ワールドトリガー 夢小説 | ナノ


どうすりゃいいか、おしえてくれよ





いつまでだって待ってやるさ





「で、俺を頼ってきたのか?」

ある日の晩、諏訪は東と焼肉屋にいた。
珍しく2人だけで囲む卓はいつもの賑やかさに比べるとそれは寂しいものだったが、諏訪はどうしても東と2人でなければならなかった。

「そう、ッス。」

東の少し呆れたような、困ったような言葉に諏訪は頬を少し赤くしてプイッとそっぽを向いた。

「お前それはもっと別の相手に相談したほうがよかったんじゃないか? 風間とか加古とか…。」

「あいつらに相談したら笑われるに決まってるじゃないですか!」

今回のこの2人だけで設けられた席は諏訪が東に声をかけたことから始まった。
相談がある、そうやって神妙な顔で言われたら、東に断る理由はなかった。
東は自分に言ってくるぐらいだから何かしら部隊のことで悩んでいるのかと思ったのだが、蓋を開けてみるとそんなこととは全然違っていた。

「アリスとの関係を、ねえ。」

「言い直さないでくださいよ、恥ずいんで。」

先日月見の謀略によりアリスと映画デートに行ったことがきっかけで諏訪が気がついたこと。

自分はアリスに”好き”という一言を言っていないということ。

隣で眠るアリスに向かって何度か練習を試みたが、気恥ずかしくて練習でさえもまともに言えない。
いや、例え練習がうまくいったとしても今更どうやって切り出せばいいかわからない。
女性と付き合ったことはあるが、ここまで真剣になったことはないし、もともと恋愛なんて向いていないのだ。

困り果てた諏訪は恥を忍んで誰かに相談しようと腹をくくったが、それにふさわしい人間は周りにはいない。
結果1番信頼の置ける東に相談をしようと思ったのだ。

「俺は敵の心理はある程度よめても、乙女心は読めんぞ?」

「うまいこと言っても何もないッスよ!」

諏訪は烏龍茶のグラスをダンとテーブルに置く。
焼き肉に来てビールを頼まないだなんて。
酔った勢いで、なんてことにならないようにしているんだろう。
それほど諏訪は真剣だということだ。

「うーん。」

それに応えて東も烏龍茶だ。
東もそんなにモテるわけでもないし、恋愛豊富なほうでもない。
だから本当にアドバイスを求められても困るというところはあった。

「…。」

それでもことアリスのことに関しては以前から感じていることがあった。
これを諏訪に伝えるかどうかもずっと悩んでいた。
しかし諏訪がようやく重い腰をあげて──本人は腰が上がっていると思っていたようだが──アリスに向き合おうとしているのだ。
だったら応えてやろう、東はそう思った。

「諏訪、アリスの両親のことなんだが…。」

「え?」

東は突然アリスの両親の話をし始めた。
諏訪はそれにドキッとする。

「離婚したんだろ?アリスが日本に帰って来る前に。」

「何で知って…。」

諏訪はそんな話をされるとは思っていなかったのでなんだか変な汗をかいた。

アリスの両親は今年のはじめごろに離婚した。
とても仲の良かった2人。
そんな2人が突然離婚をすると聞かされて、アリスはそれがショックで2人から離れたかった。
そして諏訪がいるかもしれないという一縷の望みをかけてこの三門市に戻ってきたのだ。

「すまん、お前が根付さんと話をしているところにちょうど通りかかっちまってな。」

それは先日のネイバーの侵攻の後。
アリスが自分の家に住むことになった経緯を諏訪が根付に説明をしているところだった。
本当ならアリス本人が手続きなどいろいろとしなければならないんだろうが、アリスは両親とそういうかんじだ。
あまり連絡を取らせたくないと感じた諏訪は実はアリスに黙って、アリスの両親と手続の関係などで連絡を取っていたのだ。
そしてそれを根付に報告していた。

「そうなんスね。」

「悪いな。立ち聞きするような内容ではないと思ったんだが。」

「あ、いや、いいですよ。アリスに言わないでくれてありがとうございます。」

諏訪のグラスの氷がからりと音を鳴らす。
少しの間沈黙が続いた。

「アリスはご両親の離婚のこと、かなりトラウマになっているんだろ?」

「そう、スね。」

そうして東はようやく話始めた。

「アリスはおそらく男女間の愛情というものが信じられないんだと思うんだ。」

東はそう言って烏龍茶を喉に流し込んだ。

「俺から見ているとアリスはお前と一線を引いているように見える。」

「えっ!?」

「あ、別に避けてるとかそういうのじゃないぞ。多分アリスも無意識の内なんだと思う。」

空になったグラスをテーブルの隅によせ、店員の呼び出しボタンを押す東。
それを見て諏訪も残りすくなかった自分のグラスの烏龍茶を飲み干した。

「大好きだったご両親が自分の知らないところで仲違いをしていてついには離婚。
生まれてから19年間そばにいたはずの親は実は愛も何もなかった。ずっと一緒にいたのにアリスにはそれがわからなかった。」

「…。」

アリスの両親がいつから不仲だったのかどうか、それはアリスにも諏訪にもわからないことだった。
諏訪がアリスの両親に連絡をした時既に2人は別々に住んでいた。
そして諏訪がそれぞれに連絡した時、少なくとも2人はその話には一切触れなかった。

『洸太郎くん、すまないね。アリスが世話になって。』

『アリスのことしばらくお願いね。』

自分に対しても何ら変わらなかった2人。
ただアリスのことを心配していた2人。
あまりに変わらない2人に、実際に話をした諏訪にも真実はわからなかった。

「アリスは無意識に恋愛という感情に蓋をしてしまっている。自分に向けられた愛が本物なのか信じられない。またもし自分が誰かを好きになった時にその自分の中の愛が本物なのかも信じられない。」

呼び出しボタンでやってきた店員に東は再び烏龍茶を注文する。
諏訪はメニューを少し見た後、やっぱり同じ烏龍茶を頼んだ。

「だがお前との幼馴染という関係性は別だ。そこにはアリスの中で恋愛はないが親愛が存在しているんだろう。そして親愛であればいわゆる友情の延長線上なのだから、男女間の愛のように疑わなくて済む。だからアリスは恋愛に関する思考をしないように無意識に蓋をしてしまっているんじゃないだろうか。」

「アリス…。」

アリスの中で両親の離婚が傷になっていることを諏訪はきちんとわかっていた。
あんなに大好きだった親から遥か遠くに離れ、写真も1枚も持ってきていない。
どんな非常時に陥っても電話どころかメッセージのやりとりさえしない。

その傷は諏訪が思っていた以上に、異常なほどにアリスを苦しめていた。

「お前がきちんとアリスに向き合おうとしていることはすごく良いことだと思う。でもな、アリスの場合はもう少し時間がかかるのを覚悟したほうがいい。」

そこまで言って東は諏訪に頭を下げた。

「悪いな、夏の旅行の時散々煽っておいて今度は待ってやれだなんて。」

東は夏に皆で旅行をした時に諏訪とアリスがなかなかくっつかないので発破をかけていた。
諏訪は慌てて顔の前で手を振った。

「いや、そんな。謝ってもらうようなことじゃないッスよ。むしろアドバイスありがとうございます。」

今度は諏訪のほうが東に深く頭を下げた。
それに東はクスリと笑う。

「悪いな。まあ、お前なら待ってやれるだろ?」

「ま、待てるの俺ぐらいでしょうし。」

今度はにっこりと笑う東に、諏訪はそうやって笑い返した。

話の区切りがついたところに店員が烏龍茶を持ってやってきた。
東はそれを一気に飲むとすぐに新しく、今度はビールを2個注文をした。

「まあ、俺も男だ。お前の気持ちはよくわかるぞー。というかよく一緒に住んでいてそこまで理性保てるな。」

「俺はこれでも理性的なキャラなんですよ!」

諏訪も東と同じように烏龍茶をグイッと一気に飲み干した。

「東さん、ありがとうございます。」

「いいよ。応援してる。さ、肉食べよう、肉。」

「そうッスね!」

そうして諏訪と東は遅くまで焼き肉を楽しんだ。





「たらいまー。」

「おかえりー!」

諏訪はアリスが来てからは珍しく、デロンデロンに酔っ払って帰宅した。
時刻は既に0時を回っていたが、諏訪が呂律が回っていない口で帰宅を告げると奥から返事があった。

「アリスー?」

「はーいー?」

玄関に突っ立ったまま諏訪がアリスの名前を呼べばアリスはひょっこりとリビングから顔を出して玄関までやってきた。

「うわー、お酒臭い!洸ちゃんどんだけ飲んできたの!」

「俺は酔ってねえぞー!」

諏訪はそのままアリスにばさりと倒れかかる。

「わっとっと。」

急に体重を預けられてアリスはそのまま後ろに倒れ込みそうになるがなんとか持ちこたえる。

「ほらー、お土産ー。」

諏訪は半分目を閉じながらコンビニのビニール袋を見せようとする。
だが、諏訪にもたれかかられているアリスからは中身が見えない。
見たこともないぐらい酔っ払ってる諏訪にアリスは笑った。

「ありがとう、洸ちゃん。ほら、せめてソファまで歩いてー!」

「ういー。」

アリスは諏訪を引きずるようにリビングに連れいてくとそのままソファに寝転がらせた。
諏訪はなされるがままにゴロンとソファに転がる。

「うーん。」

「洸ちゃん、水いる?」

「うーん。」

最早半分眠りかけの諏訪にアリスは水を淹れてやった。
だが諏訪に差し出しても案の定半分寝ていて飲みやしない。
こんな状態でよく帰ってこれたなと不思議に思える。

アリスはテーブルに置いた諏訪の持っていたビニール袋の中身を確かめた。
するとアリスがよくコンビニで買うプリンが入っていた。
しかしどう持って帰ってきたのか傾いてしまってプリンはほとんど崩壊していた。

「もう、洸ちゃんってば。」

アリスは諏訪に毛布をかけて、ソファのまえに座ると諏訪のお土産のプリンを食べ始めた。
食べながらたまに様子を見るように後ろで寝る諏訪を振り返る。
諏訪はソファに寝かされており、床に座る今のアリスとは目線が同じだ。
グーグーとだらしない顔で眠る諏訪の頬を時折ツンとつつきながら、その度にアリスは笑った。

「うーん、アリスー。」

諏訪は寝ぼけながらアリスの名前を呼ぶ。
どうも夢の中でも自分は諏訪と一緒にいられるようだ。
アリスはそれを嬉しく思いながら返事をしてみた。

「なーにー?」

諏訪は寝返りを打ってこう言った。

「俺がいてやるからなー。」

「!」

諏訪にとってはそれはただの寝言で翌日覚えていないだろう。
だがアリスはそれでよかった。

「うん。ありがとう、洸ちゃん。」

アリスは少し切なそうな表情を浮かべると、諏訪にそう返事をしてその癖のある髪の毛を撫でた。
そして自分も寝ようと寝室に向かうのだった。










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2019.05.14
諏訪さん連載30話目更新です。
30話目とか!誰だ最初に10話ぐらいで終わると思ってたの!

※お返事不要の方はお申し出お願いします。


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