映画みたいだすげーなんて頭では考えていたが、体の方は恐怖に正直で全身の細胞が揃って逃げ出した。
俺は結構足は早い方だが、それは相手も同じだったようでいつまで経っても距離が開くことはなく、むしろじわじわと縮まって行った。
加えてあちらには体力の概念がないらしい。
じわじわと、は次第にどんどんと、に変わっていって、終いには俺の体力が尽きた。

(俺死ぬのかな。)

何て思いながらでも不思議と怖くはなかった。
何処かでヒーローが現れるとか残念なことを思っていたんだと思う。

でも案外それは呆気なく現実になった。



ズガン ズガン!!



突然ネイバーの目がひび割れ、何かが溢れ出す。
何が起こったかわからないでいる俺を尻目に更に大きな音がしてネイバーに大きな穴があいた。
やがて動かなくなったネイバーの上に何かが降って来る。

(あ、あれは…。)

両手にハンドガンを持った女の子だった。
並外れた動きはさながらアクションスターのようで、倒した敵の上にストンと着地して凛と立つ姿はヒーロー以外の何者でもなかった。

「桐島、ネイバーの沈黙を確認。任務完了!」

なんて無線に言ってるであろう姿は、それはもうかっこよかった。
俺もあれやりたい。とそう思った。

「君、大丈夫?危なかったね!」

俺に気がついて駆け寄ってきたのは遠目ではわからなかったがなんと華奢な女の子。
少し大人びた顔つきのその子は、へたりと座り込んでいる俺に手を差し伸べる。

「っていうか警戒区域に入っちゃダメだよ。
学校で習わなかったのかい?」

俺はその手を取らず自分で立ち上がると小さい声で礼と、謝罪をした。
悪いことをした自覚があったからだ。
だがそれが意外だったらしく、目の前の女の子は少し驚いた顔をした。

「悪いと思ってるならいいよ。」

その笑顔は優しくて、俺はバツが悪くてふいと視線を逸らした。
いっそ怒ってくれた方が気が楽だったのに。

俺の視線は自然と女の子が手に持っている銃に移った。
それに気がついたのか、女の子は自慢げに両手の銃をかざした。

「かっこいいでしょ!」

すちゃりとポーズをキメて俺に見せびらかせる。
このポーズは、まさか…。

「バイオハザード、ミラ・ジョヴォヴィチじゃねえか!」

「!君、わかるの!?」

つい熱が入ってしまって拳を握る。
しまったと気がついた時にはもう遅い、と思ったが目の前の女の子は引くどころか逆に目を輝かせた。
俺はこの子に同じ臭いを感じた。

映画好きに違いねえ。

「あ、君さては金曜日のロードショー見てここに来たんでしょ!
気持ちはわかるけど危ないからダメだよ!」

図星だった。
俺が冒頭で話した映画は一昨日の金曜日の夜にロードショーをしていた映画だ。
俺はますますバツが悪くなって目を逸らした。

「あはは、君って面白いねー!」

そうやって笑った女の子は、ふと表情を変えて耳に手を当てた。
よく見ると耳にほ無線機のようなものをしていない。
だが明らかに誰かの声を聞いているような様子だった。
まさか、テレパシーだとでも言うのか、すげえ熱い。

会話が終わったのか、彼女はこちらを振り返った。
その表情は少し困ったような顔だった。

「ごめんね、警戒区域に入った一般人の記憶は情報漏洩を防ぐために消すことになってるの。」

と、何ともショックなことを言われて。

「もう少しで仲間が来るから待って…。あ、ちょっと!」

気がついたら逃げ出した。
後ろで何か叫んでいる声が聞こえる。
でもそんなことは関係なかった。

ここで感じたもの寂しさも、あの巨大な目に睨まれた恐怖も、命があることに対する喜びも。
それを全部忘れるなんて俺は嫌だった。

『君、大丈夫?危なかったね!』

そうやって笑ったあの子の顔も、助けてもらった時に感じたあの憧れも。

忘れるなんて絶対に嫌だ。

俺は家に何とか辿り着くと、パソコンに向かった。
検索キーワードは"ボーダーへの入隊方法"。
女の子でも入れるんだ。俺だってきっと入れる。
素性は多分…バレテいない。
俺も荒船了解、とか言いたい。

それに…もう一度あの子に、どうしても会いたい。

翌朝俺は必要書類を揃えて両親を説得。
入隊試験を難なくパスして、秋にはボーダー入隊式を迎えた。

「や!やっぱり来たね。」

彼女との再会は意外にも早かった。

「ようこそ、ボーダーへ!歓迎するよ、映画オタクくん♪」

そうやってにっこりと彼女は笑った。

これが俺と桐島 アリスとの出会い。

同じ市に住む人から、同じ組織に所属する人へとほんの少しだけ距離を縮めた、そんな日だ。










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2015.5.11
始まりました、5,000hit記念プチ連載夢。
少し映画馬鹿な感じの荒船さんです。

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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