もう後悔はしたくない。 続々々々々々々々 散歩道にて 「…。」 「…。」 夕暮れ時。 沈んでいく太陽が川に反射してキラキラと輝いている。 それが眩しく照りつける川沿いの道を、あたしは嵐山さんと歩いていた。 今日、つい2時間ほど前。 市街地にゲートが発生して、ネイバーが現れた。 あたしはちょうど妹と街に出かけていて運悪くそれに遭遇。 あたしは妹を助けるために武器もあるわけないのに単身、ネイバーを誘き寄せるため無人の市街地に走り込んだ。 もうダメだと、そう思った時に現れたのは、ボーダーA級5位の嵐山隊の面々と隊長の嵐山さんだった。 颯爽と現れてあたしを助けてくれたのは、ちょっと言うのが恥ずかしいけど、さながら王子様のようで。 すごくかっこよかったし、何より安心させられた。 『無事で良かった、アリス。』 先ほどの嵐山さんの言葉が耳に残っていて離れない。 ああ、思い出しただけで顔が熱くなる。 あの時の心配そうな声。 その後のほっとしたような顔。 最後の少し強引な言葉。 ダメだ。心臓が持たない、破裂する、逃げ出したい。 「…。」 それでも逃げられないのが今の状況だ。 あたしはふっと自分の手に視線を落とした。 しっかりとあたしの手を握って離さない、嵐山さんの大きな手。 指と指を絡めた、い、所謂恋人繋ぎ的なアレ。 もう嵐山さんの動作が自然すぎて驚く間も、拒む間もなく(いや、拒みはしないんだけども)繋がれてしまった。 隣を歩く嵐山さんをちらりと見上げる。 夕日にて晒されていつもよりも凛々しくカッコ良く見える。 ああ、もう!ああ、もう!! 「…。」 避難シェルターを出てから20分程度は経っている。 でもさっきからずっと何も喋らない嵐山さん。 『いい子だね。絶対待ってろよ、アリス。』 やはり怒っているのだろうか。 怒ってはいないと思いたいが、心配を掛けたのはこちらだし、何も言えない。 だから2人で帰るのは少しだけ気まずいと思っていたのに、 頼みの綱の妹が1人で帰るなんて言い出した。 さっき言ったように気まずいと言うこともあったのだが、何より妹を1人で帰すのは嫌だった。 でも嵐山さんが木虎さん達をつけて送って行くから大丈夫だと、結局最後はシェルターで別れてしまった。 「あ、あの嵐山さん?」 人に頼っていてどうする、とあたしは勇気を出して声を出した。 するとすぐに予想とは裏腹の優しい声が降ってくる。 「ん?どした、アリス。疲れた?」 「っ!!あ、いえ…。」 そうやって笑う嵐山さんはいつも通りの優しい嵐山さんで、あたしは思わず言葉を飲んで下を向いた。 アリスって呼ばれるのにまだ慣れない。 何だかとても照れ臭くて、嬉しくて、舞い上がってしまう。 「結構歩いたもんな。ちょっと休んで行こうか。」 そう言って嵐山さんはあたしの手を引いた。 土手を降りると、そこはいつも嵐山さんとシェリー達を遊ばせていた川原だった。 いつの間にこんなところまで帰って来ていたのか。 「妹ちゃんが心配?大丈夫だ、うちの木虎や充はしっかりしてるから!」 あたしの顔が曇っているのは妹を心配してのことだと勘違いした嵐山さんは、あたしを安心させようと笑ってくれた。 あたしは嵐山さんに返事をするように笑いかけると、揃って河原に座り込んだ。 気持ちのいい風がまた二人の間を吹き抜ける。 あたしはふと初めてここで出会ったことを思い出した。 『すみません、その子私の犬で、首輪が外れて、探してて。な、何かご迷惑を…。』 『ああ、いいよ、いいよ!そっかぁ、君の犬か。とてもかわいいな!』 初めに驚いて、次に恋をして、ずっと好きで。 でも最後には好きだと告げることもなくこの世を去るところだった。 そんなのってない。 あの時の言いようのない後悔の渦。 二度と体験はしたくない。 『告白しないんですか?』 『お姉ちゃんから告白はしないの?いつか後悔するかもしれないよ?』 そうだ、言わなきゃ。 もう後悔はしたくない。 「あ、あの、嵐山さ…「アリス。」 あたしが声を掛けるのと同時に嵐山さんがあたしの名を呼んだ。 え?と思い嵐山さんを見上げると、嵐山さんも驚いた表情であたしを見ていた。 「あはは、被っちゃったな。…俺から話してもいい?」 あたしは首をぶんぶんと縦に振った。 勢いが殺されてしまった。 この後ちゃんとあたしは自分の気持ちを言えるだろうか。 そんな風に思っていると。 「!?」 あたしは次の瞬間、嵐山さんの腕の中にいた。 もちろん、あたしはパニック状態だ。 「あ、嵐山さん?!」 「ごめん、ちょっとだけこのまま。」 少し震えたような、そんな声だった気がする。 あたしはいつかの夜のようにそっと嵐山さんの背中に手を回し服を掴んだ。 「生きててよかった、ホントに。」 嵐山さんのその言葉に胸がキュッとなった。 「今日現場に駆けつけて、妹ちゃんにアリスが1人で囮になったって聞いた時心臓が止まるかと思った。 もし怪我をしてたら? もし、間に合わなかったら? そんなことがぐるぐる回って、でも気がついたら誰よりも先に走り出してた。」 