ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


泣いてんじゃねえよ





俺がいるからな





「お腹空いたー。」

「何食べる?」

「あ、私今日お弁当持ってきてる!」

「「お弁当??」」

10月も下旬に差し掛かり、肌寒くなってきた頃だった。
だがその日は天気も良く、外で食事をするにはうってつけの気候。
アリス、月見、橘高は食事を大学のカフェで摂ることにしたがアリスはこの日は手作りの弁当を持ってきていた。
月見と橘高も食事を確保し、空いている席に着く。

「じゃじゃーん!」

「「おー。」」

自信ありげに弁当箱の蓋をあけるアリス。
するとそこにはいわゆるデコ弁の姿があった。

「すごーい!」

「このリボン何でできてるの?」

「それはハム!テレビでやってておもしろそうだったから作ってみたんだあ。」

月見と橘高は感心してしばらくアリスのお弁当を覗いていた。
そして味のほうはどんなものかと少し分けてもらって驚く。

「何これ、普通においしいんだけど。」

橘高は口をもぐもぐさせながら続ける。

「アリス、勉強も仕事もできて、料理とか家事もできて女子力高すぎじゃない?」

「納得がいかないわ。」

「そんなに何でもできないよ。苦手なものちゃんとあるってば!」

「何よ。」

「聞かせてくれるかしら?」

アリスが慌てて否定すると月見と橘高は気になったのかずいっと近づいてきた。
本当にあるのか怪しいが、あるとしたらそれはものすごく気になるところだ。
迫られたアリスは困ったような顔をする。

「えーっと、えーとねー、えーっと…。」

そうして自分にも聞こえないぐらいの声で呟いた。

「──かな。」

「「え?」」

当然月見と橘高は聞き取れない。
2人が聞きなおそうとしたその時、アリスはガタッと立ち上がった。

「洸ちゃん!」

アリスは諏訪の姿を見つけて駆け出した。
そしてそのまま諏訪に突撃するように腕に絡みついた。

「おー、アリス。月見と橘高と飯?」

結構な勢いでアリスは飛びついたように見えたが、そこは諏訪が踏ん張っていたのか何事もなかったかのようにアリスを受け止めていた。

「諏訪さん、お疲れ様でーす。」

「お疲れ様です。」

「おつかれ。」

月見と橘高が諏訪に手を振ると、諏訪もすっと手を挙げて応えた。
諏訪はそのまま腕にアリスをくっつけたままテーブルまでやってくる。

「諏訪さんはお弁当じゃないんですか?」

「バカ言うな、橘高。こいつ俺にこれと同じの持たせようとしたんだぞ?全力で拒否ったわ。」

「洸ちゃんって酷いよねー!」

そう言ってアリスは頬を膨らませたが、この場合は橘高も月見も諏訪の意見に賛同だった。
味はおいしいから嬉しいが見た目がかわいすぎる。
この大学でアリスと諏訪の関係を知らないもののほうが少ないだろう。
だがだからと言っても諏訪が1人でこのかわいらしいデコ弁を食べているのは想像しただけで痛々しい。

「あ、そうだ。」

そんな話で笑いあっていると橘高はハタと先ほどまでしていた会話を思い出した。

「諏訪さん、アリスの苦手なものって知ってます?」

「アリスの苦手なものぉ?」

何がどう言うわけでそんなことを聞かれたのか諏訪には全くわからなかったが、とりあえず諏訪は顎に手をやってうーんと唸る。
そして思い出したように顔をパッと輝かせると、隣のアリスの顔を覗き込むような姿勢をとった。

「お前実は運動苦手だよなー?特にマラソン、持久走な。マラソン大会万年ビリだったもんなー?」

笑いながら言う諏訪にアリスは怒って言い返す。

「ま、前よりは走れるよ!早くなった!」

「んなわけねえだろ、お前が早く走れるなんて。」

「洸ちゃん、意地悪だあ!」

ぽかぽかと諏訪に怒るアリスを見て橘高は笑う。
しかし月見は腑に落ちない様子だった。

(そんなこと言ったような顔には見えなかったけど…。)

月見は先ほどのアリスの顔を思い出す。

『──かな。』

もう一度アリスに聞いてみようか。
いや、きっと聞いてもアリスは二度と同じことは言わないだろう。
そこで月見は聞くことをやめてしまった。
それはアリスの心を聞く最初で最後のチャンスだったかもしれないのに。





「お前、まーだ怒ってんの?」

「怒ってません!」

その日の晩、家に帰ってからもアリスはなんとなく膨れっ面だった。
どうも昼間諏訪に走るのが遅いと言われたことを根に持っているようだった。
諏訪としては少しからかっただけなのだが、まさかこんなに拗ねられるとは。

ソファで隣に座るアリスの顔を下から覗き込んでみるが、ふいっと怒ったようにそっぽを向かれる。
怒ってないと言いながらやはり怒っているようだ。
諏訪は仕方がないなと頭をかきながら寝室へと消えていった。

「洸ちゃん?」

怒ってそっぽを向いたのは自分だというのに諏訪がいなくなると急に不安がるアリス。
ソファの背もたれに隠れるように小さくなり顔を少しだけ覗かせて様子を伺う。
すると諏訪は案外すぐに部屋から出てきた。
アリスは慌ててもとの体制に戻り、同じようにそっぽを向く。

