「やあ、今日もおつかい?えらいね。」 渡せない思い 「鋼ー。アリスちゃんが来たよー。」 支部の入り口から来馬が村上を呼ぶ。 訪ねてきたのは村上の幼馴染のアリスだった。 アリスは何やら包みを持っており、緊張した面持ちで村上を待っていた。 「アリス。また来たのか。」 「鋼くん、お弁当持ってきた!」 アリスはそう言って包みを村上に渡す。 その様子を来馬がニコニコ見ている。 その視線が暖かすぎて、村上はため息をついた。 「いやー、いつも仲が良いね。」 村上とアリスは小さい頃からいつも一緒で、村上がボーダーに入って鈴鳴支部に所属してから、アリスは休みの日には必ずお弁当を届けにやってきた。 そしてそのアリスを招き入れるのが来馬の役目だった。 「そんなことないですよ。」 と、村上はじっとアリスを見た。 緊張した様子は相変わらずで、今日もダメだな。と村上は一人またため息をついた。 「じゃあアリスちゃん、ゆっくりしていってね。」 「あ、はい!」 思わず声が裏返るアリスに来馬は今日も元気だなぁと笑うと奥へと戻ろうとした。 その背中を慌ててアリスが呼び止める。 「あ、あの、来馬先輩!」 「うん?なーに?」 立ち止まって体ごと後ろを振り返る来馬。 「あ、いえ、あの。…お仕事頑張ってください!」 「ありがと。」 アリスの言葉に来馬はにっこり返事をすると、今度こそ奥へと戻って行った。 来馬の姿が見えなくなり、アリスはがくりと膝を着く。 その様子に本日3度目のため息をついて、村上もその場にしゃがみこんだ。 「お前、いい加減緊張するのやめろよ。」 「無理、無理!好きな人の前で緊張するなとか、鋼くん鬼?」 そう言ってガサゴソとアリスは鞄からもう一つ包みを取り出した。 来馬のために作ったもう1つの弁当だ。 「鋼くん、あげる。」 「毎回弁当2個食う俺の身にもなれ。うまいからいいけど。」 そう言って村上はもう1つ包みを受けとる。 アリスは来馬が好きだ。 村上に弁当を持って来るなんて言うのはいい口実で、本当は来馬に会いたくて鈴鳴支部に来るのだ。 来馬にも手製の弁当を食べさせたくて持って来るのだがいつも渡せない。 結果その弁当を村上が食べることになる。 「はあぁぁ。来馬先輩が素敵すぎるのが罪。」 「そうだな、全く気がつかないのは罪だな、あの人。」 村上からすればアリスが来馬を好きなのは一目瞭然だが、来馬は気がつかない。 それどころか多分アリスと村上が付き合ってるという勘違いさえしていそうだ。 だがアリスがかわいそうなので村上はそれを言わない。 「まあ、その内チャンスが来るさ。」 「そう、かなぁ。」 そう言ってアリスがため息をついたときだった。 「あれ、アリスちゃん。まだいたんだね。」 奥へと戻って行った来馬が上着を羽織って入り口に戻ってきた。 「来馬先輩、出かけるんですか?」 「うん、ちょっと本部へ行くことになって。今ちゃんもうすぐ来るし、鋼、留守番しててくれない?」 「わかりました。」 「アリスちゃんもゆっくりしていってね。」 来馬はそう言って靴紐を結ぶ。 アリスはというと、はい、と元気良く返事をするだけた。 村上は馬鹿、今帰れば一緒に帰れただろ。何ではいって言うんだよ。と心の中で一人ゴチ、来馬に言う。 「あ、先輩。アリスこれから帰るところなんです。」 村上の突然の言葉にアリスは驚いて村上を見上げる。 その視線は、焦りで滲んでいたが村上はお構いなしだ。 「あ、そうなの。アリスちゃん。じゃあ途中まで…。」 そこまで言ったところで突然来馬の腹が鳴った。 来馬は恥ずかしそうにお腹を抑える。 「来馬先輩、時間あるなら途中で飯でも食ったらどうです?アリスと一緒に。」 村上の言葉にアリスはまた驚いて村上を見上げる。 しかし村上はというと、お構いなしだという姿勢を崩さず涼しい顔をしていた。 「そう、だね。時間あるしアリスちゃん、よかったらお昼一緒にどうだい?」 「ぅえっ!?あ、よ、喜んで!」 アリスは元気良く返事をして慌てて靴を履き直す。 最後に村上はアリスの背中を押した。 アリスは村上にありがとうと小声で伝えると来馬を追った。 その晩、村上は3時間アリスの電話に付き合わされた。 内容はもちろん来馬のこと。 どうやらうまくいったらしい。 「あたし、来馬先輩のことだーい好き!」 「はいはい。よかったな。」 翌日アリスは弁当を持って現れた。 今後こそ来馬に渡せたようで2人仲良くお昼ご飯を食べてる姿が目撃されたそうな。 ******************************* 2015.4.28 初!来馬先輩夢でしたー。 でもこの村上くんがヒロインのことがホントは好きとかだと燃える。 ※お返事不要の方はお申し出お願いします。 back WT | back main | back top |