ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


会いたい、会いたいと考えてしまう。





続々々々々々 散歩道にて





学校が終わって、家に帰って、ご飯食べて。
そうして諸々済ませて自室に戻ると時刻は22時過ぎ。
翌朝に備えて早めに寝るのがあたしの日課。

明日の天気予報は晴れ。
気候も少し暖かくなって来たし、絶好の散歩日和だ。
また会える、嵐山さんに。
そう思うだけで心が弾む。

でも。

「はあ。」

会いたいと、会えて嬉しいと思っているのはもしかしてあたしだけなのだろうか。
と、ネガティブなことを考えてしまう。
会うついでに犬の散歩をしているのか、犬の散歩のついでに会っているのか。
そう聞かれると正直少し返事に困る。
今の温度感は実際にそんな感じだ。
どっちがついでだかわからない。

「嵐山さん、好きです。」

鏡に向かって一言つぶやく。
本人に言っているわけでもないのに、かっと顔が熱くなるのがわかった。
無理無理無理無理!こんなの絶対言えないよ!

「はあ、嵐山さん…。」

つぶやいた先から寂しくなって会いたくなる。
明日の朝になれば会えるけれど、そんなの待っていられない。
思うだけで眠れない。どうすればいいの?

『告白しないんですか?』

先日佐鳥くんに言われた言葉が蘇る。
告白なんて大それたこと、人生で今までしたことがない。
告白できるって人はホントにすごいと思う。
だって返事が良くない方だったらどうすればいいかわからない。
そう考えると現状に甘んじてしまう。

「早く会いたいなぁ。」

そう呟いた時だった。

♪〜♪〜♪〜♪♪

突然スマフォが音を立て始めた。
この音はメールでもない、ラインでもない、電話だ。
こんな時間に誰だろうとディスプレイを見ると、表示の名前は"嵐山 准"。

(?!?!嵐山さん!?な、何で?!)

突然の初めての電話に、思わず出るのを戸惑ってしまったが、深呼吸をした後に意を決して受電アイコンを押す。

「は、はい。桐島です。」

『あ、アリスちゃん。ごめん、突然電話して。まだ起きてた?』

「はい、大丈夫ですよ。」

はあああ、嵐山さんの声だ。
明日の朝まで待たずに声を聴けるなんて!

でも少し様子がおかしい。
何だか元気がなさそうな。

「嵐山さん、どうかしましたか?元気ないですね。」

『あれ?わかる?』

言い当てられると思ってなかったのか、嵐山さんはバツが悪そうだった。

『ねえ、ちょっとだけ出て来れない?散歩しよう。』

「今からですか?」

『ダメかな?』

ダメなはずがない。
一目でも会えるならあたしは会いに行きたい。

『…実はもう家の前にいたりして。』

はは、と苦笑する嵐山さん。
何ですと!?と思い、あたしは部屋のカーテンをばっと開ける。
あたしの部屋は家の前の歩道に面しているため、カーテンを開けると外が丸見えだ。

『こんばんは。アリスちゃん。』

あたしが見ていることに気がついた嵐山さんは顔を上げて改めて挨拶した。
あたしはその顔を見て胸がギュッとなる感じがした。
笑っている、嵐山さん。
でもいつもの元気な笑顔じゃない。
何かあったのかと胸が締め付けられる。

「…すぐに行くので待っててもらえますか?」

『うん、待ってるよ。』

あたしはすぐに着替えて見なりを軽く整えると部屋を飛び出した。





「お、お待たせしました!」

「やあ。ごめんね、急に来ちゃって。」

あたしはぶんぶんと首を横に振る。
会いたいとちょうど思っていた、なんて言えたらどんなにいいだろうか。
だが、生憎そんな気概は持ち合わせていない。

「こんな時間に平気だった?」

「大丈夫ですよ。コンビニ行ってくる!って飛び出して来ました。」

「手ぶらで?」

「あっ!」

そう言われてはっとした。
確かにコンビニ行くと言うのに手ぶらで何も持っていない。
ポケットを叩いても小銭の掠れる音さえしない。
確かに不自然だ。

「あはは!アリスちゃん、面白いなー。いいよ、コンビニ行こう?ジュースぐらいご馳走するし。」

「!?」

そう言って嵐山さんはごく自然にあたしの手を握って歩き出した。
手を繋いでる!いや、前のデートの時にも繋いだけど!

「?」

でもやっぱり前とどこか違う。
いや、何というか全体的にいつもと違う気がする。
あたしは勇気を出して問いかけた。

「嵐山さん?何かありました?」

「…。」

あたしの言葉にピタリと足を止めた。
何も言わない。

「わかる?」

「!?」

そうやって嵐山さんは振り返って、ぐいっとあたしの手を引っ張った。
あたしは引かれるままに嵐山さんの腕の中に倒れこんだ。

「!?!?」



ブロロロロロ



すぐ後ろを車が走り去る音がした。

「ここ案外道狭いね。危ないよ?」

「は、は、はい!」

心配そうな声が頭のすぐ上から降ってくる。
何だ、車が来たから引っ張ってくれただけか。
いや、でもこれはかなり心臓に悪いよ!
あたし、今、抱きしめられてる!!

