ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


「で、結局お姉ちゃんって嵐山さんとどうなの?」





続々々々々々々 散歩道にて





休日。
あたしは久しぶりに部活が休みの妹とショッピングに来ていた。
あらかたの買い物も終えて、少しお茶でもして行こうかと、駅近くのカフェで休憩をしているところだ。

「えっ?!な、何、急に!?」

「だって、気になるし。」

突然とんでもないことを聞いてくる妹に、思わず飲んでいたカフェオレを吹きそうになる。

「で、どうなの?っていうか付き合ってないのはどうして?」

「ぅ、あ…。」

興味津々といった妹にあたしは返す言葉もない。
何で付き合ってないかって、それは付き合ってないもんは付き合ってないとしか言いようがない。
告白をしてないのでそれに至るわけもない。

「お姉ちゃん、顔真っ赤。」

「へ、変なこと言うからだよ!」

嵐山さんのことを考えて顔が赤くなってしまったようで、そこを妹に突っ込まれる。
あたしは全力で怒って見せたがそれはまるで効果がなく、妹は反省するどころか破顔する。

「お姉ちゃん、かわいいー!そんなに嵐山さんのこと好きなんだねー!いい、いいよー!」

「ちょ、ちょっと声が大きい!」

幸い周りの席の人達も話し込んでいたようで、あたし達の会話は聞こえていない様子だった。

「嵐山さんもお姉ちゃんのこと好きだと思うんだけどなー。」

「はぁ?!い、いや、そんなことはない!と、思うんだけど。」

「それ本気で言ってるの?」

全力で否定するあたしにやや呆れ顔の妹。
うう、ホントにどっちが姉かわからん。

「だ、だって。た、確かに雰囲気はいいと思うけど何もないし。」

「むー、嵐山さんも意外と奥手か?」

デートもした、手も繋いだ、多分だけどキス寸前までいった。
でも肝心の"好き"をお互い示していない。

「お姉ちゃんから告白はしないの?いつか後悔するかもしれないよ?」

急に真面目なトーンになる妹。

わかっている。
嵐山さんが何も言ってこないから、なんて言うのは言い訳だ。
本当に好きならあたしから思いを告げれはいいのに、それをしないのは怖いから。

「も、もお!この話はおしまい!」

あたしは逃げるように一気にカフェオレを飲み干すと席を立つ。

「あ、ちょっとお姉ちゃん!待っ…。」



ウーーーーーー



2人で席を立ち店を出ようとした時だった。
ゲートの解放を開くサイレンが鳴り響く。
この街に住む人間にとっては聞き慣れた音だったが、今日はいつもと様子が違う。

いつもより音、近くない?

『ゲート発生、ゲート発生。市街地にゲートが開きます。市民の皆様はシェルターに避難してください。繰り返します。…。』

アナウンスと共に辺りに緊迫が走り、悲鳴が聞こえた。
そして次の瞬間、駅の真上にぽっかりと黒い穴が開いた。
中から覗く不気味で大きな目と視線がかち合う。

あれ、結構まずいんじゃない?

「お、お姉ちゃん逃げよう!」

「う、うん!」

あたしと妹は人の流れに身を任せて走り出した。
ここから一番近いシェルターは駅の反対側だ。
このカフェ辺りは良くないことに一番遠い。

振り返るとゲートと呼ばれる黒い空間から虫のようなネイバーと大きなネイバーが這い出てくるところだった。
虫のようなネイバーは足が比較的に早いようでこちらへ向かって走ってくる。

「あ、痛っ!」

突然妹が足を瓦礫に引っ掛けて転んだ。
怪我はしなかったようだが、気が動転してすぐに起き上がれない。

「大丈夫?!」

あたしが妹に駆け寄ると、近くにいた大人達が、こんな非常時なのに助けてくれようと近づいてきた。
妹はようやく立ち上がるが、ネイバーはすぐそこまで迫っている。
このままではあたしも、妹も、助けてくれようとした人達も、みんなあいつらにやられてしまう。