その光景が目に浮かんだ。 王子様のように駆けつけてくれた嵐山さん。 でも駆けつけた彼の、あたしを見つけて助けてくれた時のほっとした時の顔は泣きそうだった。 「君を見つけたのはすぐだった。 だけどその少しの間、俺は気が気じゃなかった。 …アリスに言わなきゃいけないことを言っていない。 なのにこのまま万が一だなんてありえない。 すごく後悔した。」 「あたしに、言わなきゃいけないこと?」 嵐山さんの言うことがあたしの言おうとしたことと被って聞こえる。 「アリス。」 嵐山さんは深呼吸をして、身体を離すとあたしの頬に触れた。 「ずっと好きだった。アリス。 俺のものになってくれ。」 嵐山さんは緊張していたのか、最後まで一息に言う。 顔が少し赤い。 冗談なんかで言っているわけではない。 真剣な思いはあたしの中に強く響いた。 「?!アリス?!」 あたしはボロボロと泣き出した。 それはもちろん嵐山さんの気持ちが嬉しかったから。 「ぁ、え?も、もしかして泣くほど嫌だった、とか?」 「ふふ、違いますよ、その逆です。」 嵐山さんはあたしが泣き出すとは流石に思っていなかったのか、おどおどしていた。 それがさっきの力強い告白とは違いすぎて、あたしは思わず笑ってしまった。 「嬉しいです、嵐山さん。 あたしの話も聞いてくれますか?」 嵐山さんは黙って頷く。 「あたしもあの時、ネイバーに追い詰められた時、 とても後悔したことがありました。 あたしは嵐山さんに伝えないといけないことを言っていない。 死のうとしている最後の瞬間まで思い浮かべてしまうほど好きなのに、 それを伝えずに終わってしまうだなんて。」 あたしも嵐山さんの頬に手を触れて一呼吸して言葉を吐き出す。 「好きです、嵐山さん。初めて会った時からずっと。」 「アリス…。」 「こんなあたしでよければ嵐山さんのものにしてください。」 最後の方は消え入りそうな声だった。 嵐山さんまできちんと届いていたかはわからない。 でもきちんと伝わったであろうことは嵐山さんの表情でわかった。 「嬉しいよ、アリス。すごく大事にする、ホントに。」 「もう十分されていますよ。」 嵐山さんはもう一度あたしをキツく抱きしめた。 あたしも応えるように抱き返す。 しばらくして。 「なあ、アリス。」 再び身体を離すと。 「キスしていいか?」 と嵐山さん。 「ぅえ?!」 驚きすぎて変な声を出してしまうあたし。 「ぅえ、は酷くないか?」 「あ、いや、だってそんな…。」 あたしは恥ずかしくて恥ずかしくて顔を真っ赤にする。 それでも嵐山さんはやめてくれない。 「目、閉じて。」 言われるがままに目を閉じて、こうなりゃやけだと身を任せる。 嵐山さんに優しく抱き寄せられて、そして。 「ん。」 生まれて初めて好きな人とキスをした。 「アリス、可愛いな。」 すぐに唇が離されたと思ったら、またすぐに唇を塞がれる。 「ん、ふ…。」 何度か短いキスをした。 そんなに長くなかったはずなのに、連続で塞がれたものだからあたしは少し息苦しくなり、目に涙をにじませた。 「あ、嵐山さ…ん。」 「…名前では呼んでくれないの?」 待って、とやっとの思いで嵐山さんを押し返すと、彼は少し拗ねたようにそう言った。 あたしはそう言われて、今日の出来事を思い出した。 『准、さん。』 ふわあああ!!そうだった、あたし今日勢いで名前呼んでたんだ! で、でも呼んでほしいと言われると恥ずかしくて言えない。 ましてこんな状況なら尚更だ。 「は、恥ずかしいです!」 「言ってくれないともうキスしないぞ。」 嵐山さんはそうやって意地悪そうに笑う。 恋愛初級者にはハードルが高いことばかりだ。 名前を言っている自分を想像し、撃沈。 い、言えるわけがない。 今日のはホントに勢いで言えたようなものだ。 でも。 「あ、嵐山さん。名前で呼ぶのは、も、もう少しだけ待ってください。」 わがままなのはわかっているけど。 「でも、キスはもう一回だけでいいので、して、ほしいです。」 ホントにもう一度だけでいいからキスしてほしい。 耳まで熱い。 自分でも聞き取れないぐらいの声だった。 嵐山さんにきちんと聞こえただろうか。 「そんなに可愛いわがまま言われたらきくしかないな。」 嵐山さんはそう言ってもう一度、今度は少しだけ長いキスをしてくれた。 「よろしく、アリス。俺の彼女。」 「か、かの!!よ、宜しくお願いします。」 そしてまた2人で手を繋いで、わざと回り道をしながら家に帰るのだった。 Prev | Next ******************************* 2015.5.8 遂に告白しました!嵐山さん男を見せました! 結構長い散歩道でしたが、やっと目的地に着いたみたいです。よかった! diaryにてちょっとネタ ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |