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「ふっふっふっ。」





after the 負けられない闘い ver.荒船隊 side Heroine





「勝ったー!!やったー!!1勝ー!!」

荒船隊作戦室で文字通り飛び上がって喜ぶアリスに半崎がクラッカーを鳴らす。

「やるわね、アリス。」

「倫先輩!あたしやってやりましたよ!やってやりました!」

そこで半崎が2度目のクラッカーを鳴らす(アリスにやらされている)

先月荒船隊で行われた1日1回、合計31本勝負。
アリスのひょんな一言から始まったこの1ヶ月の荒船隊訓練試合。
アリスは1勝でもすれば荒船と穂刈をぎゃふんと言わせられるということだったが、
結果15-15-1でアリスは見事にその権利をもぎ取ったのだ。

31回やってラストの1回。
アリスは執念を見せて1勝を勝ち取り、訓練場では拍手が巻き起こった。
そして今飛び上がって喜んでいる。

荒船と穂刈はというと、燃え尽きたように、拗ねたように、作戦室の机に突っ伏して一言も口をきかない。
よっぽどアリスに1勝取られたのが悔しかったのか、それともデートにこぎつけられなかったことに絶望しているのか。

「ほーら、荒船くん、穂刈くん、少しはアリス褒めてあげたらー?約束なんでしょ?」

大人気ない同い年の2人に、オペレーターの加賀美は呆れて言う。
そんな加賀美にアリスはチッチッチッと指を振った。

「倫先輩、まだですよ。」

「?」

勝負は決した。この上何が違うと言うのか。
加賀美が首を傾げていると、アリスは満面の笑みで言った。

「東さんの前で!!すっごく褒めてもらう約束なんで!」

その言葉を聞いて荒船と穂刈はビクリと肩を震わせた。
恐れていた時が来てしまったようだ。
スナイパー組の年長、東と言えば神にあたる存在だ。
荒船も穂刈も色々なことを教えてもらった記憶もある。
その師匠の前で教え子に負けたという事実を晒し、挙句その教え子を褒めて褒めて褒めなければならない。
荒船と穂刈はソロっと立ち上がり立ち去ろうとした、その時。

「さあ、先輩達!行きましょう!うーんと褒めてくださいね!」

ガシリと両腕で荒船と穂刈を捕まえると、アリスはそのまま2人を引きずり作戦室から出て行った。





「東さーん!!」

ラウンジにいた東をアリスが見つけて駆け寄ると、東はニコニコ笑って手を振った。

「おー、桐島。聞いたぞ。レイの勝負、遂に荒船と穂刈に勝ったんだってな。すごいじゃないか。」

そう言って東はアリスの頭を優しく撫でた。
アリスは一人っ子のため、少しばかり年上の東を兄のように慕っていた。
しかもスナイパー達の頼れる師匠ということもあって憧れもあった。

「えへへへー。」

でれっと笑うアリスを見て荒船と穂刈はムッとする。
自分達が少しばかり褒めたってあんな顔はしないじゃないか。
2人はじーっと東を見る。
そう、2人は師匠である東の前で弟子に負けたことを言わないといけないだとか、そういう悔しい気持ちよりもこちらの気持ちの方が自分達の中で大きいのを知っていたのだ。

ようは東に対してやきもちを焼いているのである。

(おー、2人とも機嫌が悪いなー。)

東はと言うと、そんな2人の気持ちには気づいている上で、多少面白がっているところがあった。

アリスは可愛らしい妹のような存在だ。
好かれるのはもちろん悪い気はしない。
しかしだからと言ってどうこうしたい、なりたいという気持ちはなかった。
ただ本当に妹のような存在だったのだ。

「あたしすっごく頑張りました!」

アリスはそう言って荒船と穂刈を振り返る。
その視線の意味するところ、それはもちろん、さあ私を褒めてくださいね、だ。

「そうか、頑張ったかー。どうなんだ、荒船、穂刈。」

そんなアリスの様子を見て、せめて2人が言いやすいようにと東は問いかけるように荒船と穂刈に声をかける。

「そ、そうですね。ま、まあ良くなってると思います。」

「た、大したものです、ホントに。」

顔は引きつり笑顔もそこそこに、本当の本当に言いたくなさそうな様子で、それでも荒船と穂刈は続けた。

「狙撃の制度も上がってますし、集中力もありますし。」

「楽しみです、将来が。」

アリスは滅多に褒めてくれない2人の言葉に感動して、東を振り返る。

「ほら、ほら!東さん!」

「いやー、本当にすごいなー。」

ぱぁっと明るい笑顔で東を見上げるアリス。
その様子はさながら飼い主と犬である。
東は荒船と穂刈の様子が面白くて、アリスにずいと近づき撫で回す。

「あはは!東さんくすぐったいです!」

「あはは、桐島は面白いなー。」

その様子を見て2人は歯を食いしばる。

(東さん、絶対わざとだろぉぉお!!)

(悔しいぃいいい、ホントに!!)

拳を作って震えている2人を見てやりすぎたかなと東は思い、少しはいい思いをさせてやろうかとこんなことを言った。

「そうだ、桐島。俺の隊にくるかー?楽しいぞー。」

東はアリスの頭を撫でるのをやめて、背をかがめて視線を同じ高さにする。
その発言は本気か冗談かわからなかったが、アリスは驚いて目をパチクリさせる。

「「なっ!!」」

当然驚いたのはアリスだけではない。
荒船と穂刈はつい声をあげてしまった。

「どうだ?桐島。」

そんなことはお構いなしに東はアリスの勧誘を続けた。

「ちょっと東さ…「東さん。」

思わず荒船が声をあげそうになった時、アリスが静かに言った。

「あたし今の隊好きなので、折角ですけど行けないです。」

そうやってにっこりと笑ってアリスは荒船と穂刈を見た。

「あたしまだいっぱい教わることあるので!」

満面の笑顔のアリスに不意をつかれ、荒船と穂刈は思わず顔を赤くした。
だがその時ちょうどアリスは東に振り返ったので幸いと言うか、情けないほど赤くなった顔は見られずに済んだ。

「だからまたいっぱい頑張ります!」

「…そうかそうか。頑張れよ、桐島。応援してるぞ。」

そう言ってぽすんとアリスの頭に東は手を置いた。

東には端からアリスの答えがわかっていた。
あまり荒船と穂刈には言わないようだが、アリスは2人を尊敬してるし、2人のように強くなりたいと、よく半崎とコソコソと東の元へやってくる。
わかりきっている。

アリスは荒船隊のアリスなのだ。

「よかったなー、お前ら。先輩思いの良い弟子がいてー。」

ニヤニヤしながらこちらを見てくる東に、荒船と穂刈ははめられたとようやく気がつく。

「じゃあ、東さん、また!」

「ああ、頑張れよ。」

アリスが踵を返すのと同時に2人も東に背を向けた。

「先輩達、どうかしたんですか?」

「「何でもない。」」

顔の熱がまだ引かない。
今はアリスの顔を見ることができない。

「変なの。」

自分の方を振り返らない先輩達の背中を見てアリスは笑う。

また勝負しましょうね、と笑いながら2人の後ろについて歩くと、
次はボコボコにしてやる、と返事だけはきちんと返ってきたのだった。










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2015.4.18
負けられない闘いの続きです。
最後はヒロイン勝ったバージョンです!

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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