「お姉ちゃん?」

そんなことはさせられない。

「あなたはこの人達と逃げなさい。」

泣きそうな妹の顔を両手で包み込み、こつんと額を合わせる。
あなたは大事なあたしの妹。
こんなところで失うなんてごめんよ。

「すみません、妹を助けてください。」

立ち上がり周りの大人にそう言うとあたしはその場からシェルターとは逆方向に駆け出した。

「こっちよ、いらっしゃい!!」

思ったとおり、ネイバー達はあたしを追いかけてきた。

『すごいな、結構トリオン量あるんだね。』

前に嵐山さんが持っていたトリオン計測器。
興味本位で測ってもらったことがある。
ずば抜けて、と言うほどではないが普通の人から比べると、あたしはトリオン量が多い方らしい。
あ、だからネイバーに万が一遭遇したら逃げろって言われてたんだった。
忘れてた。勢いに任せて逃げるどころかこっちへ来なさいと言ってしまった。

「はぁ、はぁ。」

避難が完了したのか、人のいない道路を走る。
後ろからはおよそ地球上の生物ではないものの息遣いと足音。
周りに誰もいなくなり、この状況に自分から飛び込んだものの急に心細くなった。

(はぁ、はぁ。逃げられたかな、ちゃんと。)

妹の泣きそうな顔など久しぶりに見た。
最近ではバレーに負けても泣かなくなった。
最後に泣くのを見たのは、半年前のバレーの大会で第三中に負けた時以来か。

「ぅわ!」

瓦礫に足を取られてそのまま転ぶ。
怪我はしなかったものの、少し体を打ってしまったようだ。
先ほどの妹のようにすぐに立ち上がることができない。

バッと振り返るとネイバーはもう目の前まで迫っていた。
そんな状態でもあたしはまだ立ち上がれずにいた。
ギョロリとした大きな目が、またあたしを捉える。
背筋が凍る感じがした。

(これ、死んだかも。)

人間とは不思議なもので、死ぬ瞬間と言うのをこんなにも軽く捉えることができるらしい。
そして世間で言われるように、漏れなくあたしも走馬灯を見た。
その流れる記憶の中で先ほどの妹の言葉が一際鮮明に思い出される。



『お姉ちゃんから告白はしないの?いつか後悔するかもしれないよ?』



いつか、なんてものじゃない。
今ものすごく後悔している。

「嵐山さん…。」

巡る記憶は彼とのものばかりであたしは目にジワリと涙が溜まる。
滲んだ視界の中でネイバーが鎌のようにするどい足を持ち上げるのがわかった。

ああ、ここで死ぬのは嫌だよ。
せめてもう一度会いたかったよ、嵐山さん。

鎌が振り下ろされる瞬間、あたしはギュッと目を閉じた。





痛みはない。
それどころか暖かくて、ふわふわする感じがする。
死ぬとはこう言うことなのかと、恐る恐る目を開ける。

「アリスちゃん!大丈夫か?!」

「あ、嵐山さん?!」

会いたいと強く思った彼の顔が突然目の前に現れた。
死んで夢でも見ているのかと思ったけど、辺りを見回すとそうではないらしいことがわかった。
あたしは嵐山さんに抱えられ、宙を待っていた。
足元には先ほどのネイバー。
振り下ろした鎌の先にあたしがいなくて辺りを見回している。

「妹ちゃんが教えてくれたんだ。無茶しないでくれよ、ホントに。」

本当に嵐山さんだ。
私を見つけて笑う顔は何だか泣きそうで、でも慰めてくれる声は優しかった。

助けに来てくれるだなんて思ってもみなかった。

「アリスちゃん?!」

あたしは命があることにホッとしたのか、ボロボロと涙をこぼして泣き出した。
目に身体中の水分が集まってきたのではないかと思うくらいに、それは勢いがよく止まることがなかった。