「あ、嵐山さん?」

いつまで経っても離してくれない嵐山さん。
恐る恐る声を掛けると、離すどころか抱きしめる腕に力が込められた。

「コタローがさ、病気らしくってさ。」

唐突な言葉と共に、嵐山さんは頭をあたしの肩に預ける。

「え?」

嵐山さんの声はとても弱々しくて、今まで聞いたこともないようなものだった。
言われた内容が言われた内容だけに、あたしは息を飲む。

「びょ、病気って?」

「いや、今すぐ命に関わるとかそういうのじゃないらしいんた。でも何か安静にしないといけないらしくて、散歩とかも控えるようにって言われてさ。」

あたしは嵐山さんの呟くような声にじっと耳を傾けていると、嵐山さんは一瞬小さなため息をついてこう言った。

「こっから先ちょっと俺嫌なヤツだけど話聞いてくれる?」

嵐山さんの中では相当あたしに話をするかどうかを悩んだんだろう。
あたしは何も言わずに、首だけを縦に小さく振った。
嵐山さんは深呼吸をして話し始める。

「俺コタローが病気って言われたときショックだった。今すぐ命に関わらないって言われたけど、それってつまりいつかは命に関わるってことだろ?それがすごく…。」

ショックだったんだ、と泣きそうな声で嵐山さんは言う。
あたしはその声を聞いただけで目がじわりと滲む感じがした。

「でも、俺同時に思ったんだ。散歩を控えるように。それってつまり君に…アリスちゃんに会えなくなる。そのことの方がすごく嫌だったんだ。」

嵐山さんの腕があたしを逃がさないように胸に閉じ込める。
こんな話をしたらあたしが逃げてしまうとでも思ったのか。
不安で仕方ない、そんな感じだった。

「コタローが命に関わる病気なのに、君に会えなくなる方をショックだと思うとか。」

俺って最低だよ、と最後に零れ落ちる自分を許せない言葉。
そこで嵐山さんの話は終わった。
その後は何も言わない。

「あたし…。」

あたしは嵐山さんの背中に手を回して抱き返した。
その反応を予想してなかったのか、嵐山さんが一瞬ビクリと震えた。

「アリスちゃん?」

「あたし嵐山さんのこと何も言えません。」

そう、あたしも人のことなんて言えない。

だって。

「あたしも今同じこと思ってしまいました。」

あたしの声が震えていたのが伝わったのか、嵐山さんはばっとあたしから体を離す。
肩に手を置き、あたしの顔を覗き込むように言う。

「どうしてアリスちゃんが泣いてるんだ?」

目頭が熱い。自分でも涙が滲んでる感じがして今にも零れ落ちそうなのがわかる。

「あたしも今コタローくんが病気だって聞いてショックでした。でもあたしも。あたしも嵐山さんに会えなくなるのが嫌だって、そっちの方を強く思っちゃった、から。」

遂に零れ落ちた涙が頬を伝う。
泣いちゃダメだ。嵐山さんが気にしてしまう。
あたしは泣きながら、それでも目一杯笑った。

「だから一緒にコタローくんに謝りましょう?きっとコタローくんも許してくれますよ。」

「アリスちゃん。」

嵐山さんだけがそんな気持ちでいっぱいになって、自分のことを責める必要なんてない。
あたしも同じことを思ってしまったのは本当。

だから2人で謝ろう。

「そうだね。」

そうやって笑う嵐山さんは月に照らされて、余計にかっこよかった。
何か吹っ切れたような顔をしていて、その笑顔はいつもの嵐山さんだった。

「ありがとう、アリスちゃん。」

そう言ってまた嵐山さんに抱き寄せられ、彼はそっとあたしの頬を手を添えた。
あたしは何も言わずに嵐山さんの動作を受け入れた。
顔が近づき、至近距離で見つめ合う。
そうして唇が触れるかと思った瞬間。



ププー!!!!



大きくクラクションを鳴らして、車が背後を通り過ぎて行った。
その音に驚いてあたしと嵐山さんは思わず離れてしまった。
少し気まずい空気がその場に流れる。

「えーっと、送る。家まで送るよ。」

「あ、はい。」

嵐山さんがあたしの手を引く。
うー、場の雰囲気に完全に飲まれたけど、さっきのあれはつまりその、あれだよね。

キス寸前ってやつだったよね。

思い出してかーっと顔が熱くなる。
あんなに至近距離で嵐山さんを見たのは初めてかもしれない。
いや、というか、な、何か会話しなきゃ!

そう思って前を歩く嵐山さんの顔を見上げて思わず目が点になる。
暗がりでよく見えないはずなのに何故かわかる。耳まで真っ赤だ。

「アリスちゃん、明日さ。」

「は、はい!」

少しの間をおいて嵐山さんが言う。

「朝、迎えに行くから。」

いつもならそう言ってあたしを振り返るだろう。
でも今日ばかりは振り向かない。
理由は何となくわかる、あたしも気持ちがわかる。

今は多分お互い顔が真っ赤だから見られたくない。

ただそれだけだ。










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2015.5.4
ちょっとシリアスな話でした。
嵐山さん、そろそろ男を見せてくださいっ!

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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