(全部見えてるっつーの。)

諏訪はくすりと笑ってまたアリスの隣に座る。
そして拳を作ってアリスに差し出す。

「ほら、これで機嫌直せよ、アリス。」

「?」

アリスは何かと思い、諏訪の拳の下に手を添えた。
諏訪がパッと手を開くとそこから降ってきたのは先日アリスが教えたハンドメイドのストラップだった。

「これ!」

「お前の分も作った。」

それは先日家でアリスにストラップの作り方を教わった諏訪がこそこそとアリスに隠れて作っていたものだった。
堤と笹森の分を作り終えた諏訪は余った材料でアリスの分も作ることにしたのだ。

「材料あんまなかったから小さくなっちまったけどよ。」

「ううん!嬉しいありがとう!」

アリスは諏訪が送ったストラップをぎゅーっと握りしめて、ぎゅーっと抱きしめた。
そして隣に座る諏訪のほうへと体重を預ける。

「洸ちゃん、ありがとうー!」

「どういたしまして。」

諏訪はそう言ってアリスの頭をぽんぽんと撫でる。

(ホントはブレスとかがよかったんだけどなー。)

と、諏訪は少しだけ眉間にしわを寄せてアリスの腕を見た。
そこにはアリスが先日迅からもらったというブレスレットが光っていた。
アリスはあれからご丁寧に毎日これをつけている。
そして本部で迅に会うたびに気に入っていると笑いかけている。
それを考えると迅のより俺のにしろと言いたくなるが、あいにくそんなことを言える関係でもない。
それにアリスはそういうのを嫌うだろうし、諏訪としても迅をないがしろにしているようで嫌だった。

「これずーっと握ってようかな。」

アリスは諏訪のストラップを握る手を少しだけ開けて中を覗き込みながらそんなことを言う。

「普通に端末につけろよ。」

とは言うものの、アリスのさっきの言葉が嬉しすぎて思わず顔がにやけそうになるのは内緒の話だ。





その日の晩、アリスはふと夜中に目を覚まして布団から抜け出した。
喉が渇いたのでとりあえず水を飲んだのはいいが、目が覚めてしまって眠れそうにない。
そんなアリスの目に飛び込んできたのは以前に諏訪からもらった写真立てだった。
アリスは写真立てを持ってソファに座る。

「かわいいなあ、この写真立て。」

ボソリと呟くような独り言が1人きりのリビングに響く。
アリスは写真に写る諏訪をそっと撫でた。

三門市に帰ってきてから、諏訪に再会してから毎日が楽しくて仕方がない。
仕方がないはずなのに時折この心の底にドロリと何かがたまる感覚はなんなのだろう。
アリスはそれがわからなかった。

それに昼間月見と橘高に答えたあの言葉。

『──かな。』

自分でも何故あんなことを口走ったのかわからない。
どうしてそんな言葉がポロリと口から出てきたのか。

「愛情、か。」

アリスはふと脳裏に父親と母親の顔を浮かべたがそれをすぐに振りほどく。
もう自分には父親も母親もいないも同然なのだ。
いや、向こうがどう思っているかはわからない。
もしかしたら今まで通りアリスのことを愛してくれているのかもしれない。

「わかんないや。」

アリスはそう言ってソファの上で小さくなって膝を抱える。

わからない、ワカラナイ。

思い浮かんでは消えていく父と母の笑顔。
今まで過ごしてきた日々は何だったのか。
今ある日常は本物なのか。
月見は、橘高は、嵐山は、迅は。

諏訪は。

アリスはそんなことを考えてしまう自分のことが嫌いだった。

「最低だよ、私。」

アリスはそんなことを考えながらいつのまにかそのままソファで眠ってしまっていた。





「あっち。」

明け方、今度は諏訪が暑さに目を覚ました。
もうすぐ11月だというのにこの暑さは何なのだ。

「? アリス?」

諏訪も喉が渇いたと水を飲もうと起き上がると、隣で寝ているはずのアリスの姿がない。
もうそんな起きる時間かと思って時計を見ると、まだ時刻は5時過ぎ。
アリスは早起きのほうだが、いくらなんでもこんなに早起きはしない。

「どこ行きやがった。」

諏訪は起き上がるとあくびをしながら部屋を出た。
そしてリビングのソファで丸くなっているアリスを発見する。

「何でこんなところで寝てんだ、こいつ。」

アリスを起こそうと手を伸ばした時、諏訪はアリスの目に光るものを見た。
それは紛れもなく涙だった。

(泣いてたのか?)

諏訪はアリスを起こさないようにその目尻に浮かんだままの涙をすくい取る。
そして先日東に言われたことを思い出した。

『自分に向けられた愛が本物なのか信じられない。』

諏訪にはアリスが何故泣いているのか、握りしめている写真立てと東の言葉で大体検討がついた。

「いつまでも待ってるからな。」

諏訪はそう言ってアリスの髪を撫でる。
そしてアリスを抱き上げると再び寝室に戻っていった。










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2019.06.10
諏訪さん連載31話目更新です。
いやー、31話ですよ、31話。
何度も言いますがまさかこんなに長くなるとはっ!

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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