「どうした?!どこか、怪我でもしたのか!?」

嵐山さんに抱かれたまま、涙を止めることができないあたし。
ストンと地に着地した後、嵐山さんはそのまま指の腹で涙を拭ってくれた。
でもそんなものでは追いつかないぐらい涙は溢れて、嵐山さんの細い指を濡らしていった。

「こ、怖かったよぉっ…。」

本当に怖かった。本当に。
あの無機質で何の感情もない巨大な目に捉えられて、息をすることさえできなかった。

死ぬかと思った。本当に。
あの研ぎ澄まされて、死以外の何も映さないような刃をちらつかされて、視線を外すこともできなかった。

「!!」

一瞬やり切れなさそうな顔を見せた後、嵐山さんはあたしをキツく抱きしめてくれた。

「ごめん、怖い思いさせて。本当に無事で良かったよ、アリス。」

本当に申し訳なさそうな、そんな嵐山さんの声がダイレクトに耳に響く。

「無事で良かった、アリス。」

何度も何度も確かめるように名前が呼ばれる。

「助けてくれてありがとう、ございます。嵐山さ…。」

普段の呼び方を飲み込み、本当に呼びたい名前を呼ぶ。

「准、さん。」

そう言ってあたしは彼の首に手を回した。



ズガガガガ



一気に現実に引き戻されるような銃声が響く。

「お取り込み中すみません。」

「桐島先輩、大丈夫ですか?!」

駆けつけてきたのは時枝くんと木虎さんだった。
時枝くんの撃った弾はネイバーの目を破壊し、それはそのまま動かなくなる。

「嵐山さん、ここは僕らがやるので桐島先輩を一旦シェルターへ。」

「すまん、充!木虎!」

そう言って嵐山さんはあたしを抱き上げ駆け出した。
あたしは慌てて降ろすように言う。

「嵐山さん!時枝くんと木虎さん置いていくんですか!」

「大丈夫だ、あいつらすっごく頼りになるから!」

「で、でも…。!?」

嵐山さんは急に立ち止まる。
路地からもう一匹、ーーいや、まだたくさんいる気配がするーーネイバーが現れた。

「こっちにもいたのか。」

嵐山さんはじりっと後ずさる。
あたしを抱いたままでは闘えない。
降ろしてください、ともう一度言おうとした時だった。



ズガン ズガン



どこからともなく放たれた弾によってネイバーは活動を停止した。

『佐鳥もいますよ〜!嵐山さん!ここは任せてください!』

「佐鳥くん!?どっから?!」

「賢!助かる!このまましばらく援護を頼む!」

『佐鳥了解!』

佐鳥くんの援護もあり、嵐山さんはネイバーの間を一気に駆け抜けてあっと言う間にシェルターについた。

「お姉ちゃーーーん!!!」

シェルターに入るや否や妹から体当たりを食らう。

「あ、嵐山さん、ありがとう、ござ、ま、お姉ちゃ、」

「と、とりあえず落ち着いて!」

あたしの無事を確認できたにも関わらず気が動転したままの妹を宥める嵐山さん。

「俺はみんなのところに戻る。終わったら迎えに来るから。」

「え、そんな、だいじょう…。」

ぶ、と続ける予定だったが、不意に唇に人差し指を押し当てられて、強制的に言葉を遮られる。

「言うこと聞いて、アリス。こっちは死ぬほど心配したんだからな。」

「っ!」

そこで初めて名前を呼び捨てにされたことに気がついた。
しかも普段は見せない、少し強気で怒ったようにも見える嵐山さんが不敵で、思わず顔を赤くして頷くことしかできなかった。

「いい子だね。絶対待ってろよ、アリス。」

そう言って走り去る嵐山さんの背中は男らしく最高にかっこよく、あたしの胸はうるさいほどに高鳴っていた。










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2015.5.6
散歩道シリーズもいよいよ大詰めですね!
後半は佐鳥もいますよ〜を言わせたかっただけ!

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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